果たしてこの先どんな事が起きるんだろうか。
「何か起きなかったら無理やりにでもイベント盛りだくさんにー」
「こ、琥珀さんっ!」
「上段ですよー。立ちガード安定ですね」
「いや、なんかそれ違うしっ!」
それこそ神のみぞ、いや、琥珀さんのみぞ知るのかもしれなかった。
「乾家に遊びに行こう」
その2
「とりあえずここが有彦の家だ」
「はー。ここがそうなんですかー」
有彦の家は可も無く不可も無い、ごく普通の家屋である。
「じゃ、とりあえずインターホンを……」
「あ。それわたしにやらせて頂けませんか? 一度やってみたかったんですよー」
琥珀さんがなんだかアルクェイドみたいに目を輝かせていた。
「うん。構わないよ。どうぞ」
一歩下がって琥珀さんにゆずる。
「で、では……ぽちっとな」
人差し指でインターホンを押す琥珀さん。
しばらくして。
「もしもし。乾っすけど」
有彦の声が聞こえた。
「いーぬーいーくーん、あーそーびーまーしょー」
ずべしゃあっ!
なんか盛大にすっ転んだ音が聞こえた。
かくいう俺も壁に激突しそうなところをなんとかこらえたところである。
「こ、琥珀さん。なに、今の」
「え? お友だちの家に遊びに行くときはこれが基本なのではないんですか?」
「……いや、まあ間違ってはいないけど……」
どうやら今のはマジボケらしかった。
「な、なんだあっ? 今の。遠野かっ? おいこらっ!」
あっちも立ち直ったのか、有彦の叫び声がインターホンから聞こえる。
「ああ。俺だ。琥珀さんも一緒だよ」
「琥珀……? あーああー。メイドさんの一人か」
「はい。姉のほうですー」
「琥珀さんも一緒にゲームやりたいってさ。構わないだろ?」
「どうだろうな」
「あん?」
有彦の返答はよくわからないものだった。
「今人外生物が一人、いや一匹いるんだが。遠野は問題ないと思うか?」
「あー……」
なるほど、彼女が来ているのか。
「……うーん」
「どうかしました?」
となると問題は琥珀さんが彼女を見た時の反応なのだが。
「まあ……琥珀さんだったら問題ないかな」
「はい?」
「大丈夫。差し支えないと思う」
「そうか。ならよし。じゃ、二階に上がってきてくれ」
「ラジャー」
がちゃんという音が聞こえた。
「じゃ、行こうか琥珀さん」
「あのう、何かわたしがいると問題があったんでしょうか?」
琥珀さんはご迷惑でしたでしょうか、と言わんばかりの顔をしている。
「いやいや、そんなことないよ。琥珀さんだったら問題なし」
「はぁ」
「さあさあ、玄関を開けて」
「は、はい。おじゃましまーす」
ぎこちない仕草でドアを開ける琥珀さん。
「じゃーしゃーす」
俺も靴を脱いで玄関へ上がった。
「あー。駄目ですよ志貴さん」
「ん?」
と、何故か玄関を上がらない琥珀さんに注意されてしまった。
「なに?」
「なに、ではありませんよ。いくらお友だちの家とはいえ、お呼ばれしたのですから靴くらいきちんと整えるべきです」
「あ、ご、ごめん」
慌てて靴を揃えなおす。
「はい、それでOKですー」
「うわ、ちょっと琥珀さんなにやってんのっ!」
俺はそのまま土足で玄関を上がろうとした琥珀さんを慌てて静止した。
「は、はい?」
「はい、じゃなくて。今俺の靴のこと注意したでしょ。琥珀さんが土足で上がろうとしてどうするの」
「あ……」
俺の顔と足元を交互に見る琥珀さん。
「や、やだなあ。冗談、冗談ですよ? あはっ、あはは〜」
「……」
ヤバイ、琥珀さんが今まで見た事がないくらいテンパってる気がする。
それほど「友人の家に遊びに行く」というシチュエーションに憧れていたんだろうか。
「ぞ、草履を脱いで……は、はい。これで問題ありませんよね?」
「うん。OKだけど」
「はーい。ではおじゃま……わわわわわっ?」
びったーん。
「……い、いたた」
思いっきり自分の服の裾を踏みつけてすっ転んでしまった琥珀さん。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ついうっかりです」
「……ならいいんだけど」
なんだか琥珀さんが動じている姿は新鮮である。
ちょっと可愛い気もするし。
「では有彦さんの部屋にー」
「いや、有彦の部屋は二階だから」
「あ、あはっ、そ、そうでしたね〜」
明後日の方向に歩き出そうとした琥珀さんを連れて二階へ。
「いよーい。来たぞ」
「おう。待ってた」
有彦は妙にかっこつけて俺を出迎えてくれた。
「ささっ。琥珀さんどうぞこちらへっ」
「……やっぱり琥珀さんのせいか」
堂々と俺を無視してくれるとは。
「おいこら有彦。わざわざ来てやったんだ。茶くらい用意しろ」
早速あいさつ代わりに苦情を言ってやる。
「琥珀さんのぶんは用意してある。オマエのは無い」
「あのなぁ」
「そこにジュースがあるから好きなの取れよ」
「おっと」
小さいテーブルの上に缶ジュースが無造作に置かれていた。
「悪いな」
どうやらそれは冷蔵庫から出したばかりのもののようで、触ると冷たかった。
「どうもすいません有彦さん。急に押しかけてしまってー」
「いやいや。美人の来訪は大歓迎ですよ」
有彦は美人が相手だと敬語になるクセがある。
それがまた警戒心を抱かせるような怪しい敬語なのに、本人はまったく気づいていないようだ。
「あはっ。有彦さんってばお上手ですねー」
まあこっちは有彦なんか比較にならない策士なので何を言われても問題ないだろう。
「ところで有彦。イチゴさんは留守なのか?」
「ああ。どこ行ったかは知らんが当分帰ってこないだろうな」
「そっか」
久々だから挨拶くらいしたかったんだけどな。
「それで対戦相手がいねえでつまらんからおまえを呼んだんだよ」
「なるほど」
「イチゴさんってどなたです?」
「有彦のお姉さん。美人」
「はー。志貴さんに美人と言わせるとは相当な美人なんでしょうねえ」
実は紹介するときに必ず美人とつけろとイチゴさんに言われてるからなんだけど。
実際イチゴさんは美人である。
有彦もマトモにしてればジャニーズ顔だし(?)
「では人外の方というのはどこにいらっしゃるんでしょう?」
きょろきょろと辺りを見回す琥珀さん。
「げ。聞かれてたか」
「当たり前だ。インターホンで会話してたんだぞ」
「……それもそうか。まあ隠すつもりもねえけどさ、今更」
大きくため息をつく有彦。
「ほれ、出てこいななこ」
そう言ってぱんと手を叩いた。
「はーい。美少女精霊ななこ、ただいま参上ですよ〜」
がらっと押入れを開けて奇抜な格好の女の子が現れる。
「おおっ」
予想しなかった場所からの登場に俺はちょっと驚いてしまった。
さて、琥珀さんはどんな反応をするんだろうか。
「うわっ! 有彦さんって美少女をコスプレさせて監禁する趣味があったんですかっ?」
どうやらななこさんの登場は琥珀さんにとんでもない誤解を抱かせてしまったようであった。
続く
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