「シエル先輩。やめたほうがいいと思うよ?」

琥珀さんがこういう泣き真似をするときはろくでもないことを企んでいる時なのだ。

「いえ。大丈夫ですよ。取引技は極めてますから」

不敵に笑うシエル先輩。

「ならばグループ技を見せ付けてやりますよ。ふっふふっふっふっふ」
「うふふふふふ」
 

果たしてこの勝負、どうなるんだろうか?
 
 

「遠野家人生ゲーム大会」
その3








「ではシエルさんからお先にどうぞ」

琥珀さんのスマイル。

「ええ。それでは回させていただきましょうか」

シエル先輩にスマイルは通用しないようだ。

「ぶぅ……」

琥珀さんはなんかえらい可愛い悔しがり方をしていた。

「カレー工房を知るもの来たれ!」

謎の掛け声とともにルーレットを回す。

くるくるくるくるくるくる……

「どうかいい数字を……」

翡翠が祈るような仕草をしていた。

そして出た数字は。

『9』

「うわ、いきなりヤバイですねー」

ルーレットの数字は最大で10だから、その次にでかい数字を当てた事になる。

「琥珀さん。これは厳しいんじゃないかな」
「大丈夫です。ならばこちらはそれを上回る10を出せばいいんですから」
「……」

いかん、この人はどんな数字でも思いのままに出せるんだった。

これじゃシエル先輩の負けが確定しているようなものである。

「ではいきますよっ。教授のダンス〜くるくるくる」
「えい」
「うわっ! な、なにをするんですかあっ!」

琥珀さんがルーレットを回そうとした瞬間俺が先にそれを回してしまった。

「俺だってチームなんだから回したっていいじゃないか」
「うう。志貴さんがわたしのことをいじめますー」

毎度ながらの泣き真似を始める琥珀さん。

いくら俺だってそう何度も騙されるわけにはいかない。

「いいですよ兄さんっ! もっとやっちゃって下さい!」
「さすがは志貴さまですね」
「いやあ。照れるなあ」

琥珀さんが悪役で俺が正義の味方という構図が出来上がっていた。

のだが。

『10』

「うわ、志貴ってサイテー」
「見損ないました」
「兄さん……外道ですね」

たちまち一変してブーイングの嵐。

「あはっ。わたしは志貴さんを信じてましたよー」

琥珀さんだけは満面の笑顔だった。

「な、なんでこんな時ばっかり」
「やりますね遠野君……ですがわたしにだって意地というものがあります」

シエル先輩のメガネがきらりと光る。

「カレー工房を知るもの……」
「あ。そういえばわたしメシアンのトッピング無料券を持ってたんですよ」
「え?」

琥珀さんカレー嫌いとか言ってなかったっけ?

「ちょっとその話詳しく聞かせてくださいっ!」
「し、シエルさま!」
「はっ!」

シエル先輩の腕がルーレットに当たり、力なく回転をはじめる。

くる……ぴた。

『1』

「あららー。1$も出して貰えなかったようですねー」
「ひ、卑怯ですよっ! カレーをダシにするだなんてっ!」
「カレーをダシになんてしたらお料理が台無しになってしまいますよ。それに無料券の話は本当ですし。ほら」

服の裾からチラシを取り出す琥珀さん。

「あ。ほんとだ」

確かにそれはメシアンのものである。

「ふっふっふ。これを譲って欲しければ勝ちを譲ってくださいな」
「くっ……なんて難しい選択を」
「悩む必要は無いと思います」

翡翠が渋い顔をしていた。

「さて、またわたしの番ですが。志貴さん回しますか?」
「え」

みんなの視線が俺に集中する。

これででかい数字を出したらまたえらいヒンシュクを買いそうな感じだ。

「遠野くん……」

弓塚が不安そうな顔で俺を見ている。

「そ、そうだ!」

俺はいいアイディアを思いついた。

「弓塚ちょっと手を出して」
「え?」

弓塚の差し出した手を上から握る。

「と、とととととおおっ?」
「そのまま」

弓塚の手を移動させ、ルーレットへ。

「回して」
「あ、え、うううう、うん、ま、まわすよ?」

くるくるくるくる。

『1』

「さすが弓塚だ!」

その不幸パワーは想像以上である。

「え? 褒められてる? わ、わたしが遠野くんにほめられて……はうぅ」

なんだかよくわからないけど弓塚は顔を真っ赤にして今にも爆発しそうだった。

「……なあ、オレ色々と突っ込んでもいいかな」
「多分無駄だと思います」
「ちっ」
「ふん、手を握ったくらいで大げさな」

一方で外野席はやたらと冷めている。

「他のチームの方の力を借りるのは反則ですよ志貴さん。次はそれなしですからね」
「はい、ごめんなさい」

とりあえず琥珀さんには頭を下げておいて。

「この最後のルーレットの数字で勝負が決まるわけですね」
「はい。泣いても笑ってもこれで決まります」
「シエルさま、どうかご武運を」
「わかっていますよ。勝負どころには強いんです、わたし」

ああ、先輩翡翠チームのなんと仲むつまじい事か。

うちのチームとかアルクェイド秋葉チームでは絶対見られない光景である。

「メイドの熱き血を知るもの来たれ!」

シエル先輩がルーレットを回す。

くるくるくるくる。

「……」

全員がその結果を沈黙して待った。

『9』

「や、やりました!」
「さすがです、シエルさま」
「はー。なかなかやりますねぇ」

さすがはシエル先輩。ここぞという時に結果を残せる人だ。

「さあ、あなたたちの番ですよ」
「最後ですねー。志貴さん、回しますか」
「え?」

何故かここでも琥珀さんは俺にルーレットを回させるような事を言ってきた。

「俺、わざと小さい数字出すかもしれないよ?」
「大丈夫です。お任せします。わたし志貴さんを信じてますから」
「……」

決意が揺らぐ。

俺はこの琥珀さんの信頼を裏切らなくてはいけないのか。

「兄さん! 騙されては駄目です! それがその女の作戦なんですよ!」
「そうだそうだー。ひきょーものー。志貴はすぐ騙されるんだからちょっとは懲りろー」

またも外野からブーイングの嵐。

「うおお、どうすればいいんだ」

思わず頭を抱えてしまう。

「当たって砕けるといいと思います」

翡翠のよくわからない助言。

「よ、よし」

とにかく回してみよう。

結果は神に委ねろってやつだ。

くるくるくるくる。

『3』

「や、やりました翡翠さんっ! わたしたちの勝ちですよ!」
「はい……やはり最後に正義は勝つのですね」

手を取り合って喜ぶシエル先輩と翡翠。

「……ねえ妹。これであの二人が一位になっちゃったわよ?」
「抜かれたら抜き返せばいいのですよ。大して離れてはいませんから」
「それもそうね。がんばろっ」

一位を取られて闘志を燃やす秋葉とアルクェイド。

「ねえ乾くん。わたしたちってだんだんいらない存在になってないかなぁ」
「弓塚はまだ出番があるだろ。俺なんぞしゃべるタイミングすらないぞ……」

順位とは別のところを気にしている弓塚と有彦。

そして。

「……」
「こ、琥珀さん。その」

俺の隣で琥珀さんは落ち込んでいた。

ように見えたのだが。

「……全て作戦通りです」
「え」

その呟きはあまりに小さな声で周りには聞こえなかったらしい。
 

「……」
 

俺はまだ何かを企んで入るらしい割烹着の悪魔を前に、ただならぬ不安を感じるのであった。
 

続く



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