「タイガーってそんな名前だったのかっ?」
ここに来て開かされる衝撃の事実っ!
「くそおっ! なんでブルマを履いて無いんだ……」
イリヤの格好に悔しがる有彦っ!
「有彦さん……そこまでブルマに……」
軽蔑の目で有彦を見つめるななこさん!
「あはっ」
そしていつもとまったく変わらない笑みを浮かべている琥珀さん!
「……ははは……はぁ」
ちっとも緊迫感のないまま最終決戦が始まってしまうのであった。
「乾家に遊びに行こう」
その11
『最終決戦は十問よ。どれも難問ばかりを揃えたわ』
「ぬう」
今までの敵でも最高の問題数は六問くらいだった。
「ラスボスだけに桁違いってやつですかね」
「座布団一枚」
「え? 座布団をお持ちするんですか?」
「ななこさん、いいから座ってて」
「はぁ……」
漫才をやってる連中は無視して話を進める。
『でもタイガー。貴方の力はわたしたちにとっても魅力的なの。どう? わたしたちの仲間にならない?』
そこで選択肢が現れた。
『イリアのいう事を聞く イリアのいう事を聞かない』
「聞くんだ遠野っ。きっとブルマのブルマによるブルマのための世界が築かれるに違いないっ」
「有彦さんっ。そんなにブルマがいいんですかあっ! あんなものただの黒いぱんつじゃないですかっ!」
よっぽど癪にきたのだろうか、ななこさんが有彦に反旗を翻した。
「何いっ? 黒いパンツはまた別のもんだろうっ?」
訳の分からない言葉を返す有彦。
「いいから少し黙っててくれ」
もちろん俺は『聞かない』を選んだ。
『そう……やはりわたしと貴方は相容れないのね』
音楽ががらりと変わる。
『勝負よっ!』
そして最初の問題が表示された。
『イワシや鶏肉になど含まれ、細胞の再生や成長を促進するはたらきがあり欠乏すると口内炎や目の充血が起こるビタミンは?』
「……うをう」
さすがにレベルが高い。
「B2ですね」
「早っ!」
そしてそんな問題を琥珀さんはあっさり答えてしまった。
「日本人は慢性的にB2不足ですから気をつけないといけません。晩御飯の献立にも気を遣ってるんですよ?」
「そ、そうなんだ」
「はい。ですから昼ごはんはカレーだけとか偏った食事をしては絶対にいけません」
「わたしのマスターは昼と言わず昼夜カレー漬けですが……」
「オメエも大変なんだなあ」
ななこさん、そんな事を言ったらマスターなる人物がバレバレなんだけどいいんだろうか。
まあ心の内にだけ秘めておこう。
『俗称「けとばし」ともよばれるのは何の肉? 』
「ひいいいいっ!」
問題を見た途端ななこさんが悲鳴をあげていた。
「な、なに? どうしたの?」
「や、やめてくださいー。それは美味しくないですよ。絶対食べないほうがいいです」
「……」
ななこさんがこんなにおびえてるってことは。
「馬肉か」
「あああっ! 口に出して言わないで下さいっ!」
「……」
馬じゃない馬じゃないと否定してはいるけれど、根底の部分はやはり馬なのかもしれなかった。
これもななこさんのおかげで(?)正解。
『日本の最西端は? 』
「ヨナクニ島だ。行った事がある」
「おまえ、真面目に学校来いよ」
こいつは学生としての本分を一%も達成して無いと思う。
「バカ言え。夏休みを利用して行ったんだよ」
「えーっ? どうしてわたしを連れて行ってくれなかったんですか?」
「そんときゃテメエなんぞ居なかったからだ」
「じゃ、じゃあ今度は連れてってくださいね」
「気が向いたらな。一生向かんと思うが」
どうやら近い内に有彦はどっかに旅立ちそうである。
「与那国島ね……」
半分信用して無かったんだけどこれも正解だった。
「意外と順調だな」
「ああ。いけるんじゃないのか?」
「ですねー。ばしばし行っちゃいましょう」
ところが人間調子に乗ってしまうと足元をすくわれてしまうもので。
『不正解よ。残念ね』
連続で答えを間違えてしまった。
「いきなり後がなくなっちゃいましたねー」
「どうするんだよ遠野。負けたら槍男からやり直しだぜ?」
「……」
あの戦いをやり直す気力はさすがになかった。
「死中に活あり。やってやるさ」
つまりここで全力を賭して戦うしかないのである。
「うわ、志貴さんが妙にかっこよく見えますよ?」
「ああ。ゲーマーの目をしてやがるぜ」
それはかっこいいのかどうか微妙なラインの気もした。
『ショートショートの神様と言われ1000作以上の作品を発表したSF作家とは?』
「星新一ですねー。あの簡素な文章の中の黒さがたまらなく好きです」
「え? 琥珀さんも好きなの? 実は俺も何冊か持ってたりするんだけど」
「くぉら遠野。さっさと選べ」
「……わかってるよ。琥珀さん、この話はまた今度」
「は〜い。延々と語れちゃいますよ〜」
とりあえずこの問題は正解。
『マンガバビル二世で主人公のライバルであるヨミにはなく主人公だけにある超能力とは?』
「相手のエネルギーを吸収する能力だな。ありゃほとんど詐欺みたいな能力だぜ」
「よく知ってるなあ、おまえ」
「姉貴が好きなんだよ」
「ふーん……」
そりゃまた意外な人物が意外なものを。
『朴念仁とはどういう意味?』
「遠野志貴という意味でしょう」
「いや、違うから」
「無口で愛想のない人のことだと思いますが」
「ん……ほんとだ」
選択肢にはななこさんの言った通りの文があった。
「ものわかりの悪い人という意味もあるんですけどね」
「……」
苦笑しつつも正解。
なんだかんだでみんなの力が結束されつつあるような気がする。
『渚のアデリーヌなどで有名な現代ピアノ界の貴公子と呼ばれている人は?』
「……リチャード・クレイダーマンだっけ」
「し、志貴さんがピアノ業界のことを知ってるなんてっ?」
「そんなバカな……何かの間違いだろ」
「きっと頭でも打ったんですよ」
「ヒデエ言われようだな……」
ピアノ音楽はいいもんなんだぞ。
「うわ、正解ですよ。どうしましょう」
「とりあえずこれが夢かもしれないという可能性が出てきたな」
「有彦さんを殴ってみましょうか」
「こらテメエッ! 何気に物騒なこと言ってんじゃねえっ!」
「うわ、ごめんなさーい」
「……ったく」
その後も正解正解、正解の嵐。
クイズの神様がみんなに乗り移ったかのようだった。
『そんな……まさか……』
そして十問目を正解した瞬間、音楽が止まった。
うまい演出に身震いがする。
『イリア。あなたは確かに強かったわ……でもね。時代はロリじゃないわ。お姉ちゃんなのよっ!』
『そ、そんな……!』
「……をいをい」
なんだか最後の最後にきて話が変な方向に走り出してしまった。
『でも気にする事はないわ。あなたも努力すればお姉ちゃんキャラになれる。このタイガーこと藤ねえに任せなさいっ!』
『は、はい。タイガー。いえ、師匠ッ!』
『よーしっ。流派! タイガー不敗は?』
『王者の風よっ!』
「感動的なエンディングですね……」
「ど、どこが?」
ななこさんのセンスはイマイチ理解出来なかった。
精霊とか真祖とかいう人種(?)は感覚が違うんだろうか。
「でもハッピーエンドでいいと思いますよ。お姉さんキャラがいいというのには賛成ですし」
自身が姉である琥珀さんはとても嬉しそうだった。
「俺は却下だな。姉なんぞよりはロリのほうがよっぽどマシだ」
ああ、それでななこさんに走ったのかコイツは。
「スタッフロールが始まりましたよー」
軽快な音楽と共にスタッフロールが流れ出す。
「終わったな……」
それでようやく俺もゲームが終わったという心境になった。
「終わりましたねえ」
なんともいえない充実感。
「んじゃちょっくら休憩タイムとするか。雑談でも交えつつな」
「そうしましょう〜」
そうしてしばらくまったりとした時間が過ぎるのであった。
続く