琥珀さん主催、遠野家人生ゲーム大会は無意味やたらと盛り上がっている最中であった。
「遠野家人生ゲーム大会」
その1
「志貴さん。有間のお家から荷物が届きましたよ」
琥珀さんが俺の部屋に荷物を持ってきたのがきっかけである。
「有間の?」
「ええ。持っていき忘れた物を色々包んでくれたとのことです」
有間の家には十年ほどお世話になっていた。
遠野の家に行く事になった時は本当に必要最低限の荷物しか持ってこなかったけれど、有間の家に置いていったものが結構あったのだ。
「どれ……」
中を見るとどれも懐かしいものばかり。
「うわ。こんなおもちゃまで……」
有間の家で最初に買って貰ったおもちゃを見た時は不覚にも感動してしまった。
「お」
「どうしました?」
「人生ゲームだ」
「人生ゲーム……ですか」
そう。有間からの荷物にこれが入っていたのである。
「結構面白いんだよこれ」
「はぁー。そうなんですか」
「やってみる? みんなで」
人生ゲームは大勢でやるとかなり盛り上がるゲームだ。
「いえ。わたしルールとか全然わからないので」
「ちょっとやればすぐわかるよ」
「……はぁ。ではしばらく貸していただけませんか?」
「え? いや、別にいいけど」
それから一週間ほどして人生ゲーム大会をやろうと提案してきたわけである。
メンバーはまあいつもの通りの人たち。
「ピンチの時は助けてね、遠野くん」
「……え。あ、うん」
なんだか既に死んでしまった人がいるような気もしたけれど。
まあお祭り騒ぎみたいなものだ。
あんまり気にしない事にしてゲームが始まった。
「ふっふっふ。これも日頃の行いの賜物というものですね。ラッキーですよ〜」
そして現在。
現在ダントツで一位が琥珀さん。
俺も何故だか琥珀さんの夫と言う立場になってしまったので一位となっている。
「まだまだです! 人生は30代過ぎてからが本番なんですよっ!」
「……離婚マスの増加を希望します」
「あの、翡翠さん、気持ちは分かりますがどうあがいてもマスは増えませんので」
二位はシエル先輩&翡翠のコンビ。
男性メンバーの数が圧倒的に少ないからシエル先輩は男コマでスタートしたのだけれど、開始10分で翡翠と結婚。
翡翠はそれからずっと不満げな様子であった。
「開発したまずい健康ドリンクがヒット。30,000$貰う」
「うわ、また当たりマスじゃないか」
そのくせ進んだマス進んだマスほぼ全てがプラスで、堅実に順位を護っていたりした。
「……あなたたちなんかまだマシなほうですよっ! なんなんですかこのゲームはっ!」
現在三位の秋葉。
「そんなゲームなんだからかっかしなくていいじゃない。気楽に行こうよ。あ。パーティーに羊が乱入。ごちそうがだいなし。1,000$払うだって」
「か、勝手にルーレットを回さないで下さいっ!」
そして夫役がアルクェイド。
能天気にコマを進めるアルクェイドと勝ちにいこうとムキになってルーレットを回す秋葉。
なんていうか双方の悪いところだけがかち合ってしまっている感じだった。
だが、そんなちぐはぐコンビよりもはるかに下、ダントツの最下位路線を進んでいるグループがあった。
「あう、またお金払うんだ……」
「……っかしいなぁ。なんで俺たちだけこうなんだ?」
弓塚さん&有彦コンビ。
一体全体何が悪いのかわからないけれど、罰金マスやらギャンブルマスやら一回休みマスやら、そんなところしか進んでいなかった。
不幸。薄幸。人生お先真っ暗。
「どうせわたしの扱いなんてこんなもんだよね……ふふ、ふふふ」
「お、おい。弓塚っ。そんなんじゃ駄目だっ! こんな時こそ奇跡ってのは起きるんだよっ!」
「あ。子供が生まれたそうです。みなさんお祝い金をお願いしますねー」
「あうぅ……」
財産なんてものは既になく、借金まみれの生活である。
見ていて気の毒であった。
何がいけないのか強いて言うのであれば、弓塚だからとしか言いようがない。
「まさに人生の縮図、人生ゲーム……奥が深いです」
シエル先輩がよくわからない納得の仕方をしている。
「シエルさま。転職のチャンスだそうです。ルーレットを回してください」
「はいはい、行きますよ」
くるくるくるくる。
「8番……」
「えーと8番はなんだっけ?」
ルールブックを確認。
『無職』
「な、なんですとっー!」
「……無様です」
「ふ、ふふふふ! ついに私たちの時代が来ましたよっ! すぐに追い抜いて見せますっ!」
「でもわたしたちだってフリーターだよ?」
「フ、フリーターだって無職よりは上ですっ!」
ちなみに現在各チームの職業は、俺と琥珀さんが大富豪。
シエル先輩と翡翠はサラリーマンだったんだけど今ので無職に。
アルクェイドと秋葉がフリーター。
弓塚さん&有彦がギャンブラーとなっていた。
「あう、給料出たのにまたマイナス……」
「おかしい……確率五割でプラスになるはずなんだが……」
ギャンブラーという職業はかなり特殊で、他の職業だとルーレットで出た数×いくつの給料を貰えるんだけど、ギャンブラーの場合出た目によってはマイナスになってしまうのだ。
そのぶんプラスの比率もでかく、まさにギャンブラーな職業なのだが。
やっぱり出る数字が悪く、常にマイナスの稼ぎであった。
「あは。また株で儲けちゃいました。プラス50,000$ですよ〜」
「……いいなぁ」
まさに人生の陰と陽。
「っていうかあなたさっきからいい目が出すぎよっ。細工してるんじゃないでしょうねっ!」
秋葉が琥珀さんを睨みつけた。
「細工はしておりませんよー。ただルーレットの回し方を他の方よりよく知っているだけで」
「ひ、卑怯者っ!」
「あは、勝てば官軍というやつですよ」
「……」
このままいくと琥珀さんが優勝するのは間違いないだろう。
だがそれで本当にいいのだろうか?
ゲームの中だからこそ、琥珀さんに人生の厳しさというものを教えるべきなんじゃないだろうか?
「げ……激辛カレーを食べ過ぎて入院?」
「そんな。シエルさまでしたら絶対にあり得ません」
「そうですね。ではこのコマの出金は無効ということで」
「払うものは払ってもらいます」
「うう、痛い出費です……」
一位と二位の差がどんどん開いていく。
「駄目だ、このままじゃ」
このままでいいわけがない。
「よし……」
人生には山もあり谷もある。
この俺がそれを教えてみせる!
続く