「……マジ?」
後ろを振り返る。
「マニアック小僧決定ですね」
「マニアック小僧確定だな」
「マニアック小僧以外の何者でもありませんね」
またも変なところで意見の合致する人たちであった。
「乾家に遊びに行こう」
その8
「ボクもうお家帰る」
「ああっ! 冗談、冗談ですって志貴さんっ。いじけないでくださいよ〜」
「……はぁ。じゃあ次は誰がやるんだ?」
「誰にしましょうか?」
「遠野。おまえ選べ」
「んー……」
琥珀さんはなんだかんだで頭脳明晰な人だから、こんな序盤じゃなくて終盤で力を発揮するべきだろう。
有彦はバカだからやだし。
「……」
「……?」
「ななこさんっ! 君に決めたっ!」
「えええええっ? わたしですかっ?」
やたらと驚いているななこさん。
「おい遠野。正気か?」
「ああ。俺は精霊であるななこさんに知性の片鱗を見た」
「……本当に大丈夫か? 医者に行くか?」
「いや、そんな心配しないでくれ。大丈夫だから」
そんな事を言われてしまうとななこさんに任せていいのか心配になってきた。
「まあ、ゲームなんですし気楽にいきましょう〜」
「……そうだね」
琥珀さんの言うとおり、ゲームなんだし難しく考えてもしょうがないか。
「とにかく、ななこさん頼むよ」
「は、はいっ。頑張りますっ」
コントローラーを腰元に置くななこさん。
『ジャンルセレクト』
「馬の問題とかだったらいいセンいけるんじゃねえの」
「だからわたしは馬じゃないですよ〜」
画面に表示される4つのジャンル。
『星 四字熟語 地理 やらないか』
「……なんか最後のやつって絶対選んじゃいけない選択肢のような気がする」
「意味がわかりませんしね……」
このゲーム本当に発売して大丈夫なゲームなんだろうか。
「じゃあ、わたし星を選びますー」
精霊というファンタジーっぽいななこさんだけあって、選んだものもファンタジーだった。
『■■■■ー!』
「……」
画面に出てきたのは意味不明の言葉を喋る巨大な男。
『ふっ、また会ったわねタイガー!』
それからさっきのブルマ少女がいた。
「この子実はレギュラーだったりするのか?」
「いや、そんな事は無いぞ。特定のジャンルでしか出てこないレアキャラだ」
「レアなのか……」
まあ確かに今時ブルマは希少かもな。
『さっそくクイズといくわよっ! 覚悟はいいわねっ!』
そしてブルマ少女がしゃべりまくるので巨大男は別にいなくてもいいんじゃないかって感じだった。
『次のうち黄金聖闘士十二星座に入っていないものを選べ』
「まあ簡単な問題だな」
「一般常識だろ」
「ええっ? そ、そうなんですかっ?」
「……」
とてつもなく不安である。
『1・デスマスク 2・シャカ 3・ガルーダ 4・アフロディーテ』
「ペガサスファンタジーっ?」
「こ、こんなの絶対わかりませんよっ!」
ななこさんが悲鳴をあげていた。
「わたしもこれはわかりませんね……」
琥珀さんも渋い顔をしている。
「……こんなの常識だよなあ。遠野」
「少なくとも野郎だったらな……」
琥珀さんとななこさんには難しい問題だったかもしれない。
まあ、知り合いの女の子だったら一発で正解しそうな気もするが。
「正解は3のガルーダ」
「な、何なんですかこの問題?」
「んー……なんていうかマンガの話」
「そうなんですかー……いきなりなんの説明もなしに出てくるなんて、タチの悪いクイズですね」
「いや、聖闘士って書いてあったし」
まあそれにしたって専門用語ではあるけど。
「ここは俺と遠野の独壇場のようだな」
「かもしれない」
俺たちはモロに世代なのでこの手のものには詳しいのである。
『第二問 太陽から地球に光が届くまでの時間はどのくらいかかるか答えなさい』
「パス」
「……なんで急にまともな問題になるんだ?」
「これなら簡単ですよ〜。3番です」
「マジでっ?」
さすがはななこさん、タダモノではなかった。
「なかなかやりますね……」
琥珀さんも今の正解でななこさんをライバルと認めたようだった。
いや、何のとか言われたら困るけど。
強いて言うならですますっ子対決?
「……蟹座みたいだ」
「志貴さん、何か言いました?」
「いや、積尸気冥界波の威力について考察してただけだよ」
「は、はぁ」
いかん、聖闘士知らない人にそんな事言ってどうするんだ俺。
『だいせいかーい!』
俺が下らないことを考えている間にもななこさんは正解を叩きだしている。
『次のうち日本で見る事の出来ない星座は……』
「4番っ!」
即座にボタンを押すななこさん。
『ぶぶー! おおはずれー! やっちゃえバーサーカー!』
『■■■ーっ!』
がくんがくんと派手に画面が揺れる。
「あ、あれ? おかしいなぁ……」
『カシオペア座の……』
「えーと、じゃあ、2番」
『ぶぶー! おおはずれー! やっちゃえバーサーカー!』
『■■■ーっ!』
「……おいこらななこ。テメエまさか、全問勘でやってるんじゃねえだろうな」
びくうっ!
「そそそそ、そんなことないですことないあるよ?」
「……」
一瞬でもななこさんを凄いと思ってしまった俺って何なんだろう。
「ふっ。所詮サブキャラですね」
琥珀さんは意味のわからない事を言っていた。
「っていうか次でゲームオーバーじゃん」
答えを間違えたので主人公のライフは残り1となってしまっている。
「あわわ、ど、どうしましょう有彦さん」
あわてふためくななこさん。
「知らん。テメエで選んだ問題だ。テメエでクリアしてみせろ」
「うう……」
「そうしたらテメエのことをもうちっと高く評価してやるぞ」
落ち込むななこさんにぽつりと呟く有彦。
「え……」
それを聞いたななこさんの顔がやる気満々に変わっていった。
「やってやりますっ! わたしは精霊なんですからっ!」
『次のうち体積が最も大きい惑星を答えよ』
「さ、3の火星っ!」
『ぶぶー! おおはずれー! やっちゃえバーサーカー!』
『■■■ーっ!』
GAME OVER
「……」
「……」
「こ、こんてにゅーOKでしょうか?」
「アホ」
「あうぅ……」
「ったくしょうがねえなオマエは。貸してみな」
悪口を言いながらも有彦の顔は笑っていた。
それは彼女か何かに向けるような視線。
「素直じゃねえの」
「あん?」
「いや、なんでもない」
俺も人の事は言えたもんじゃないか、と琥珀さんをちらりと見つめるのであった。
続く