画面を見るといよいよ有彦対琥珀さんの戦いが始まろうとしていた。
果たしてどちらが勝つんだろうか。
FIGHT!
俺はこれから始まるであろうハイレベルな戦いの予感に胸を躍らせるのであった。
「乾家に遊びに行こう」
その6
「……」
有彦はパワー型の一撃必殺キャラ、対する琥珀さんは居合いによるリーチの長さが光るキャラだ。
開始後数秒、二人はうろうろと移動するだけで攻撃を仕掛けようとはしなかった。
「こ、攻撃しないんですかね……」
「お互い様子を伺ってるんだろうな……」
「よっ! はっ!」
有彦が琥珀さんですら届かない間合いで攻撃を出している。
「……」
しかし琥珀さんは全く近づこうとはしない。
ただひたすら一定の距離を取り続けているだけである。
「……」
有彦が琥珀さんへ向けて走り始めた。
「……せいっ」
ここで初めて琥珀さんが居合いを見せるが有彦はジャンプでそれを回避した。
「おらぁっ!」
そのまま琥珀さんに向けて拳を振り下ろす。
キィン!
鉄の拳と日本刀がぶつかり合う。
「はっ」
「……」
琥珀さんが足を出して有彦の追撃を止めさせ、再び一瞬の間。
「おらっ!」
「せやっ」
互いに互いの技を防ぎ合い、また間合いが開いた。
「……」
琥珀さんが駆け出し、有彦もそれに対するが如く走り出した。
「ツバメ返しっ!」
「ぐおっ……」
ここで初めて琥珀さんの攻撃が有彦に直撃した。
激しく吹き飛ばされる有彦。
「続けていきますよっ!」
「……甘いっ!」
だが瞬時に受身を取り琥珀さんの追撃を防いだ。
「どるぁっ!」
攻撃を防いだ有彦がそのまま中段突きを仕掛ける。
「わっ……」
それを受けよろめく琥珀さん。
「だっしゃっ! どらぁ!」
そこを狙った有彦の連続攻撃。
「あうっ……くうっ……」
最初の二、三撃はなんとか防いだものの、四発目の攻撃を足に受け琥珀さんは転んでしまった。
「おらっ!」
そこに有彦の追撃が迫る。
「……っ!」
それを受けた琥珀さんの顔が苦痛で歪んだ。
「……」
間合いを離す有彦。
「せいっ!」
起き上がりながら琥珀さんが再び居合いを放った。
だが琥珀さんの居合いは届かない。
「……」
「……」
中途半端な間合いでの牽制合戦が続く。
ちくちくとお互いの体力は減っていくのだが、どれも決定打にはならなかった。
「はっ!」
不意に近づいてきた有彦に向けて放たれる琥珀さんの連続居合い。
「ふんっ!」
有彦は二度目の居合いを受け止め、思いっきり弾き返した。
「しまっ……」
「どらあっ!」
その隙に再び有彦の中段突きが。
「……その間合いじゃ届きませんっ!」
「……っ?」
有彦の中段突きはあと僅かのところで琥珀さんの体を捕らえる事が出来なかった。
「せいっ!」
すかさず前転しながらの抜刀で有彦の下半身を切りつける琥珀さん。
「ぐおっ……」
よろける有彦。
「ツバメ返しっ!」
そしてそこへ放たれる伝家の宝刀。
KO!
「やられた……」
力無くうなだれる有彦。
「は、はぁ……息もつかせぬ戦いでしたねー」
本当に息をしてなかったのようにななこさんの顔は真っ赤になっていた。
「凄いな……」
まるで本当に二人がゲームの世界で戦っているようだった。
一見地味だが、これが本当の名人戦ってやつなんだろう。
「ラウンド2も勝たせて頂きますよー」
「まだだ……俺は超必殺を見せてないっ」
有彦の目はキラキラと輝いていた。
久方ぶりの強敵の出現に燃えているらしい。
「有彦、後がないぞ。頑張れ」
「あー、志貴さん。有彦さんの味方をしちゃずるいですよー」
「いや、こういう場合後がないほうを応援するもんでさ」
「ふぁいと、ふぁいと、有彦さーん」
「うう……こうなったら悪役の琥珀、見事勝利を飾ってみせますっ」
そしてラウンド2が始まった。
「くそっ……駄目か……」
有彦はあと僅かというところまで琥珀さんを追い詰めたが、勝つことが出来なかった。
「あはっ。久々の名勝負でしたよ〜。つい本気になってしまいました」
「惜しかったですね……」
「惜しくても負けは負けだ。っぁ〜! もっと修行しねえとな。自分のミスで攻められたところも多かったし」
「そんなことはありませんって。やけっぱちで反撃したのが運よく当たったりしただけです」
「運か……」
確かに勝負は時の運という。
しかし琥珀さんはその勝負運とやらを呼び寄せる天才なのではないだろうか。
「とりあえず今日はもう勝てる気しねえな。ゲームは止めるか」
「止めるのか?」
「あぁ。もうちっとみんなで楽しめるもんやろうぜ。こうレベル差があっちゃさ」
「……悪かったな、弱くて」
「志貴さ〜ん。これからは仲良くしましょうね〜」
ななこさんが俺に擦り寄ってきた。
「ちょ、ちょっと……」
「くぉら、馬。遠野に妙な色香使ってんじゃねえ。そいつにゃ女手は腐るほどいるんだからさ」
「……そういえばそうでしたね」
あっさり引き下がるななこさん。
「なんか腑に落ちないな」
「あはっ。いいじゃないですか。これ以上厄介毎の種が増えられても困るでしょう?」
「……」
その厄介毎の種の半数くらいはあなたなんですが。
「何か別のゲームとかないでしょうか?」
俺の考えに気づいているのかいないのか、笑顔でそんなことを言う琥珀さん。
「んー。三人と一匹で協力してクイズゲームとかどうスかね? わりといいトコまで行けると思うんスけど」
「あ、有彦さん。一匹ってなんですか一匹ってっ」
「あん? 匹で悪けりゃ一個で数えるか?」
「うー」
「クイズゲームはいいですねー。わたしも博識の琥珀と呼ばれたらいいなと思っている女っ」
「いや、呼ばれたらいいなじゃ意味ないでしょ」
まあ確かに琥珀さんって色んな知識がありそうだけど。
「大丈夫だ遠野。俺も無駄知識王と呼ばれたことのある男っ!」
「無いだろ」
こいつはただのバカだからアテにならない。
「え、えーとわたしはじゃあ」
「手足が馬の女」
「そのまんまじゃないですかっ!」
「格好がエロい精霊」
「エロくないですっ! 有彦さんの目がイヤらしいんですっ!」
「漫才はそこまでにしてくれ。えーと、まあこの流れからしてクイズゲームってことで……いいかな?」
『いいともー!』
ちっとも息が合ってないメンバーなのにその言葉だけは妙に一致するのであった。
続く
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