「……じゃ、そういうことでそろそろ行くわ。なんかしらんがあたしのファンとかいうのが集まってるみたいだしさ」
「ファ、ファン?」
「おう。弟に会場の準備はさせてるから大丈夫だとは思うが。出来てなかったら半殺しだな」

誰だか知りませんが弟さんは大変そうですねえ。

「じゃー、またな」

こうして一子さんは去って行きました。

「結局謎のまま去っていったわね」
「……何者だったんでしょう」

タダモノではないというのは間違いないのですが。

「案外あの有彦とかいう人のお姉さんだったりしてね」
「まさかそんな、あり得ませんよ」
 

いくらなんでも……ねえ?
 
 


「ダウンタウン月姫物語」
その9











「ようやく緑町へ入りましたね」
「ただの空き地だけど?」
「……そこに書いてあるでしょう。緑町と」
「あ。ほんとだ」

端っこではありますが緑町ということには間違いありません。

「あとどれくらい進めばいいのかな?」
「緑町には緑町商店街と星の丘東商店街があります。そこを越えた先が夢見町。そこに冷峰学園があります」
「ふーん。割と近づいて来た感じね」
「邪魔が入らなければすぐなんですけどね……」

私は身構えました。

「そう簡単にはいかないわね」

ザッザッザッ。

私たちを取り囲んだのは謎の黒ずくめの男たち。

「……また映画にでも出てきそうな連中ねえ」
「あなたたち、何者ですか」
「……」

返事はない。

「仕方ありませんね。少し痛い目を見てもらいますよっ!」

私は周囲の地面を覆うように檻髪を発動させた。

「うわ、いきなり発動させないでよっ」

ブロック塀の上に逃げてしまうアルクェイドさん。

「ち」

あわよくばアルクェイドさんもしとめたかったのですが。

「な、なんだこれはっ? うわああっ!」
「ひぇ〜っ!」
「助けてくれ〜!」
「うふふふふふ……」

檻髪の範囲内にいる人間の力は全て略奪することが可能です。

数秒で黒ずくめの男たちは全て地面に倒れてしまいました。

「ふん。他愛のない」
「容赦ないわねえ……」
「不良の方々はまだ可愛げがありましたが、この人たちは有無を言わさず狙ってきたでしょう?」

実力は冷峰四天王とまではいかないでしょうが、彼らも雇われて私を倒しに来たということなんでしょうね。

「妹の戦いかたってなんかずるいわよね。もっと直接的なダメージで倒したほうがさっぱりしない?」
「勝ち方などどうでもいいんですよ。大切なのは結果です」
「あっくにーん」
「……落ちなさい」
「うわ、こわーい」

私の放った檻髪をあっさりかわしてくれるアルクェイドさん。

「……っと、妹。バカやってる場合じゃないわ。立ってるやつがいるわよ」
「え?」

私の檻髪を受けて無事ですって?

視線をそちらへ向ける。

「なっ……!」

そこにいたのは信じられない男でした。

「ほっほっほ。おひさしうごさいますな、秋葉さま」
「久我峰……! 何故あなたがここにいるの!」
「誰?」
「知らなくて結構です!」

この男の顔を見ただけで虫唾が走る。

「おやおや。元許婚になんたる口の聞き方。関心しませんねぇ」

にやりと気持ち悪い笑いを浮かべる久我峰。

「え? 許婚だったの?」
「とっくの昔に撤回されたでしょう?」
「そうですな……いや、実にあれは辛かった……」
「……何が目的なんですか」
「ほっほっほ」

ずんぐりとした腹を押さえて笑う久我峰。

「いや、聞けば藤堂のお坊ちゃんも見合いを断られたと言うではありませんか。この久我峰。同じような気持ちを味わった同士として協力しようと思いましてな」
「藤堂の……やっぱり黒幕はアイツだったのねっ?」

見合いを断ったくらいでこんな事件をしでかすなんて。

なんて器の小さい男っ!

「おっと口が滑ってしまいましたね。まあ問題はありません……冷峰四天王の一人、久我峰斗波が相手をするのですからな」
「れ、冷峰四天王っ? あなたが?」

先のシオン、一子さんは四天王の名に恥じない強さでした。

「……この太ったおじさん、そんなに強いの?」

アルクェイドさんが首をかしげていた。

「おや……これはこちらの娘さんもたまらんプロポーションですな。わたしが勝てばあなたたちを好きにしてもいいとのこと……ほっほっほ」

ぞぞぞぞぞ!

背筋に寒気が走る。

「い、妹。コイツやだ」
「珍しく同意見ですね。……さっさと倒しますよっ!」
「かかってきなさい!」
「せやあっ!」

そのでぶでぶとした腹に思いっきり蹴りをぶちかましてあげます。

「ああっ……たまりませんなっ。もっと激しく!」
「い、いやああああっ!」

全身に鳥肌が立ってしまった。

「ア、アルクェイドさんっ! あなた戦ってくださいっ」
「……わ、わたしだって嫌よ」
「ほっほっほ。どうですかこのマゾディフェンスの威力は。叩けば叩かれるほど悦ぶのがわたし。あなたたちの攻撃は通用しないのです!」
「……っ」

最悪です。

本当にこいつは史上最悪の男です。

「そ、そうよ妹。触らないで略奪すればいいじゃないっ」
「……嫌です! こんな男から奪いたくありませんっ!」

久我峰から吸い取ったものは私の糧になってしまうのですから。

それだけは絶対に嫌です。

「手詰まりですかな? ほっほっほ。ではこちらから攻撃をいたしますよ」
「っ!」

慌てて両腕で胸をガードする。

「……妹、そこガードしても無意味だと思う」
「どういう意味ですかっ!」
「ほっほっほ……」
「?」

久我峰はにやにやと笑っていて攻撃を仕掛けてくる様子がない。

「秋葉さまのブルマ姿……たまりませんなぁ」

おぞぞぞぞぞぞっ!

「ななななな、何を想像してやがるんですかっ!」
「そちらのお嬢さんのバニー姿もそそりますね、ふふふふふ」
「うわぁ、やだ、やだあっ……」

怯えるアルクェイドさん。

「どうですか、わたしの目の力は! これぞまさに直淫の魔眼!」
「こ、このっ……!」
「うほっ、秋葉さまなんて大胆なポーズをっ」
「……っ!」

駄目だ。この男の言葉は生理的に受け付けない。

このままでは精神的なダメージだけで力尽きてしまいそう。

「どうしましたか? おしまいですか?」
「……っ」

打つ手なし……?

「さて、秋葉さまばかり可愛がっても不公平ですな。そちらのお嬢さんも可愛がってあげましょう」

くるりと視線をアルクェイドさんへ向ける久我峰。

「や、やだあ、来ないでっ!」

あのアルクェイドさんとあろうものが、完全に無力と化しています。

多分あの人はこういう精神攻撃に免疫がないのでしょう。

「こわくないですぞ……げへへへへ」

一歩一歩アルクェイドさんへ近づいて行く。

「いやーっ!」

アルクェイドさんは地面の石を久我峰へと投げつけた。

「はごおっ!」

吹っ飛ぶ久我峰。

「やだぁっ! 志貴助けてっ! やだやだやだああっ!」

どかばきごすめきごきゃ。

ああ、久我峰の体がボロゾーキンのように。

「……まあ自業自得ですよね」

なるほど触るのも嫌な相手には飛び道具が一番です。

「あっちいって、ばかーっ!」
「な、ちょ……!」

どぎゃーんっ!

「……死んだかもね」

最後にアルクェイドさんが投げつけたのは十数キロはありそうな土管でした。

「来ないでっ! いやーっ!」
「アルクェイドさん。もう終わりましたよ」
「やだーっ! ……って……終わった?」
「ええ。あなたのおかげですね」

今回ばかりはアルクェイドさんに感謝です。

「そ、そっか……よかった」

安堵の息を洩らすアルクェイドさん。

「……これで四天王はあと一人ですね」

黒幕もはっきりしたことだし、後は迷う事なく冷峰学園へ突っ込むだけです。

「今度はまともな相手がいい……」
「……私もそれを望みます」
 

次はどうか普通の相手でありますように。
 

続く


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