「有彦。連戦いいか?」
「俺は構わんが。琥珀さんはOKスか?」
「はい。わたしは志貴さんのセコンドに付くんで、有彦さんはななこさんをサポートしてあげてください」
「ん? まあ構わないスけど」
「では志貴さん、作戦タイムですよ〜」

琥珀さんの目が怪しく光っている。
 

どうも俺が戦っている間に琥珀さんの緊張はすっかりどこかへ消え去ってしまったようであった。
 
 

「乾家に遊びに行こう」
その5






「作戦その1。まず相手をダウンさせます」
「うん」

俺たちは有彦とななこさんから離れて作戦会議をすることにした。

「そうしたら起き上がりにガード不能攻撃を……」
「いや、卑怯だしそれ」
「大丈夫ですよー。上級者なら余裕で回避できますって」
「……いや、そういう非難を受ける戦い方は駄目だ。やっぱり華麗に勝たないとな」

そう言うと琥珀さんはふふんと鼻で笑っていた。

「甘いですよ志貴さん。勝負というのはなんでもあり。それが出来るのであれば最大限に活用して何が悪いんですかっ」
「だからってルールは必要だよ。やっぱり……」
「むー。ではもうちょっと甘いのでいきますか?」
「例えば?」
「まずゲームをプレイ中、さりげなくななこさんの傍に近寄ります」
「……なんでななこさんに」
「いいから話を聞いてくださいな。次にですね。ななこさんの脇を思いっきりくすぐって……」
「ほ、本体攻撃っ?」

思わず某マンガのことを思い出してしまった。

「いいアイディアだと思いません?」
「全然よくないよ! プレイしている人の妨害ってゲーム以前に人として問題があるからっ」
「うわっ。叫んだらばれちゃいますよ? 志貴さん」
「……はっ」

慌ててななこさんのほうを見ると、まるでゴミか何かを見るような目で俺を見ていた。

「志貴さんってばそんな人だったんですね……いい人だと思っていたのに。しくしく」
「ち、違うっ。誤解だっ。今のは琥珀さんがっ」
「遠野。いくらななこが相手だからって酷えぞ。真面目に戦ってやれ」
「お、俺は最初からそのつもりだ」
「志貴さんってば可愛い顔してやることはしっかりヤってる人なんですよねー」
「うぐ……」

それは微妙に本当の事なので否定出来なかった。

「と、とにかく勝負しよう。勝負っ」

琥珀さんと話しているとあらぬ誤解を受けてしまいそうなので俺はさっさとキャラを選んでしまうことにした。

「スタンダート系ですね。面白くありません」
「そういうのが一番堅実に戦えるんだよ」
「まあそりゃ確かだけどさ」
「わたしはさっきと同じでいきますよー。汚名を挽回して差し上げますっ」
「汚名は返上するものですよ」
「……お約束だなあ」

ななこさんのほうが琥珀さんより天然度が高いかもしれない。

「そ、そうでしたねっ。とにかくリベンジですっ」
「負けないぞ……」

俺にだって意地がある。

そう簡単にやられてたまるものかっ!
 
 
 
 

「KO!」
「あ、あう……」
「勝った……」

今度は落ち着いて対処できたせいか、体力を半分くらい残して勝つことが出来た。

「なんの面白みもなければ盛り上がりもない試合でしたねー」

ぐさっ。

「琥珀さん……それは禁句だよ」
「遠野は通常技主体の攻めだからなー。もっと必殺技を使え必殺技をっ! おまえに必殺技はないのかっ!」
「そんな事言ってもなあ」

スタンダートなキャラだけに必殺技も地味なのである。

その名も毎日二百。

説明書曰く、毎日に二百回づつ素振りをしたからこれだけの威力がある、という意味の必殺技だ。

それのパワーアップバージョンが今日から三百、明日から六百。

しかもそれを使うよりも通常技主体で攻めたほうが強いんだからタチが悪い。

どうしたって地味な攻めになってしまうのである。

「ダイナミックスペシャルキックとかさ。もっとこう派手……」
「そういうのは製作者のほうに言ってくれ」

俺に言われてもどうしようもないことだった。

「では次はいよいよわたしと有彦さんで戦りあいましょうか〜」
「ん、そうだね」
「おう。待ってましたっ」

有彦が俺からコントローラーを奪い取る。

「有彦。琥珀さんはマジで強いぞ。覚悟しておけよ」
「心配するな。俺もジャッカルの伊吹と呼ばれた事のある男っ」

ジャッカルというのは俺たちがよく遊びに行くゲーセンで、伊吹はGGEXのキャラ名である。

有彦がそのキャラを使うと滅茶苦茶勝率がいいため、そんなあだ名がついた。

「いきなり伊吹使うのかよ、おまえ」
「当たり前だ。勝負に手加減は無用」
「あはっ。有彦さんとは仲良くなれそうな気がしますねー」

琥珀さんがななこさんからコントローラーを受け取り、キャラクターを選びはじめた。

「ところで有彦さん。ジャッカルの伝説って知ってますか?」

キャラを選びながらそんなことを尋ねる琥珀さん。

「あん?」
「ほら、謎の女の子が50人抜きをやらかしたっていうー」
「そういえば聞いた事あるな。確かスコアネームがアンバーだったっけ」
「……」

俺はその女の子の正体を知っていたりする。

しかし敢えて黙っていることにした。

「へえー。そういう人ってもう滅茶苦茶に上手いんでしょうね。芸術の域に達しているのではないでしょうか」

やたらと感心しているななこさん。

「びっくりすると思うよ、ほんと」

本当に同じゲームなのかこれはと思うような動きをするからなあ。

「はて? 志貴さん。その口ぶりではそのアンバーさんという方を知っておられるようですが」
「うん。よく知ってる」

よく知っているどころか俺の格闘ゲームの師匠である。

「凄いですねー。そんな人ならサインを頂きたいくらいですっ」
「俺はむしろななこさんのサインが欲しいけどな」

陽気に喋る精霊のサインなんて誰も持ってないだろう。

同時に誰も信じてくれなさそうだけど。

「そんなー。わたしのサインなんか一円の価値もありませんよ。でも志貴さんがそこまで言うならー」
「……あ。待って。試合始まるから」
「あう」

画面を見るといよいよ有彦対琥珀さんの戦いが始まろうとしていた。

果たしてどちらが勝つんだろうか。
 

俺はこれから始まるであろうハイレベルな戦いの予感に胸を躍らせるのであった。
 

続く


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