「どうしよう遠野君……大ピンチだよ、わたし」

なんですって?

「ちょっと貴方。今遠野とか言いませんでしたか」
「え? あ、え、ええとその……ごめんなさいっ!」

踵を返して駆け出すツインテール。

「ちょ、待ちなさい! 詳しく説明してもらいますよっ!」
「ちょっと妹。そっちだと引き返すことになるわよ?」
「構いませんっ! 兄さんの女性関係の方が重要ですっ!」
「……なんか矛盾してない?」
 

アルクェイドさんのツッコミは無視して、私は全力でそのツインテールを追いかけるのでした。
 
 

「ダウンタウン月姫物語」
その5






「うわぁん追いかけて来ないでぇ!」
「あなたが逃げるのをやめたら追うのをやめますよっ!」
「や、やだぁっ! 怖いもんっ!」

倉庫の中を走り回る私たち。

「よくやるわねえ」

アルクェイドさんはただ眺めているだけでした。

「ちょっと! 手伝ってください!」
「あれ? わたしはいらないんじゃないの?」

にやりと笑うアルクェイドさん。

「……もういいですっ! 食らいなさい檻髪っ!」
「うわああっん!」

泣き叫びながらも檻髪の追跡をかわすツインテール。

「た、助けてえっ!」
「あっ!」

ツインテールは壁に開いた穴から外へと抜け出していってしまいました。

「待ちなさい!」
「ちょっと妹。まだ追うわけ?」
「当然です!」
「はぁ……しょうがないなぁ」

その穴を続けて抜ける。

「い、イタイっ! 日光チクチクするぅっ!」

ツインテールは晴天だというのに何故か雨合羽を着ていました。

さっきまで着ていなかったのに。

あれで変装でもした気なんですかね?

「待ちなさいっ! 逃がしませんよっ?」
「うわああっ! まだ追ってくるのっ?」
「当たり前です! とっ捕まえて洗いざらい話してもらいますよっ!」
「わ、わたしはほんとにただの一般市民で、事件とは関係ないんですっ!」
「嘘を仰いなさい!」

花園大橋を通り抜け、桜町を通り抜け、乾さんと出会ったところを通過。

「ああもう! これじゃ振り出しに戻ると同じじゃないですかっ!」
「だ、だったら引き返してよぅ! わたしなんて追って来てもいいことないよっ?」
「ここまできたら意地です!」
「ガンコねえ、妹」
「あなたも手伝わないならついてこなくて結構ですよっ!」
「うふふふふふ」

まったく何を考えてやがるんでしょうかこの人はっ。

「……こ、こうなったら……」

急ブレーキをかけるツインテール。

「?」

私は一瞬身構えました。

「邪魔しないでぇっ!」

どっごーん!

「ちょ、ちょっ……きゃ、きゃーっ!」

ツインテールの打撃で激しく揺れる地面。

「ご、ごめんなさいっ! それじゃっ!」

たったったった……

「こ、この! 待ちなさい! 止まりなさい!」
「あーあー。逃げてっちゃうね」

私の傍には平然と立っているアルクェイドさんが。

「追いなさい! 今すぐ!」
「えー? わたし必要ないんでしょ?」
「……くっ」

仕方ありません。ここで変な意地を張っていたらあのツインテールを逃がしてしまいます。

「訂正します。今はあなたの力が必要です。お願いします。追ってください」

私がそう言うと満面の笑顔を浮かべるアルクェイドさん。

「ありがと妹。じゃ、いっくよー!」
「え、ちょ……」

私の腕を掴むアルクェイドさん。

ひゅんっ!

次の瞬間私は宙に浮いていました。

「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!」
「何よ。飛んだほうが相手の動きがわかるでしょう?」
「わ、私は人間なんですよっ?」
「大丈夫よ。妹なんだから」
「せ、説明になってません!」

思わずアルクェイドさんに抱きついてしまう。

むぎゅ。

手の先になんだかものすごく腹立たしい感触が。

「うわ、妹ってもしかしてそっちのケがあるの?」
「ありませんっ! だいたいこんな不愉快なもの触りたくて触るわけないじゃないですかっ!」
「そう? 志貴は喜んでたけど?」
「な……っ! ちょ、詳しく話しなさい!」
「わ、ちょっと暴れないでよ……きゃあっ」
「えっ」

バランスを崩すアルクェイドさん。

「そ、そんなえええーっ?」

ちゅどーん!

マンガみたいな爆風と共に私たちは地面に落下してしまいました。

「い、いたた……」
「は、はぁ……はぁ……危なかった……」

とっさにアルクェイドさんを盾にしたからよかったものの、か弱い私の体に傷がついたらどうしてくれるつもりだったんですかっ!

「酷い妹。人を踏み台にしたわね」
「き……気のせいですよ」

慌てて目線を逸らせる私。

「……あ」

その目線の先には、公園と、そこへ駆け込んでいくツインテールの姿がありました。

「アルクェイドさん。ツインテールを見つけました。追いますよ」
「いいかげんしつこいわね、妹も」
「粘り強いと言ってください」

私たちも公園内へ。

「……なんだか暗いですね」
「木が多いからじゃない?」

花園公園はうっそうとした木々に囲まれていて、一部は太陽の光もほとんど差し込んでこない状態でした。

「さて、ツインテールはどこにいるんでしょう……」
「あ。今あそこの中に入ってった」
「……あそこの林ですね」

林の中に入るとふっと空が暗くなってしまいました。

「いくらなんでも木の生やしすぎじゃないですかね」
「公園ってそんなもんじゃないの?」
「まあ、それはそうなんですけれど」

花園公園は児童向けの明るい場所とカップル、年配向けのシックな場所があるのです。

林はシックなほうに分類されます。

「……むしろダークって感じですがね」
「ん? 何か言った?」
「何でもありません」

なんだかオバケでも出そうな雰囲気です。

かさ……、かさ。

僅かに聞こえる木々のざわめき。

がさがさがさっ!

「な、なっ?」

カァー、カァーカァー……

「……なんだ、カラスですか……」
「あはは、妹びっくりしてた」
「い、意表をつかれたせいですっ!」

進めど進めどツインテールの姿はあらず。

「本当にこっちに来たんですか?」
「間違いないと思うんだけど……」

かさ……、かさ。

再び木々のざわめきが。

「……今度は何が出ても驚きませんよ」
「ほんとに?」
「本当ですっ!」

がさっ!

「……待っていましたよ。秋葉。ほう、珍しい方を連れているのですね」
「え……? シ、シオン?」

そこにいたのはかつて知り合ったシオンという子でした。

「子音?」
「……シオン・エルトナム・アトラシアです」

アルクェイドさんのボケにむっとした顔で名乗るシオン。

「そうそうそれそれ。どうしたのよあなた。タタリはもう倒したでしょ。帰ったんじゃなかったの?」
「わたしは教会から追われる身ですから。そう簡単に動くわけにはいかないんです」
「……ふぅん」

私としてはもっと別の意味があるような気がする。

「何か言いたげですね、秋葉」
「色々聞きたい事はありますが……ここにツインテールの女が来ませんでしたか?」

とにかく、今はそれが最優先事項です。

あの女、なんとなく今の内に潰して置かないと後が怖い気がしますので。

「いえ? 来ていませんが?」
「隠していませんよね」
「わたしにそのような事をするメリットがあるのですかね?」
「……」

確かにあの女とシオンの接点はないような。

「……わかりました。結構です」
「あれ、諦めが早いのね、妹」
「あの女は気付かれないように尾行をと言っていました。どうせまた私たちを追って来るでしょう」
「だったら追わなきゃよかったのに」
「黙らっしゃい。とにかく行きますよ」
「はいはい」

私たちは踵を返し、再び進路を……

キュンッ!

「……?」

進もうとすると、私のすぐ横を何かが通り過ぎていきました。

「ちょっとあなた……何するのよ」

そして振り返ると、その正体がわかりました。

シオンが私に銃を向けていたのです。

「ここであなたたちに帰られると困りますのでね」

銃を腰に戻し、エーテライトをムチのように構えるシオン。

「やる気だっていうの?」
「ええ。あなたたちもわたしの通り名を聞いたら嫌でも戦いたくなりますよ」
「通り名……?」

ぴしっ!

シオンは地面にエーテライトを打ちつけ、こう叫ぶのであった。
 

「わたしは冷峰四天王の一人シオン! さあ、かかってきなさい!」
 

続く


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