残りの三つ巴戦となったわけである。
「このまま逃げ切りますよっ」
「あはっ、そう簡単にはやらせません」
「乾くん、わたしたち勝てるかなぁ……」
「……なんとも言えん」
この先の展開の予想はまったくもって不可能であった。
「遠野家人生ゲーム大会」
その9
『洞窟探検をしている途中化け物に襲われ一回休み』
「あらら」
「あと少しなのですが……」
一位独走中のシエル先輩チームが一回休みとなった。
「これはチャンスですね。今の内にお金を稼いじゃいましょう」
「え、あ、うん」
どうやら琥珀さんはまだ勝負を諦めたわけではないらしい。
勝つには結構厳しい状況だと思うんだけど。
やはり謎のアイテムが鍵となるんだろうか。
「じゃー回すわよ妹」
「ええ、どうぞご自由に」
「えいっ」
もはや勝ちがなくなってしまったアルクェイドチームは能天気にルーレットを回していた。
「あ。テンプテーションを覚えただって。どこか1チームを一回休みに出来るらしいわ」
「それならシエルさんチームにして下さい。このまま勝ちを持って行かれるのは癪ですから」
「そうね。じゃあシエルチーム一回休みー」
「ちょ、ちょっと。既に一回休みなんですよわたしたちは?」
「うん。だから二回休みになるわけよね」
にこりと笑って俺の顔を見るアルクェイド。
「シエルに勝たれるのは嫌だから志貴頑張ってよね。わたしたちの果たせなかった夢を叶えてみせて」
「え、あ、うん」
「お金持ちに風当たりが強いのは世の常ですか……」
シエル先輩が無駄に勝ち誇っていた。
「現実ではビンボーなくせに」
「う、うるさいですよっ」
先輩も現実の仕事で苦労している身だ。
ゲームの中でくらい、いい思いをしたいんだろう。
「さーて何が出るかなー」
「……」
現実世界での不幸少女弓塚は人生ゲームの中での幸運にとても満足しているようだった。
「わあっ! やったよ乾くんっ。遺跡の財宝を手に入れて50000$だってっ!」
「遠野……なんか俺泣けてきたんだけど」
「言うな有彦」
弓塚の場合、現実との落差があまりにも悲しすぎる。
これならゲームの中でもやっぱり不幸だった最初の方がまだよかったかもしれない。
「さて、わたしたちの番ですね。そろそろアイテムに手を出していきますか」
「お」
ついに琥珀さん秘蔵のアイテムカードの力が発揮される時が来たようだ。
「まず手始めにこれを使わせていただきます」
そう言って取り出したのは四枚のカード。
『げんぶ』『せいりゅう』『びゃっこ』『すざく』
「……なに? このカード」
「このカードは他のプレイヤーを襲う事が可能なんです。強さに応じてプレイヤーのお金にダメージを与える事が出来ます」
「こ、攻撃カード……」
なるほど、相手の財布を攻撃すれば自分のチームは有利になる。
「こういう日常では絶対出来ない事を平然と出来るのが人生ゲームの面白いところですね」
「そんなゲームだったっけなあ……」
もっとほのぼのとしたゲームだった気がするんだけど。
「お金に攻撃って……ちょっと、それはいくらなんでも卑怯なんではありませんか?」
シエル先輩が顔をしかめていた。
「そんなことはありませんよ。これも最終防衛システムと同じであらかじめ数字が決まっているカードなんです。それより大きい数字を出せば勝てますので」
「お金を守るチャンスがあるということですか」
「うん。さすが翡翠ちゃんさえてる。そんなわけで最初のカードは『げんぶ』翡翠ちゃんに攻撃〜」
「……上等です」
琥珀さんをにらみつける翡翠。
「ちなみに『げんぶ』の数字は5ですね」
「ずいぶん弱くない?」
「いえ、相手もルーレットを回すチャンスが1度きりなので」
「とすると確率1/2か……」
これは結構嫌なカードかもしれない。
チャンスは2回とかのほうが心理的に楽だからだ。
「この翡翠に精神的動揺による操作ミスは決してないと思って下さい」
「……なんか違う、それ」
くるくるとルーレットを回す翡翠。
出た数字は7だった。
「楽勝です」
「む、さすがにやりますねー」
「だなあ」
俺だったら動揺して変な回し方をしてしまいそうだ。
「では次の『せいりゅう』は弓塚チームへ送ります」
「ええっ? 1ターンで二枚もカード使っていいのっ?」
「いけないなんてルールはありませんよ。アルクェイドさんたちだってクイックタイムとラピットストリームを使っていたでしょう」
「それはまあそうなんだけど……」
琥珀さんがやるとなんかずるい気がする。
「そんなわけで『せいりゅう』の数字は12。ルーレットを回すチャンスは2回ですよー」
「……また微妙なんだね」
「四聖獣はどれも微妙なんですよ」
「どうする弓塚。やるか?」
「うん。やってみる」
自信に満ちた弓塚の表情。
まあ、弓塚が前向きになってくれただけでもゲームの価値はあったのかもな。
「えいっ!」
くるくるくるくる。
『3』
「うおっ、ギリギリじゃねえか……」
「あ、あ、あれっ?」
「ど、どうしたんだ?」
またここで弓塚の不幸パワーが戻ってしまったのか?
「あはっ。ちょっとルーレットの回りが甘かったので油をさしてみたんですよ」
「あ、油っ?」
そんなものをつけてしまったらルーレットの回転が変わってしまう。
つまり、今までのルーレットでの経験が一切役に立たなくなってしまうのだ。
「卑怯だ……」
「わたしはただ弓塚さんがプレイしやすいようにとですね」
「そ……そこまでして勝ちたいのっ!」
弓塚が怒声をあげた。
「いえいえ。本気で勝ちたかったら『げんぶ』の時点で何かしてましたって。ほんと、純粋に好意からなんですよ?」
「……ううう」
はっきり言ってその善意は無茶苦茶胡散臭かった。
「どうするよ弓塚。こっちも何か使うか?」
「だ、大丈夫っ! まだめげないもんっ!」
だが一度立ち直った弓塚は強い。
「油なんてこうやって……」
服の袖でごしごしとそれを拭き取ってしまう。
「えいっ!」
せいりゅうの数字は12。10を出さなければ弓塚は勝てない。
「お」
「あ……」
神は彼女の事を見捨てなかったようだ。
『10』
「や、やったあっ! やったよ乾くんっ!」
「いよっし! よくやった! よくやったぞ弓塚っ!」
手を取り合う二人。
「あらら……負けちゃいましたねえ」
これには琥珀さんも少し驚いているようだった。
「でもまだ『びゃっこ』と『すざく』が……」
「……」
俺は琥珀さんの手を取った。
「止めようよもう。そういうのは。正々堂々勝負しよう」
「志貴さん……」
「ほら、ルーレット回して」
「……わかりました。とりあえず今回はこれで止めておきます」
「今回は……って」
思わず苦笑してしまう。
「さてさて思いっきりいきますよー」
ぐるんとルーレットを回す琥珀さん。
出た数字は3。
「いっちにーさん」
コマを進めていく。
「げ」
そこに信じられない文字があった。
「……そんなまさか」
コマを動かした琥珀さんですら驚くような内容である。
それは。
『おとしあなだ! さいしょにもどる。 もういちどのぼってこれるか?』
続く