「見てろよ弓塚! 脇役の意地ってやつを見せてやるぜ!」

何かを賭けて戦う男の姿というのは光るものがある。
 

果たして弓塚チームに運命の女神は微笑んでくれるのだろうか?
 
 



「遠野家人生ゲーム大会」
その5







「相手が17ってことはこっちは6以上を3回出せばいいんだからな。落ち着いて行けよ」
「う、うん」

最初に回すのは弓塚。

くるくるくるくる。

『5』

「ご、ごめん。ちょっと足りなかった……」
「いや、いいんだ。十分だよ。よく頑張ったっ!」

確かに弓塚にしては5というのは大きすぎる数字だった。

「あれよね。素手レベル1のくせに千手観音覚えさせてみたとかそんな感じ」
「……わけのわからない例えをしないでくれ」
「よーしっ! 行くぜ見てろ俺の生き様! どりゃー!」

気合を入れてルーレットを回す有彦。

『9』

「いよっしゃああ!」
「や、やったあっ! すごいよ乾くんっ!」
「……こ、これは」
「ちょっとまずいわよ妹。どうするの?」

ここに来て弓塚チームが底力を発揮し始めていた。

脇役といえどもあなどってはならない。

彼らがいなくては物語は成立しないのだから。

「さ、最後のルーレットを回すのは弓塚さんにしなさいっ!」

びしっと弓塚を指差す秋葉。

「や、やだっ! わたしが回したら負けちゃうっ!」

さすがに自分の薄幸を自覚してるのか、弓塚はぶんぶんと首を振った。

「ええいわがままを言わないの! 弓塚チームなんだから弓塚さんが回すのが当然でしょう!」

負けてなるものかと滅茶苦茶な事を言いだす秋葉。

「……いいぜ。弓塚回せよ」
「え?」

なんと有彦はこの勝負を決める重要なルーレットを弓塚に任せるらしい。

「ほ、ほんとにいいの?」
「おう。おまえの生き様を見せてやれ!」

なんだろうこの有彦の男前っぷりは。

「惜しいですね。志貴さまがいなければ立派に主役を張れたと思います」
「ある意味志貴よりかっこいいんじゃないかしら?」
「そうですねー。普段の志貴さんはただのヘナチョコ君ですし」
「……あのなぁ」

一方散々な評価を受けてしまう俺。

「よ、よーし、じゃあやってみるっ!」
「おうっ!」

現在弓塚チームの数字の合計は14。

3以上を出せば勝てるのだ。

確率でいったら全然余裕のはずなんだけれど。

「これで負けたら戦犯ものですねえ」
「……うう」

弓塚にプレッシャーをかける秋葉。

「秋葉さま、丸っきり悪役ですねえ。わたしの影が霞んでしまいますよ」
「なんであんなに悪役が似合うんだろうなあ」
「そこ。五月蝿いですよ」
「はーい」
「へいへい」

しかも自覚がないところが恐ろしいんだよなあ。

「まあ落ち着け弓塚。俺が雪だるまの話をしてやろう。雪だるまっつーのはな。目とかを墨で作るんだぞ」

有彦は突然雪だるまの話を始めた。

「え……なんで雪だるま?」

ひゅるりら〜。

冷たい風が吹いた気がした。

「これでいいのだ」
「えと……回していい?」
「おう」

なんと今の会話で弓塚は落ち着いてしまった。

もし有彦が狙ってやったんだったとしたら本当に凄いやつである。

「ワ、ワンダーツアーズを知るもの来たれぇっ!」

思いっきりルーレットを回す。

「……また微妙なとこついてきたわねえ」

くるくるくるくる。

果たして運命の行方は。

『2』

「2……ってことは」

合計数字は16。

「あ、ああ……うああああ……」

弓塚は今にも泣き出してしまいそうだった。

「や、やった! 勝ちましたよアルクェイドさん!」
「……勝ったは勝ったけど。後味よくないわねえ」
「なんでもいいんです! 勝てば! さあ報酬をよこしなさい! そして参加費を支払いなさい!」
「鬼だ……」

まるで容赦のない秋葉。

「やれやれ」

有彦がため息をつきながらルーレットを回していた。

出た数字は8。

「有彦が回してたら勝ってたかもしれないな」
「……うわぁあああん!」
「はっ!」

俺の言葉がいけなかったのか、ついに弓塚は泣き出してしまった。

「志貴さま、外道です」
「酷いですねー。敗者にそんな追い討ちをかけるだなんて」
「見損ないましたよ遠野君」
「なんで俺ばっかり突っ込まれるんだっ?」

秋葉のほうがよっぽどひどい事言ってるのに。

「弓塚泣くな。おまえが泣く必要なんて何もないんだ」

有彦が弓塚の肩を叩く。

相変わらずの男前っぷりである。

「で、でもわたしのせいで……」
「負けたってか?」
「……」

こくり。

「みんなもそう思ってるのか?」
「そ、それはまあ……その」

さすがに面と向かって尋ねられると秋葉も返答に困っていた。

「……残念だな。俺たちの勝ちなんだよ」

不適に笑う有彦。

「え?」
「ど、どういうことですか?」
「……これだよ」

有彦は一枚のカードを取り出した。

「そ、それは……!」

いわゆるアイテムカードというやつだ。

特定のマスに入った時だけ手に入るものである。

「そして効果は言ったよな。ルーレットを好きな時に二度回す事が出来るって」

有彦の出したそれは「銀の手」であった。

「そ、そんな! 卑怯ですよ!」
「卑怯じゃないさ。好きな時にって書いてあるだろ。取引対決の時に使っちゃいけないなんて書いてない」
「……あーあ。完璧な負けじゃない、これ」

ため息をつくアルクェイド。

「負けを認めるのですかっ?」
「ええ。油断したわたしたちが悪いのよ」
「……くっ」

がくりとうなだれる秋葉。

「ほ……本当にわたしたちの勝ちなの?」

弓塚は今自分たちに何が起こったのか理解出来ていないようだった。

「ああ。本当だ。これで俺たちも立派な上位組だぜ」

勝負に勝って大量の資金を手に入れた弓塚チームは俺たちを追い抜いて二位にまで飛んでいってしまった。

「これが賞金です」
「わ、わわわわわわ……」

弓塚チームの前に差し出される大量の札束(オモチャだけど)

「……ネコに小判ですよ」
「瓢箪から駒じゃない?」
「のれんに腕押しです」
「いや、意味が分からないから」

どれも微妙に当たってるような気がするのが面白いところだけれど。

これによって順位は大いに変動してしまった。

一位 シエル先輩&翡翠チーム
二位 弓塚&有彦チーム
三位 アルクェイド&秋葉チーム
四位 琥珀さん&俺チーム

「え」

なんと俺たちが最下位である。

「……うふふふふふふ」

そしてなおも怪しく笑う琥珀さんの姿が。
 

いよいよもって彼女の本領が発揮されそうな悪寒がするのであった。
 

続く



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