「……何をやったかわかりませんが、わたしたちがまだ一位だということをお忘れなく」
「一気にゴールに行ってしまいましょうシエルさま。そうすれば逃げ切りです」
「そうですね。一気に行きますっ」

先輩がルーレットを回す。

10が出ればその時点で先輩たちはゴールだ。

「……」
 

果たしてこのゲームの運命やいかに。
 
 

「遠野家人生ゲーム大会」
その11




くるくるくるくる。

運命を決めるルーレットが回る。

「10が出ませんように……」

祈るような仕草をする弓塚。

「確率は十分の一……だが」
「出ないで出ないで出ないで……」
「シエル先輩が勝つなんてあり得ません……キャラクター的にあり得ません」

秋葉がどさくさに紛れてひどい事を言っていた。

「努力したものが成功するとは限りません……ですが成功した人は皆努力しているものです」

ルーレットが止まった。

『10』

「あ……」
「そんなっ! 嘘でしょうっ!」
「ああ……」

終わった。

これでシエル先輩たちの勝利だ。

「認めません、こんなの!」
「……妹。あがいたって見苦しいだけよ。諦めましょ」
「ぐう……」

悔しそうに拳を握り締める秋葉。

「ああ……やっぱり届かなかった……」
「弓塚。二位ってだけで十分じゃねえか。最初の頃から考えたらあり得ない事だろ?」
「……そうだね」

案外先輩&翡翠チームが勝ってよかったかもしれない。

他のチームだともっとややこしい事になってただろうからなぁ。

「ではコマを進めてくださいシエルさま」
「いえ。最後は翡翠さんがどうぞ。あなたのサポートが無ければ勝てませんでしたよ」
「……そんな。わたしは大した事はしておりません」
「はいはい、遠慮しあうのはいいから。二人で仲良くゴールしてください」
「わかりました。では」

翡翠がコマを進めて行く。

そして。

「ゴールっ……!」

ついにゴールへと辿り着いた。

ぱちぱちぱちぱち。

その瞬間誰かが拍手をした。

「琥珀さん」

あの琥珀さんが素直に人の勝利を祝福しているなんて。

ついに改心してくれたのだろうか。

「やっときましたね。おめでとうございます。このゲームを勝ち抜いたのは貴方たちが初めてです」
「は、はぁ、どうも」

どこか警戒した様子のシエル先輩。

「ゲームって……この人生ゲームの事?」

俺は琥珀さんに尋ねた。

「わたしが作った壮大なストーリーのゲームです!」
「……どういう事?」
「わたしはゲームだというのに平和な内容に飽き飽きしていました。そこで自分でマスを書き変えたんです」
「な……何考えてるのっ!」

弓塚が叫ぶ。

「そのせいでわたしはあんなにマイナスマスに止まって……あんなに辛い目に……」
「いや、それは弓塚の出す目が悪かっただけだと思うけど」

琥珀さんが勝手にマスの内容を書き変えたにしてはバランスが取れていた気がするし。

「わたしはわざとみなさんを挑発し、面白くしようとしました。ですがそれもつかの間の事。わたしが一位を独占するのにも退屈してきました」
「そこでわざと最下位に転落……か?」

有彦が尋ねた。

「そう! その通り! わたしが最下位に転落した後、皆さん同士で潰しあいを始めてくれました。あれは楽しかったですねー」

にこにこと笑って答える琥珀さん。

「何もかも姉さんが書いた筋書きだったわけですか……」

翡翠が琥珀さんを睨み付ける。

「なかなか理解が早いですね。多くの資金が無駄な争いの為に消えていきました」
「……」
「栄光か絶望という運命を背負ったちっぽけな存在が必死に生きていく姿はわたしさえも感動させるものがありました」
「何が言いたいのよ、琥珀」

秋葉が吐き捨てるように言った。

「わたしはこの感動を与えてくれた貴方たちにお礼がしたいんですよ。どんな望みでも叶えてあげましょう」
「ふざけないで下さい。貴方の為にここまで来たわけではありません」

シエル先輩も渋い顔をしている。

「よくもわたしたちみんなをオモチャにしてくれたわね!」
「それがどうかしましたか? 全てはわたしが作ったモノなのです」
「わたしたちはモノじゃないもんっ!」
「……いや、このゲームを作ったのが琥珀さんだって意味だと思うんだけど」

ヤバイ、なんだか一触即発の状態である。

「『かみ』にケンカを売るとは……どこまでも楽しい人たちです!」

いつから神様になったんだろうこの人は。

「皆さん文句があるようですから、これを差し上げましょう」

琥珀さんは一枚のカードを取り出した。

『塔』

「これは……」

内容を見ようとしたところを隠されてしまったカードだ。

「このカードは指定の相手と無条件で対戦できるカードです。お互いの資金が0になるまで戦いは続きます。あなたたちは既にゴールした身ですが……どうなさいますか?」
「いいでしょう。貴方を倒してこそ真の勝利と言えそうですしね」
「姉さん、わたし怒りました」

先輩たちは琥珀さんの提案を承諾した。

「シエルっ! こうなったら手伝わせて貰うわよっ!」
「琥珀っ! 今日という今日は勘弁なりませんっ!」
「わ、わたしだって! 不幸なマスの復讐をしてあげるんだからっ!」
「……まあ先輩には世話になってるしな」

シエル先輩&翡翠チームに残りの全員が終結してしまった。

「えーと……」

一応琥珀チームの俺としては非常に困った状態なんだけれど。

「志貴さんもあちらへ行きたければ行ってもいいですよ?」
「う」

そう言われてしまうとますます行き辛い。

「何をごちゃごちゃ言ってるんですか。さあ勝負ですよっ!」
「……どうしてもやるつもりですね」

深々とため息をつく琥珀さん。

「これも生き物のサガですか……宜しい。死ぬ前に『かみ』の力とくと目に焼き付けて下さい!」

ついに神(自称)と人間たちの戦いが始まってしまった。

「ルールは単純明快っ! ルーレットで出た数字×1000$分のダメージを与えられますっ!」

琥珀さんがルーレットを回す。

出た数字は9。

「……ってことは9000$か」

一度の攻撃で結構なお金が失われる事になる。

「さらに『ひかりあれ』で攻撃!」
「うわ、えげつねえ」

そして琥珀さんには大量のアイテムカードがあるのだ。

「効果は盲目です。目を閉じてルーレットを回していただきます」
「……ふ。甘いですよ琥珀さん! わたしたちがRPG界をさ迷っていた事をお忘れですかっ!」
「カードを使用させていただきます。『元気の水』」

カードの効果は全てのステータス異常を無効。

「これで目をつぶる必要はありませんっ! てやあっ!」

気合を入れてルーレットを回すシエル先輩。

出た数字は7。

「あはっ。なかなかやりますねー」

最下位になってしまっている俺たちの資金はかなり少ない。

大きな数字を立て続けに出されたらすぐにやられてしまうだろう。

「ではこのカードを。『ふっかつ』」
「復活?」

なにやら嫌な予感がするカードだ。


 かみはHPがもとにもどった! 
 かみはHPがもとにもどった! 
 かみはHPがもとにもどった! 
 かみはHPがもとにもどった!』

「……何故四回も」

しかも思いっきり『かみ』とか書かれてるんだけど、琥珀さん専用カードだったりするんだろうか。

「仕様です。これでHPが全快します」
「HPって何さ」
「ひらめきポイントです」
「そ、そう来ますかっ?」

それなら普通にヒットポイントでいいと思うんだけれど。

「閃き度全快の状態は怖いですよ〜。一列全員電球とかありますから」
「……よくわからないんだけどパワーアップしたってこと?」
「まあ見ててくださいな。うふふふふ」

果たして神と化した琥珀さんに皆は勝つ事が出来るんだろうか。

どうか皆が勝って平和な世界が訪れてくれますように。
 

俺にはそう願う事しか出来ないのであった。
 

続く



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