「あ。でも志貴さんは別ですよ? 志貴さんは特別ですからね」
「え」

それは一体どういう意味なんだろう。

「じゃ、次は遠野の番だな。俺はななこの代わりにやっちまったし」
「うう、すいません……」

有彦とななこさんには琥珀さんの囁きは聞こえなかったようだ。

「はい。志貴さんどうぞ」
「あ、うん」
 

なんだか琥珀さんの手が妙に暖かく感じるのであった。
 
 




「乾家に遊びに行こう」
その10






「よしっ……クリアだ」
「何の盛り上がりもなく終わってしまいましたね」
「しょ、しょうがないだろ」

俺が選んだのは四字熟語の問題。

これだけは昔から得意だったのでストレートでクリアしてしまったのだ。

「まあ遠野らしくはあるな」
「どういう意味だよ」

思わず苦笑してしまう。

「ええと次はななこさんだっけ?」

コントローラを渡そうとした途端、画面が暗転した。

「な、なんだ? バグか?」
「いや、これは……最終ステージって事だよ」

画面にだんだんと今までと全く違う、お城の内部のような光景に変わった。

そして派手派手なBGM。

「いかにもって感じだな……」
「ですねー」

主人公タイガーがゆっくりと道を進んでいく。

『来たな……』

現れたのは槍をもった男。

「側近その1ってやつですかね?」
「確か最終ステージは3構成なんだよ。最初の槍男は確か……」

『クイズ、や ら な い か』

その発音に俺の背筋が震えた。

なんだろう、この悪寒は。

「そうだ。思い出した。確かクイズに答えられないと刺される。今までの倍ライフを減らされるぞ」
「迂闊に間違えられないってことか……」

今現在のライフは4。

つまり2問間違えたらおしまいってことだ。

「しかも最終ステージはコンテニューしてもこの槍男からやり直し。やりだけに」

がっはっはと爆笑している有彦。

「……笑い事じゃないだろ」

とか言っているうちに。

『では問題といこうか』

「ちょっと待てっ? まだジャンルセレクトしてないぞっ?」
「こっからはジャンル選択無しなんだよ。オールジャンルで勝負ってわけだ」
「なるほど、真のクイズ王たるもの全てのジャンルに精通してなきゃいけないってわけですね」
「……」

このゲームってそんなストーリだったっけ。

『DNAの正式名称は? 』

「……ををう」

いきなりの難問だ。

「デ、デオデオ……何でしたっけ」

ななこさんが天井を見ながら呟いている。

「なんだったっけ」

科学の授業か何かで聞いたような気がするんだけど。

「デオデオデーオ」
「あ、有彦さん変なこと言わないでくださいっ! わかんなくなっちゃうじゃないですかぁっ」
「い、いやでも頭二文字分かれば十分だよ」

問題は4択なのだ。

いくらなんでも選択肢の全部の頭がデオだなんて……

『デオシキボリ核酸 デオキリシボ核酸 デオリキシド核酸 デオキシリボ核酸』

「全部デオッ?」

しかも後ろの核酸まで全部同じとは。

「間違い探しみたいですねえ」
「えーと、どれだ……?」

どれだと言われても俺にはさっぱりわからない。

シキボリ? キリシボ? リキシド? キシリボ?

「だあ、紛らわしい……」
「志貴さん、タイムオーバーが近いですよ」
「うげっ」

悩んでいる間に制限時間があと僅かとなってしまった。

「デオ……デオキシリボだっ!」

4番を選ぶ。

『やるな。正解だ』

「わ。当たりましたよ志貴さん?」
「よかった……科学の授業でやったのを思い出したんだよ」

学校の勉強もこんな時には役に立つものである。

『サンバといえば?』

「さ、サンバ?」
「踊りですよ。アロハオエ〜ッてやつ」

琥珀さんが妖しく腰を振ってみせる。

「いや、それはなんか違う気がするんだけど……」

腰は合ってるけどもっと激しいヤツのような。

『マツケン お嫁 12の ブラジルで発祥した踊りの名前』

「……どうしよう」

どれも正解のような気がする。

「うわ。これはこれで難しいですね」
「いや、楽勝だろ?」

意見が真っ二つに割れていた。

「琥珀さん。琥珀さんの意見を聞こう」

こういう時こそ琥珀さんの出番だ。

「ななこさんは難しいという、有彦さんは簡単だという……ではわたしは間をとってまあ普通というのはどうでしょう」
「いや、何の解決にもなってないし」
「4だろ。どう考えても」
「4か……」

まあ普通に考えればそうなんだけど。

他がインパクトがありすぎてどうも。

「ま、まあいいや。4」

『やるな。正解だ』

「危なかった……」
「いや、まったく危なくなかっただろ」
「むしろボーナス問題って感じでしたよね?」

あ、琥珀さんが裏切った。

「もういいよ、俺一人で頑張るから……」
「ああ、冗談ですよ志貴さ〜ん。いじけないでくださいってばぁ」
「おまえ今日はよく拗ねるなあ」
「だあ、うるさいぞ有彦っ」

それは図星なんだけれど。

全部琥珀さんが悪いのである。

『四大文明のうちチグリス川とユーフラテス川の間に栄えた文明は?』

「3のメソポタミア文明」
「うわ、有彦さん即答ですかっ?」

ななこさんが目を丸くしている。

「……そういやおまえ無駄に世界史だけは得意だったな」
「俺は世界を又にかける男だからな」
「はいはい」

『1光年は約何km?』

「確か9.46×1012kmだったと思いますが……」
「な、ななこ?」

今度は有彦が仰天していた。

「ふふふ。ちょっとはわたしを尊敬しましたか?」
「いや、適当に言ったのが正解しただけだと思った」
「そ、そんなぁ……」

この二人はこの先もずっとこんな調子のような気がする。

『リー夫人が発見した金属元素の元素記号は?』

「Raですねー」
「raだね……」

なんだかんだでお互いの得意ジャンルを生かして俺たちは正解を叩きだしていった。

槍男を倒し、侍、双子、魔法使いと撃破。

「っていうか長いぞこれ……」

いくら最終ステージだからってこれはないだろう。

「オレもここまで来たのは始めてだからわからん」
「そ、そうなのか」

何故かコントローラー担当はずっと俺だったので妙に疲れてしまった。

「なんか王座って感じの場所に来てますね……」

タイガーが階段を一歩一歩昇っていく。

「……」
「……」

全員が沈黙して次の敵の登場を待った。
 

『……来たわね』
 

「え」

俺は我が目を疑った。

「こいつは……イリヤだっけ」

そう、一番最初に出てきたブルマを履いた少女である。

だが今は違う。

法衣のような衣装に身を包み、体から妖しげなオーラが発せられていたのだ。

『さあ、最終決戦よタイガー。いえ、藤村タイガーッ!』

「タイガーってそんな名前だったのかっ?」

ここに来て開かされる衝撃の事実っ!

「くそおっ! なんでブルマを履いて無いんだ……」

イリヤの格好に悔しがる有彦っ!

「有彦さん……そこまでブルマに……」

軽蔑の目で有彦を見つめるななこさん!

「あはっ」

そしていつもとまったく変わらない笑みを浮かべている琥珀さん!
 

「……ははは……はぁ」
 

ちっとも緊迫感のないまま最終決戦が始まってしまうのであった。
 
 

続く



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