「……っていうかいいかげんゲームやろうぜ。無駄話ばっかりじゃなくてさ」
「そ、そうだな」

ゲームを起動する有彦。

「ほら、琥珀さん。対戦しましょうよ」

そして琥珀さんにコントローラを向けた。

「いえ、わたしはまずは観戦モードです。まずは志貴さんとプレイしてくださいな〜」
「俺が?」
「遠野か。肩ならしにもならんな」
「何だと?」

今の発言にはちょっとかちんときた。

「やってやろうじゃないか。ボコボコにしてやるぜ」
「上等」
 

さっそく俺たちは使用キャラクターを選びはじめるのであった。
 
 




「乾家に遊びに行こう」
その4









「せっかくだから俺は赤い色を選ぶぜっ!」

最近のゲームはキャラクターのカラーを色々選べるのが多い。

俺は某アニメにあやかって素早くなりそうな赤を選んだ。

「遠野、そのネタは微妙すぎてつまらんぞ」
「は?」
「いや、なんでもない。知らないんだったらいい」

有彦は遠い目をしていた。

「昔ですね。伝説のコンバット越……」
「あー、琥珀さん、それは語らなくていいッスから」
「はぁ。残念ですねー」

なんだかよくわからないけど知らないほうが幸せなことらしい。

「有彦。おまえも選べよ」
「ふ。オマエごとき持ちキャラじゃなくても十分だ」

持ちキャラというのはメインで使用しているキャラクターのことで、つまりそれだけ戦略を知っているキャラと言うことである。

それを使わないと言う事は。

「バカにしやがって。見てろ」

俺だって琥珀さん相手に何度も戦ってきたんだ。有彦にだってひけはとらないはずだっ。
 
 
 
 

「KO!」

画面に映し出される試合終了を意味する文字。

「ふっふっふ。口ほどにもなかったな」
「お、おかしい。こんなはずじゃ……」

俺は2ラウンドぶっ続けで有彦にやられてしまった。

それも手も足も出ずという感じである。

「遠野のキャラは対空が甘いからな。空中から攻めれば楽勝なんだよ」
「ぐっ……」

そういえば有彦が使ったキャラは空中戦が得意なキャラだった。

俺の弱点を知っていての作戦だったということか。

「志貴さん。何度か対空ミスが目立ちましたよ? 博打でもいいから立ちKあたりを出しておけばよかったのに」
「だ、だって連続技食らうと痛いし」
「だからって着地後の中段を食らっているようでは意味がありません」
「ぐぅ」

返す言葉もなかった。

「へえ。琥珀さん。このゲームやり込んでるンすか?」
「まあ、俺の師匠と言っても間違いではない」
「ほー」
「わたしは志貴さんと違って強いですよー」
「そいつぁ楽しみだな」
「お、俺だって次は負けないぞっ」
「へいへい」
「くっ……」

完全に俺が雑魚扱いされてしまっている。

「志貴さん、次はわたしと対戦しましょうよ。ね?」

ななこさんは目を輝かせていた。

つまりななこさんは俺に勝てるかもしれないと踏んだわけだ。

「な、ななこさん」
「そうだな。ななこでいい勝負だろう」
「あはっ。志貴さんやってみてはどうですか?」
「ば、バカにしないでくれっ。ななこさんには勝てるさっ」
「あー。それはわたしを甘く見ていますよ? そりゃ有彦さんには勝てませんけど、コンピューターには楽勝なんですからっ」

ななこさんは自信ありげな顔をしてコントローラーを取った。

「……」

実はこのゲーム、まだ俺はラスボスに勝ててなかったりするんだけど。

「ななこさん、ラスボスに勝った事は?」

一応尋ねてみる。

「あ、はい。なんとか倒せましたよー。ノーコンテニューは大変でしたけどねー」
「……」

ヤバイ。

この中じゃ最弱は俺なのかもしれない。

い、いや、コンピューターと人間じゃ全然戦い方が違うさっ。

俺にだって勝機はあるはずっ!

「じゃ、誰を選ぼうかなあ〜。えーと」
「……」

俺はななこさんの選ぶキャラをじっと眺めていた。

「これで行こうと思います」

ななこさんの選んだのは鈍重パワーキャラであった。

「……」

それに対して俺は。

「け、牽制キャラじゃないですかっ」
「ひきょーですよー。志貴さーん?」
「こ、これも作戦だよっ」

俺はリーチの長い遠くから攻撃出来るキャラを選んだ。

「しかし遠野。これで負けたら惨めだぜ?」
「……勝つ、勝ってみせる!」

なんだか追い詰められたネズミのような俺であった。
 
 
 
 

「KO!」
「か、勝った……」

最終ラウンド、やけくそで出した必殺技がヒットし、ななこさんを倒すことが出来た。

「うー。ずるいですよ志貴さん。画面端で鳥かごなんて」

ななこさんはかなり不満そうである。

「いわゆるハメってやつですねー」

ハメというのは脱出不能な連続技や抜け出せにくい連携のことである。

「ハメじゃないよ。琥珀さんにはあっさり脱出されたんだからさ」
「まあ抜けられるは抜けられるだろうけどさ。ななこじゃ無理だったろう」
「酷いです。画面端でずごばこずごばこハメられて……」
「……」

ななこさん、素でボケてるんだろうか。

「えろえろですねー。志貴さん」
「エロ大魔神だからな」
「なんで俺がっ!」
「うう、志貴さんに操を奪われてしまいました。責任取ってくださーい」
「誤解の招くような言い方をしないでくれっ!」
「わ〜。志貴さんが怒った〜。怖いですね〜」

ニコニコ笑いながらそんな事を言う琥珀さん。

「遠野君コワーイ」

冗談交じりに笑う有彦。

「うう……」

集中攻撃を受け、俺はなすすべもなくうなだれるのであった。

「でも、ななこさん凄いですねー。そんな手でスカシPバスター出せるなんて」
「だってPバスター使わなきゃつまんないじゃないですかー。頑張って練習したんです」
「それにRCのタイミングも絶妙でしたし」
「どうやって操作してるんだか全然わからなかったよ」
「気合です、気合」
「……」

いや、気合でどうにかなるもんじゃないと思うんだけど。

「次は鳥かごナシにして下さいね。今のは納得出来ませんっ。リベンジです、リベンジっ」
「あー、うん」

確かに今のはちょっとずるかったからな。

「有彦。連戦いいか?」
「俺は構わんが。琥珀さんはOKスか?」
「はい。わたしは志貴さんのセコンドに付くんで、有彦さんはななこさんをサポートしてあげてください」
「ん? まあ構わないスけど」
「では志貴さん、作戦タイムですよ〜」

琥珀さんの目が怪しく光っている。
 

どうも俺が戦っている間に琥珀さんの緊張はすっかりどこかへ消え去ってしまったようであった。
 

続く


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