「それより冷峰四天王の事を考えましょう。四天王と言うからにはあと三人はいるんでしょうし」
「そいつらを倒しながら進んで行くって事?」
「そういうことですね」
「ふーん。ちょっとは手ごたえありそうな感じね。次出てきたらわたしが戦ってもいい?」
「好きになさって下さい」

今回の戦いでわかりましたけれど、お嬢様の私が戦う必要なんてなかったんです。

この人が勝手についてくるのであれば、この人に戦って貰えばいいだけ。

そして最後の最後だけ私が倒し、兄さんに褒めて貰う……と。

完璧なシナリオです。

「えへへ、なんだかワクワクして来ちゃった」
「そうですね、うふふふふふ」
 

さあ、早く出てきなさい次の冷峰四天王!
 
 


「ダウンタウン月姫物語」
その7








「今回はいやに順調に来たわね」
「そうね……一体どうしたんでしょう」

私たちは引き返してしまったマルカ運送廃ビルまでの道のりをもう一度進んでいました。

しかし不思議な事に、不良たちやチラシに騙された人の邪魔は一度も入ってこなかったのです。

「……見るからに不良という方が歩いているというのに」

廃ビルの付近にはリーゼントとか言う今時数少ない髪型の人たちがたむろっていました。

知識の少ない私でもあれは不良だと認識出来ますね。

「わたしたちより重要な事が出来たんじゃないの? よくわかんないけど」
「ふーむ」

まあ、襲われないに越した事はないんですが。

「何か引っかかるんですよね」

不良たちもどこか落ち着かないと言うか緊張していると言うかそんな感じで。

「……っていうかわたしたちの周り、不良だらけじゃない?」
「確かに……」

リーゼントは流石に少ないですが、茶髪、ロン毛、ピアス、改造バイクその他諸々。

いくら廃ビルだと言ってもおかしい気がします。

「こんな場所通らなきゃよかったかもね」
「別に私たちに関わってこないなら関係ないでしょう」

もし襲われても最大級の檻髪を発動して……

「あれ? 秋葉ちゃんじゃないか」
「食らいなさい檻……って乾さん?」
「おう、乾有彦さんだ」

私に声をかけてきたのは先ほど花園高校へ向かうと言っていた乾さんでした。

「どうしてこんなところに?」
「……いや、知り合いの付き合いでさ。来たくはなかったんだけどよ」
「なんだ。知りあいってやっぱり不良だったんじゃないの」

ギロリ。

「ちょ……アルクェイドさん」

不良に向かってお前不良だろうなんて言うのは、ケンカを売っているのとほとんど同義です。

「やめとけお前ら。彼女らは俺のツレだ。手だしたら承知しねえぞ」
「へ、へいっ」

乾さんが睨みをきかすと周囲の不良たちはそそくさと退散していった。

「……乾さんって凄いんですね」

兄さんの知り合いの人という認識しかなかったのですけれど。

裏の世界では結構な実力者だったのでしょうか。

「いや、まあ知り合いの権力が強いってーかなんてーか……」

苦笑いしている乾さん。

「とりあえず彼といれば周りの不良を心配する必要はなさそうねぇ」
「彼ってそんな堅苦しい。有彦で結構ですよ美人のお姉さん!」

どげし。

「イッダアアアア!」
「あらすいません乾さん。ついうっかり足が滑って」
「い、いや大丈夫ですよ、ええ。アタタ……」
「妹こわーい」
「お黙りなさい」

本当はアルクェイドさんの足を踏みつけてやりたかったのですけれど。

うまくかわされてしまいました。

「どうです乾さん。この廃ビルを抜けるまで私たちの護衛をしていただけないでしょうか」

少なくとも今は乾さんといたほうが安全そうです。

「え?」

乾さんは一瞬喜んだ顔をしたものの、すぐに首を振ってその考えを打ち消したようだった。

「いや、ほんとは一緒にいたいんだけど、別件の用事があってさ」
「そうなんですか」

あの乾さんが珍しい。

「大丈夫。こいつら顔はコワモテだが根はいいやつらだからさ」

そう言って乾さんが一人の方を指差すと、その人はにかりと欠けた歯を見せて笑ってくれた。

なるほど、確かに琥珀のような黒い笑顔じゃない。

「わかりました。すいません無理を言ってしまって」
「いやいや。こっちこそ悪いね。じゃ、また」

乾さんは慌てた様子で去っていってしまった。

「何か変ね」
「それはこの廃ビルに来てからずっとですよ」

なんていうか全てがぎこちない感じ。

周りの不良も乾さんも、空気全体が違和感だらけ。

「……間違いなく何かがあるんですが」
「まあ進んで行けばわかるんじゃない?」
「だといいのですが」
 
 
 
 

「ふう……」

ようやく廃ビルの傍を抜け、小さな林が現れました。

「ここを通り抜ければ次の町のはずです」
「ふーん、そうなんだ」
「ええ。さっさと抜けてしまいましょう」

木々の間を進むと、巨大な壁が。

「……お。来たな」

そして小さなブロックの上に女性が座っていました。

「どちらさまです?」

何故かどこかで見たような印象のある人ですが。

「いや、まあ色々通り名はあるんだけどね……」

火もつけていないのに咥えタバコ。

果たして意味はあるんでしょうか。

「まあ、とにかくこのあたしと勝負してもらおうじゃないか」
「……冷峰の刺客ということですか?」
「その通り。冷峰四天王。通称赤い流……もとい、かっとびの一子」

そう言って格闘技のような構えを取るかっとびの一子さん。

ネーミングセンスは悪いですが、なんとなく実力がありそうな感じです。

「ねえ妹。冷峰四天王が出てきたら次わたしが戦っていいのよね?」
「え? あ、はい。そうですが」

そういえばそうでした。

今回はアルクェイドさんが戦ってくれるのです。

私は見ているだけ、楽な展開です。

「お願いできますか」
「あんたがやるのかい? まあお嬢さんよりは手ごたえがありそうだな」
「む」

一子さんには私は弱いと思われているのでしょうか。

「す、好きになさってください」

けれど我慢我慢。

私がわざわざ戦う必要なんてないのです。

「わたしの知り合いで似たような動作ですんごい強いのがいるのよ」
「ほうほう?」
「それでね、あなたと同じような構えなの。練習になりそうだわ」

そう言ってやたらと楽しそうに笑うアルクェイドさん。

「練習ね……返り討ちにされなきゃいいけどな」

一子さんも同じように笑っていました。

「……まるで少年漫画ですね」

私には理解出来ない世界です。

「いざじんじょーに……」
「……勝負っ!」
 

そして二人の戦いは始まりました。
 

続く


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