「駄目だ、このままじゃ」
このままでいいわけがない。
「よし……」
人生には山もあり谷もある。
この俺がそれを教えてみせる!
「遠野家人生ゲーム大会」
その2
「ついに来ましたよ転職コマっ! さあ、ここで大富豪を当てるんです!」
「妹が大富豪になったってつまんないわよ。超貧乏人とかどう?」
琥珀さんの独壇場は相変わらず続いていたが、二位と三位は割と緊迫した戦いを見せていた。
俺もあのくらいのレベルで勝負したかったなぁ。
「そんな職業ありませんっ! いざ勝負!」
秋葉が気合を入れてルーレットを回す。
くるくるくるくる。
「4番……なんですかっ?」
「4番はサラリーマンだな」
「コメントに困りますねー。もうちょっといいか悪いかして下さらないと」
「け、堅実な生き方が一番なんですよっ! ねえっ?」
「秋葉さまにそのような言葉は似合いません」
「……ぬうう」
確かに秋葉がOLとかやってる姿なんて想像できないなあ。
やはりお嬢様としてふんぞり返ってるのが似合う。
「あっ! す、すごいよ乾くんっ! 5$拾ったって!」
「そ、そうか……よかったなぁ……」
最下位組は聞いていて涙が出てきそうなやり取りである。
マイナス何千のレベルで5$拾ったからといってなんになるというのだろう。
「はい、ではわたしたちの番ですねー」
「あ。ちょっと琥珀さん。俺に回させてくれない?」
「志貴さんがですか? 別に構いませんけれど」
今更細工をしなくても楽勝と思ったのか、俺にルーレットを回させてくれる琥珀さん。
「よし」
隣でずっと見ていて任意の数を出すやり方はわかっている。
俺はそのマスを狙ってルーレットを回した。
「3ですねー。いちにの……」
コマを進めて行く琥珀さんの手が止まる。
「どうしたのよ」
その次のマスにはこう書かれているのである。
「愛は世界を救う! ボランティアに参加。最下位のチームに持ち金の半額を手渡す」
「こ、これは……」
「ほら、琥珀さん。ルールなんだからお金払わないと」
「し、志貴さんまさかっ?」
「……あーあ。運が悪かったね」
俺はわざととぼけてみせた。
「いい気味ですっ! 調子に乗ったバチがあたったのよっ!」
「くっ……敵は陣中にありというやつですか」
渋々ながら弓塚チームに財産の半額を手渡す琥珀さん。
これで弓塚チームの借金はほぼ消えた形となる。
「あ、ああ、ありがとう遠野くん……ありがとう……」
「ピンチの時は助けるって約束しただろ」
これでようやく約束を果たせたわけだ。
「ふん。それでも最下位には変わりありませんよ」
秋葉が睨みをきかせてくる。
「ねえ。ひょっとしてこれでわたしたちが一位かな?」
「え?」
アルクェイドの言葉を聞いて慌ててドル札を数えだす秋葉。
「ほ、本当ですね……」
さすがに財産が半分となっては琥珀チームが一位の座にいられるわけがない。
当然秋葉たちが繰り上がる形となるわけだ。
「ついに私たちの時代がやってきました!」
「わーい。やったやったー」
二人してブイサイン。
「……ほら、調子乗っちゃってますよ? どうするんですか志貴さん」
「ま、まあ大丈夫じゃないかな」
多分俺たちが何もしなくても。
「てやあっ!」
バナナですべって転んで腰を痛める。一回休み。おまけに1000$失う。
「うわ。妹最悪っ!」
「こ、こんなバカなっ! これは何かの罠です! 陰謀です!」
「……はいはい。大人しく支払えよ」
勝手に自滅していた。
案外コイツはチャンスに弱いのである。
「はぁ。一回休みだとやることがありませんねえ」
「プラスはありませんがマイナスもありません。大人しく逆転の機会を待つとしましょう」
こうして金額のレベルが互角になると、シエル先輩&翡翠組の堅実な戦法がとても恐ろしく聞こえた。
「い、いくよ乾くん。ルーレット回すよ?」
「ああ。これをきっかけに運命が変わってくれればいいんだけどな……」
そして弓塚チーム。
「えーと。10っ!」
「おおっ! すげえ! 初めてでかい数字が出たぞっ!」
止まるマスも不幸で、出る数も不幸だったのに、初めてでかい数字が現れた。
「運命って変わるんだねっ!」
「そうだっ! 不幸キャラだって救われることがあるんだよっ!」
『な、なにをするきさまらー! 主人公に襲われ抵抗も出来ず冥府へ。全額を失う』
「うわぁぁん! わたしはやっぱり不幸な女の子なんだぁ〜!」
「ゆ、弓塚落ち着けっ! これはゲームだっ! ゲームなんだよっ!」
「ゲームの中ですら不幸……報われないですねぇ」
「そこ、余計なツッコミしないっ!」
ていうかこのコマだけ文字が手書きなのは気のせいだろうか?
「……流石に気の毒になってきました」
「そう? わたしは妹の胸の方が気の毒だけど」
「死にたいんですか、あなた」
「ふふ〜ん」
「勝ち誇った笑みを浮かべるんじゃありませんっ!」
「まあまあまあまあ……」
ゲームと関係ないところでケンカしてどうするんだよ。
「さてまたわたしたちの番ですね」
琥珀さんの目がキラリと光る。
「あ、ちょっと」
俺がルーレットを回そうとする前に回されてしまった。
出た数字は2。
「いっちにー」
『物件の買収対決』
「なんだこれ?」
「ええ。対戦マスです。勝てば利益を得られますが負けるとひどい事になります」
「ふーん……」
『ルーレットを3回回して数字の大きいほうが勝者となり、20000$得る。負けたほうは参加費として10000$支払う』
「なるほど」
勝てばでかいけれど負けるとかなり痛いな。
「さあ。どなたかこのわたしと対戦する人はいませんかっ!」
「……」
「……」
「……」
「……」
さすがにみんなすぐ挙手とはいかないようだった。
「みなさん臆病ですね〜」
「……!」
挑発にいち早く反応したのは秋葉。
「妹。そんな安い挑発に乗ってどうするのよ。今はわたしたちが一位なのよ。そんな勝負に出る必要はないわ」
「……確かにそうですね。今の琥珀は三位ですもの」
「むむむ」
ここに来て急にアルクェイドが冴えだしたようだ。
「弓塚さん、いかがです?」
「……やだ。結果見えてるもん」
「だな。負けるのがわかりきってる」
「乾くん酷いよぅ……」
薄幸弓塚チームは当然辞退。
「となると残りはシエルさんたちですが。どうなさいます?」
「……ええ。やりましょう」
「シエルさま?」
「え? ほんとですか?」
堅実至極無難なシエル先輩がなんて珍しい。
「ここで勝てばわたしたちが一位になれますからね。しかも強敵である琥珀チームにマイナスを背負わせられる千載一遇のチャンスです」
「……シエルさま。わたしは反対です。姉さんのことです。ろくでもない事を考えているに決まっています」
「うわ、翡翠ちゃんがひどい事言ってる」
「事実だからなぁ」
「し、志貴さんまで。ああ、わたしの味方は誰もいないんですね。悲しくて涙が出ちゃいます。女の子だもん」
「シエル先輩。やめたほうがいいと思うよ?」
琥珀さんがこういう泣き真似をするときはろくでもないことを企んでいる時なのだ。
「いえ。大丈夫ですよ。取引技は極めてますから」
不敵に笑うシエル先輩。
「ならばグループ技を見せ付けてやりますよ。ふっふふっふっふっふ」
「うふふふふふ」
果たしてこの勝負、どうなるんだろうか?
続く