がらっと押入れを開けて奇抜な格好の女の子が現れる。
「おおっ」
予想しなかった場所からの登場に俺はちょっと驚いてしまった。
さて、琥珀さんはどんな反応をするんだろうか。
「うわっ! 有彦さんって美少女をコスプレさせて監禁する趣味があったんですかっ?」
どうやらななこさんの登場は琥珀さんにとんでもない誤解を抱かせてしまったようであった。
「乾家に遊びに行こう」
その3
「ち、違いますっ! この格好はこいつのデフォルトで……」
慌てて誤解を解こうとする有彦。
「そうなんですよー。有彦さんってばえろえろの上にマニアックでこんな格好しかさせてくれないんです」
べちっ。
「うわー。暴力反対ですよー」
ななこさんは琥珀さんばりに情報操作をしている。
「やかましい。ぐだぐだ言ってると追い出すぞっ!」
「わー。怖いですよー。志貴さん、助けてくださいっ」
ななこさんは俺の後ろにくるりと回ってきた。
「有彦。ななこさんがかわいそうだろ」
「じゃかあしい。そんな生物に居候されてる俺の身にもなってみろ」
「そんな生物だなんてー。酷いです有彦さん。わたしはこんなに可憐だというのに」
「あはっ。なんだか同じ匂いを感じますねー」
琥珀さんはななこさんを見てとても嬉しそうである。
「で、実際有彦さんとななこさんってどういったご関係なんでしょう? ジョノカ?」
「ジョノカって……」
いつ流行った言葉だっけそれ。
「まあ、早く言えば居候なんだけどさ」
「もっと言えば厄介な精霊」
俺の説明にややこしさを追加する有彦。
「あ、有彦さぁん……」
有彦の言葉を聞いてななこさんは涙目になっていた。
「う……」
それを見てたじろぐ有彦。
「ふ」
ななこさんがニヤリと笑う。
「あ、テメエ。今の嘘泣きか? このヤロウ」
「わっ。そ、そんなことないですよ? うわーん。有彦さんのいじわるー」
「……ったく」
脱力したように肩を下げる有彦。
「まあ、俺と琥珀さんの関係っぽい感じで、若干俺のほうが強いバージョンかな」
「なるほど。わかりやすい説明ですね」
「いや……納得されても困るんだけど」
「……俺も言ってて悲しいものがあった」
二人して苦笑しあう。
「乾家の居候の精霊さんなんですか……なるほど」
さすがにアルクェイドやら何やらの人外を見ても動じなかっただけあって、琥珀さんは理解が早かった。
「正確には馬の精霊なんだっけ?」
「馬じゃないですよ。ユニコーンですっ」
非難の声を上げるななこさん。
「ああ、ごめんごめん」
「さらに言うならばユニコーンの角を使った由緒正しき聖典、第七聖典の精霊なんです」
そう言ってえへんと胸を張る。
けど決して大きくはない。
「はぁ。すると何故その由緒正しき第七聖典が有彦さんのお家に?」
「それはですねー。聞くも涙、語るも涙の話で……」
「あー。コイツが勝手に居座ってるだけだから。実際迷惑してる」
そうは言ってるけど有彦は絶対迷惑だとか考えてないと思う。
「そんなぁ。さっきまで対戦付き合ってあげたじゃないですかー」
「ん? 俺を呼ぶまでななこさんと対戦してたのか?」
「まあな。けどこいつ格闘ゲーム絶望的に弱いからさ。相手にならねえんだよ」
「そりゃまあそうだろうなあ」
ななこさんって不器用そうだし、それ以前の問題もあるし。
「あらら。練習すれば上手くなると思いますけど?」
「それがどうにもこうにも駄目でして。ほら、わたしってこんな手なんですよ」
「え」
ななこさんの手を見て固まる琥珀さん。
「こ、琥珀さん?」
「……手が」
そして硬直が解けたと思ったら、目をまんまるにしてこう叫んだ。
「手、手がっ! お馬さんの手に、いえ、蹄になってますよーっ!」
なんか、こんなに取り乱す琥珀さんを見るのは初めてかもしれなかった。
「こ、琥珀さん、落ち着いて。さっきも言ったけど、ほら、馬の精霊だからっ」
「だから馬じゃなくてユニコーンですよぅ。正確には由緒正しき……」
「あー、それさっき言ったから言わんでいい」
「むぐっ? むぐむぐ……」
有彦に口を塞がれるななこさん。
「こ、こういう時は落ち着いてものを考えないといけませんねっ。えーと、手に馬という字を書いて……」
「いや、画数多いしそれ」
「遠野。ボケてる場合か?」
「ぬぅ」
いかん、俺も琥珀さんが慌てているのを見て動揺してしまっているようだ。
「琥珀さん。深呼吸、深呼吸」
「は、はい。すーはー、すーはー」
「すーはー、すーはー」
「……なんかえらいマヌケな光景だな」
「ほっといてくれ」
呼吸を何度か繰り返したおかげで俺はだいぶ落ち着いた。
「琥珀さん、大丈夫?」
「は、はい。おかげさまで。そうですよね。馬の精霊なんですから手が蹄だっておかしくないですよね」
「だからユニ……」
「いいじゃねえか馬で。めんどくせえ」
「うう」
ななこさんはうなだれている。
「それにしてもその手でコントローラーを動かせたというのは凄いですねー」
「だなあ」
「俺も出来るわけねえだろと思ってたんだが。それなりには動かせるみたいなんだよ」
「某猫型ロボットの手と同じ理屈なんでしょうかね?」
「あいつ時々指とか生えてた気がするんスけど」
「……妙な知識ばっかりあるんだなあ、有彦」
「ほっとけ」
まあ雑学というのは聞いていて楽しいものだ。
「知ってるか有彦。豆腐の材料は大豆なんだぜ」
そんなわけで俺も雑学を披露してみる。
「あぁ? 何言ってんだ。んなもん一般常識だろう?」
「え? そ、そうなの?」
「そうですねー。知らないほうがおかしいと思います。自慢するような事ではないですね」
「ぬぅ」
「そ、そそそ、そうですよねっ。それくらい常識です。やだなぁ。もう、志貴さんってば何を言ってるんですかぁ。あは、あははははは」
ななこさんだけが乾いた笑いを浮かべていた。
「ななこさん、実は知らなかったんじゃ?」
「そそそそそそそ、そんなことありませんよっ? ニンジンは地面に埋まっているのと同じくらい常識ですもん」
なんかもうこれでもかってくらいわかりやすい反応をしてくれるななこさん。
「あはっ、嘘はいけませんよ。ななこさん。知らないことは素直に知らないと言いましょう」
「うー」
「マヌケ」
有彦がさもバカにしたような口調でななこさんをなじった。
「マ、マヌケじゃないですよぅ。じゃあ有彦さんは教会における組織構成云々がわかりますかっ? わたしは空で暗唱出来ますよっ?」
「いや、暗唱されてもそれが合ってるかわかんねえし」
「……だなあ」
「あ。わたしも毒キノコそのことならどこまでも語れますよ」
「語らなくていい、語らなくていいから」
そんなことをされたら今度から晩御飯のしめじにすら怯えなくてはいけないではないか。
「ちぇ。志貴さんいじわるです」
琥珀さんは拗ねてしまった。
「……っていうかいいかげんゲームやろうぜ。無駄話ばっかりじゃなくてさ」
「そ、そうだな」
ゲームを起動する有彦。
「ほら、琥珀さん。対戦しましょうよ」
そして琥珀さんにコントローラを向けた。
「いえ、わたしはまずは観戦モードです。まずは志貴さんとプレイしてくださいな〜」
「俺が?」
「遠野か。肩ならしにもならんな」
「何だと?」
今の発言にはちょっとかちんときた。
「やってやろうじゃないか。ボコボコにしてやるぜ」
「上等」
さっそく俺たちは使用キャラクターを選びはじめるのであった。
続く
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