琥珀さんにカードを取られてしまった。
「……」
どうやらその塔のカードは重要なものらしい。
一体そのカードで何が起きるというんだろうか。
「うおおっ? ギャンブルで普通に当たったっ? マジですげえぞ弓塚! どうしたんだっ?」
「わ、わからないよっ……な、なにこの幸運……絶対おかしいよっ」
弓塚のあり得ないほどの幸運ぶりが、今後の波乱を暗示しているかのようであった。
「遠野家人生ゲーム大会」
その7
「さあ行くわよっ! 必殺かすみ二段っ!」
「……一回はフェイントなんですね」
あいも変わらず無駄に気合を入れてルーレットを回しているアルクェイドチーム。
「志貴さん志貴さん」
「ん?」
そんな光景を眺めていると琥珀さんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「この状況、どう思います?」
「どう……って?」
「思うままで構いませんから」
「うーん」
現在、シエル先輩チームに弓塚チームがじりじりと近づいていっているような状態だ。
シエル先輩たちが悪いマスに止まっているわけではなく、純粋に弓塚たちが追い上げているのだ。
「弓塚チームが急に強くなった感じがするけど」
「多分無意識にコツを掴んだんですよ、弓塚さんは」
「ルーレットを回す?」
「ええ。極意を習得したと言ってもいいでしょうね」
ルーレットの極意。果たして人生でどれだけ役に立つ機会があるんだろうか。
「ただまあ自分でそれをわかっていないから自滅する可能性はありますが」
「……だね」
自分は不幸だと思い込んでるフシがあるからなあ、弓塚は。
「なかなか面白い展開になってきたでしょう」
「うん、それはそう思う」
まさかこんな展開になるとは予想してなかったからなあ。
「ええ、楽しんでいただけて幸いです。わたしが悪役をやっている甲斐があるというものですよ」
そう言って笑う琥珀さん。
「……」
もちろん普通にゲームをやったって楽しい。
けれど、何かひとつの目標を持っていたほうがゲームは盛り上がるのだ。
俺たち以外の……いや、俺も含めてこの人生ゲームでの目標はみなひとつだった。
琥珀さんだけに勝たせてはなるものかと。
その目的の為に努力し、賭け、叫び、勝負してきた。
「もしかして琥珀さんはわざと……」
「それは誰かがクリアしたらお教えしますよ」
「……そっか」
クリアするためにはゴールに辿り着かなくてはいけない。
そのためには大きな数字を出す事が必要だ。
「なら次から俺が回させてもらおうかな」
「ええ。お任せします」
「よーし。風が……来る!」
でかい数を出して一気に進んでいく。
『かそくそうちをてにいれた! ルーレット時使用で数値が20上昇』
「に、20ってそんな……サギじゃありません?」
「ルーレットの最大が10でその倍だろ? アリじゃないかな」
「現実にアイテムとして存在しているんですからアリに決まってますよー」
「くっ……なんて卑怯なの」
使ってもいないのに卑怯呼ばわりされるとはこれいかに。
まあいずれは使うんだけれど。
「妹っ。こっちも対抗してインチキアイテムを手に入れましょっ」
「そうですね……目には目を、歯には歯をです」
多分秋葉たちはこうやって無駄な対抗意識を持つから駄目なんだと思う。
「さて、わたしたちは先ほど手に入れたカウンターを売っぱらおうと思います」
「げ、また?」
「あー。カウンターは売値が高いんですよねー。272823$になります」
「……なに、その変な数字」
「わたしに聞かれましても。アイテムカードに書かれている数字ですから」
「ふふふ、着実に稼がせて貰いますよ」
シエル先輩はRPG世界時代に手に入れたいらないアイテムを売りまくって財を得ていた。
若き頃の冒険で手に入れた財宝を晩年になって売り払っているという感じだろうか。
「わたしたちもアイテム手に入れておけばよかった……」
アルクェイドチームは実収入マスばかりに止まっていたのでアイテムカードの蓄えが少ないのだ。
「そういえば乾くん、わたしたちも変なの持ってなかったっけ?」
「あー。死の弓とかブラッディソードとか魔王の盾とかな」
弓塚チームの持っているアイテムはなんだか呪われてそうなものばっかりだった。
「今更過去の事を言ってもしょうがないでしょう。これからの事を考えるべきです」
「そ、そうね。まだ頑張れば勝てる可能性だってあるわよねっ」
「……」
ゴールまであと少しのこの状態だと普通にコマを進めているだけだと勝つのはかなり厳しいと思う。
何かしら派手な動きをしなくては勝ちはないだろう。
「んー。一発逆転のマスならここにありますよ」
「え?」
すると琥珀さんがあるマスを指差した。
『最終防衛システム』
「……なに? これ」
「最終防衛システムと戦うんですよ。勝てば世界を救ったことになり莫大な利益を得れます。負ければその瞬間一文無しですけど」
「取引の強化版みたいなもんか……」
「ええ。こっちは数字が最初から決まってるんですけどね」
最終防衛システムに勝つには三回のチャンスで27以上を出さなくてはいけないとあった。
「それって常に9か10じゃないと駄目って事じゃないか」
かなり無謀な勝負である。
「しかしそれに勝てば一位はほぼ間違いありませんね……」
「妹、どうするの? やるの?」
「当然です。ここで勝負にでないでいつ勝負するというんですかっ」
「OK。そういう決意はキライじゃないわ。それじゃ……」
真剣な目でルーレットを回すアルクェイド。
「まずは最終防衛システムマスに止まらないといけないですけどね」
最終防衛システムマスはイベント的要素が強いのか、5マス位にわたって広がっていた。
と言っても先を行くシエル先輩たちは通り過ぎちゃったし、俺たちも特に関わる事はなかったマスなのだが。
「……よしっ」
アルクェイドは最終防衛システムマスぴったりど真ん中に止まる数字を出していた。
「さすがですねアルクェイドさん」
「これくらい楽勝よ」
手を取り合う二人。
「おお」
ついにこの二人にも友情が芽生えたのかっ?
「……失敗したら殺すわよ」
「それはこちらのセリフです」
「うわーい……」
やっぱり世の中そんなに甘くなかった。
「では最終防衛システムと勝負なされるんですね?」
「ええ。やるわよ」
「……わたしたちにだって奥の手くらいあることを見せてあげるわっ」
「え?」
アルクェイドが一枚のカードを取り出した。
もしや、銀の手と同じようにルーレットを回す回数を増やすアイテムだろうか。
「そ、それは……!」
琥珀さんが珍しく驚いた顔をしている。
そのカードの正体とは。
『ラピットストリーム&クイックタイム』
続く