一位 シエル先輩&翡翠チーム
二位 弓塚&有彦チーム
三位 アルクェイド&秋葉チーム
四位 琥珀さん&俺チーム
「え」
なんと俺たちが最下位である。
「……うふふふふふふ」
そしてなおも怪しく笑う琥珀さんの姿が。
いよいよもって彼女の本領が発揮されそうな悪寒がするのであった。
「遠野家人生ゲーム大会」
その6
「さて次はわたしたちの番ですよねー」
琥珀さんがルーレットに手をかける。
「ちょ、ちょっと琥珀さん」
ここはひとつ注意を促しておこう。
「はい、なんですか?」
「あくまでゲームなんだからね。本気になっちゃ駄目だよ」
「ええ。それくらいわかってますよー」
「……ならいいんだけど」
「この琥珀を敵に回す事がどれだけ恐ろしいか思い知らせてさしあげます」
「いや、全然わかってないしっ!」
止めようとした時には既にルーレットは回ってしまっていた。
「ああああ……」
一体どんなマスに止まろうというんだろう。
「9ですねー。ちゃっちゃと進みますよー」
意気揚々としてコマを進めて行く琥珀さん。
『武装商船団に襲われ3000$失う』
「……え?」
止まったマスはマイナスマスであった。
琥珀さんは自分で好きな数字を出せたはずだ。
なのにどうしてこんなマスに?
「あらら……おかしいですね。腕が鈍ってきたんでしょうか」
「天罰が当たったのよ」
「日頃の行いの悪さのせいなのかしらねぇ」
本当にそうなのだろうか。
これも琥珀さんの作戦なんじゃ?
いや、でもわざわざマイナスマスなんかにいくメリットなんかまずないわけで。
「志貴さんごめんなさいね。わたしが不甲斐ないばっかりに」
「い、いや、別に気にしないで……」
それとも小細工は止め、正々堂々勝負するつもりなんだろうか。
性格上そういう言葉を言えないだけであって。
「うーん」
もうわけがわからなくなってきてしまった。
「こういうところで油断すると痛い目を見ます。油断してはいけませんよ翡翠さん」
「存分に承知しております」
一位になっても翡翠と先輩の堅実プレイスタイルは変わらないらしい。
「4です」
「どれどれ……む。ようせいを発見するが騙される。1000$失うですか……」
「……申し訳ありません」
「いえいえしょうがないですよ。出た数字が悪かったんです」
堅実に進んだとしてもやはりマイナスは出てくるものだ。
ある程度の運も必要とされる。
それが人生ゲームだ。
「さあ、一発逆転いくわよっ!」
「株で一気に巻き返してやりますっ!」
どんなに意気込んでルーレットを回しても。
「大量のネズミに襲われ全身ズタボロ。入院費20000$支払う……って何よこれえっ!」
「そんな! 保険はどうしたんですか保険はっ!」
「……保険に入ってる場合は……10000$だって」
「それでもそんな出費になるんですか……」
駄目な時はとことん駄目。
「な、なんかみんな不幸だね」
「運気が流れたんじゃないか?」
逆に調子に乗っている時は。
「そうかな……えいっ」
「お。金持ちのお嬢さんを助けて感謝される。2000$手に入れただってよ」
「う、うわ、ど、どうしちゃったんだろう……」
妙にプラスが出まくったりで。
「なかなか面白い展開になってきましたねー」
「……うーむ」
このまま行くと最初の順位がまるっきり逆転しそうな勢いである。
「もしや」
琥珀さんは薄幸少女弓塚に勝ちを譲ってあげるつもりなんじゃないだろうか。
だとしたら琥珀さんへの評価がかなり変わってくるんだけれど。
いや、でも弓塚チームが一位になったのは有彦の作戦勝ちだったわけだし。
「志貴さん、回してもいいですか?」
「え、あ、うん。どうぞ」
「くるくるくる〜」
ひょいひょいとコマを進めていく。
「庭の木の伐採のためチェーンソーを購入。4000$支払うだそうです」
「チェ、チェーンソー」
「かみすら真っ二つに出来ますよー」
「……いや、紙くらい切れるだろうけどさ」
「アイテムカードゲットです」
「そんなもん手に入れてもなあ」
一体何に使えばいいんだろう。
「ふ。もはや琥珀チームは敵ではありませんね」
三位だというのに秋葉はやたら強気だった。
「妹。そんな事言ってるとまた痛い目をみるわよ」
「……そ、そうですね」
「む」
ここに来てアルクェイドチームにもチームワークが出来てきたか?
「妹が勝手な事しなきゃ負けないんだから」
「なんですってえ!」
「まあまあまあまあ……」
やっぱり駄目か。
「アイテムで思い出しましたけれど、手に入れたアイテムっていつ使ってもいいんですか?」
シエル先輩が琥珀さんに尋ねる。
「ええ。条件のあるもの以外はいつでも構いませんよ」
「ほうほう。では竜槍スマウグを売ろうと思います」
「うわ、超レアアイテムですよ? いいんですか?」
「ええ。槍はいりませんから」
確かに日常生活をするのに槍なんかいらないだろう。
「売値は4999$ですねー」
「3本持ってますんで×3でお願いします」
「……一体どこで手に入れたんですかそんなもん」
「ゲーム序盤でRPG世界に迷い込んでしまった時です」
「そういえばシエル先輩たちだけ全然違うところ進んでたっけ」
無難どころか大冒険の世界を歩んできていたのか。
「あの時の事は思い出したくありません」
「い、いいじゃないですか。無事生きて戻って来れたんですからっ」
一体どんな人生を歩んできたんだろう。
「では換金しましてー。ルーレット回してくださいな」
「ええ。これでまた二位との差が開きましたね」
「……高望みしちゃ駄目……二位でも十分……十分すぎるんだから……」
心配しなくても弓塚チームには上位にのし上がろうという気持ちはないようだった。
「アルクェイドさん。まずは弓塚チームを追い抜きましょう。勝負はそれからです」
「OK。こっちも売れるアイテムがないか探してみるわ」
案外各チームごとに変なアイテムを持っていたりするのである。
さっき手に入れたチェーンソーとか。
「……ん?」
ちょっと待てアイテムだって?
俺は琥珀さんの手元を慌てて見てみた。
そこには大量のアイテムカードが。
「ま、まさか」
マイナスマスや一回休みマスに止まっていたのはアイテムカードを手に入れるためだったんじゃないだろうか。
そして、その中に一発逆転の要素を持った究極のカードが隠されているんじゃ。
「……」
俺はカードの効果を確認し始めた。
空気の実。海水に浸すと空気を出す。違う。
イレイサー99。朱雀のバリアを無効化……ってなんじゃこりゃ。
フライパン。混乱を治す。もはや意味が分からない。
「……ん」
そんな中目についたカードがあった。
それは「塔」というカードだ。
世界の真ん中に立つ塔は楽園に通じているという。
遥かな楽園を夢見て多くの者たちがこの塔の秘密に挑んでいった。
だがその運命を知る人はいない。
そして今また一人……
「なんだろう、このカード」
まだ文章は続いていた。
さらに続きを読もうとした、その時。
「それは駄目です志貴さん。大事なものですから」
「あ」
琥珀さんにカードを取られてしまった。
「……」
どうやらその塔のカードは重要なものらしい。
一体そのカードで何が起きるというんだろうか。
「うおおっ? ギャンブルで普通に当たったっ? マジですげえぞ弓塚! どうしたんだっ?」
「わ、わからないよっ……この幸運……絶対おかしい」
弓塚のあり得ないほどの幸運ぶりが、今後の波乱を暗示しているかのようであった。
続く