「何者ですか……あなた」
「俺は食らった肉と同化しているから一般の人間の目にも見えるし触れもするスタンドだ」
「スタンド……?」

ぐりゅぐりゅと遠野君だった顔が不気味に動いている。
 

「『節制(テンバランス)』のカード、イエローテンバランス!」

ババァン!
 

ついに遠野君の顔は砕け、中から見た事もないような男の顔が現れた。
 
 








「徐々に奇妙な冒険」
その12
黄の節制 その3








「これが俺の本体のハンサム顔だ」

何言ってやがるんですかこいつは。

「遠野君の姿を汚した罪……高くつきますよっ!」

このわたしまでたぶらかすとは、許せません。

わたしは即座に法衣服へと着替えた。

「ほーれほれ。シエルせんぱぁいィ〜〜手を見なさあい! 君の手にも今殴ったところに一部が喰らいついているぜ」
「なっ……」

慌てて手を見ると、黄色いスライム上の気持ち悪い物体が。

これがスタンドというものなのだろうか。

「言っておく! それに触ると左手の指にも喰らいつくぜ。左手はハナでもほじってな! じわじわ食うスタンド! 食えば食うほど大きくなるんだ絶対に取れん!」
「……只者じゃないですね、あなた」

こいつならば今街で起きている現象について何か知っているかもしれない。

「最近起きている事件もあなたの仕業ですか……?」
「ヒッヒッヒ。それはどうだかわからんねぇえ」
「……そうですか。ならさっさとぶっ倒して話を聞かせてもらいますよ。……てやっ!」

わたしはまず黒鍵をもってイエローテンバランスへと突っ込んだ。

「なにがてやだッ! 消化するときその口の中にてめーのクソを詰め込んでやるぜっ!」
「なっ……くうっ」

そいつの肉壁は不気味に動き、黒鍵を通じてわたしの腕へと絡み付いてきた。

「や……焼ける!」

その肉がくっついたところがウジュウジュと嫌な音を音を立てる。

「ヒヒヒヒ」
「ぐうっ……」

ああ、もう、死ぬほど気持ち悪くて不気味な奴だけど。

こいつは……強敵だ。

一度引いて、こいつの能力をちゃんと探ったほうがいいだろう。

「……」
 

わたしはイエローテンバランスの男から離れ、歩道橋から飛び降りた。

「やれやれですね……」

わたしの右腕についたスライム状の物体は相変わらず動き続けている。

このままだと右腕全体に移ってしまうだろう。

とりあえずあいつと戦う前にこの『スタンド』をなんとかしなくては、最悪指を切断しなくてはならない。

「ケェ! 逃れたつもりか? まあだが教えといてやる……耳クソをストローでスコスコ吸い取ってよおーく聞きな……」

そいつは歩道橋の上で不適な笑みを浮かべていた。

「俺のスタンド『黄の節制』に弱点はない!」
「……」
「おまえは逃れたのではない! 俺が追わなくてもいいだけなのさッ! このビチグソがァガハハハハハハハ!」

そう言って遠くへ離れて行くそいつ。

「マ、マスター。逃げてっちゃいますよ?」
「わかってますよ。まずこれをなんとかしないと……」
「はぁ……では少々やけどしますけど、焼き殺しますか?」
「……やってみてください」
「はーい」

セブンの作り出した炎がわたしの右腕を包む。

「ぐ……うう」
「い、いけそうですかね……」

ビジョオッ!

「う……う……これはっ!」
「わわわ、全体に飛び散ってしまいましたよっ……ね、熱しちゃダメですね……」

慌ててセブンが炎をかき消す。

「なんて……こと……」

ますます状況は悪化してしまった。

「じゃ、じゃじゃじゃあ、冷やすのはどうでしょうか?」
「セブン。あなたじゃ冷やすのは出来ないでしょう」
「あ、そ、そうですね……」
「仕方ありません……ここは」

元の制服姿へ戻り、最寄のコンビニへ。

適当に見繕ってアイスを買い、人気のいないところへと駆けて行った。

「この辺なら……大丈夫でしょうか」

気づけば波止場の傍。

波の音が耳に響く。

「熱でダメなら冷やしてみれば……」

スライム状の物体にアイスを近づけてみた。

ザキィン!

「ぬ、ぬうっ……」
「ああっ! 針のように尖ってますます……」
「こ、これじゃあ本当にどうしようもないじゃないですか」

カツン。

足音が聞こえる。

「……ちょいと貴方。炎も氷も無駄なんですよ」

振り返るとそこには見知った顔がいた。

「秋葉さん……?」

いや、違う。

その秋葉さんは本物の秋葉さんと明らかに違うところがある。

「あなた、さっきの男ですね……秋葉さんはそんなに胸は大きくありません!」
「だから言ったろう! あたしゃ弱点はないってさァー! ウケケケケッ!」

さっきの遠野君のように秋葉さんの顔がバカっと割れた。

「とどめ刺しに来たぜシエル先輩ッ!」
「この……セブンっ!」
「は、はいっ!」

セブンの本体、第七聖典を取り出し突進を仕掛ける。

黒鍵ではダメだったけれど、これなら!

「むっ早いッ! しかしィ――ッ!」

わたしの狙った側頭部に肉壁が出来上がった。

「弱点はねーといっとるだろーが人の話聞いてんのかァこの田ゴ作がァ――!」
「なっ……」

第七聖典も黒鍵と同様、その肉壁に阻まれてしまう。

「俺のスタンドは言うなれば! 『力を吸い取る鎧』!『攻撃する防御壁』! エネルギーは分散され吸収されちまうのだッ!」
「ぬ……く……」

第七聖典は押しても引いても全く動かない。

「てめーのスピードがいくら早かろーが力がいくら強かろーがこのスタンド『黄の節制』には無駄だッ! 俺を倒すことはできねーしその右手を切断するしか逃れる方法はないィィ!」

そいつをまとっていたスタンドが弾けとび、周囲全体に広がっていった。

「ドゥーユゥーアンダスタンンンドゥ!」
「く……あっ」

わたしの体にもその黄色い肉がまとわりついてきた。

「てめーにもはや何一つなすスベはない! はなれることはできん! 消化されるまでなッ! 食ってやるッ!」

肉のついている場所が片っ端からジュージューと焼け始める。

「やれやれ……こいつぁマジに弱点のないやつですね……まったく最強かもしれません。恐ろしいやつです」
「ヒヒヒヒヒ。そういうセリフはもっと言いなッ!」
「ですが……窮地に立たされたとき、取るべき最大の戦法がひとつありましてね」
「なにィ〜?」
「それは! 逃げることですっ!」

わたしはまとわりついている肉ごと跳躍した。

「なんだァ〜〜食われてる最中だぞこのタコっ! 俺のスタンドに捕まって離れることはできんというのに逃げるだとぉ――?」

そいつの言うとおり、わたしは普段の半分も跳躍出来なかった。

「いえ、そのくっついているのがいいんですよ……くっついているのが」

わたしの後ろはすぐに海。

「何ィ!」

そのままわたしもろとも、その男も海へ落っこちてきた。

「……」

ぶくぶくと二人、海中へ沈んでいく。

「く……い、息が……」

そいつは必死で海上へと泳いで行き、顔を出した。

「……息を吸うためスタンドのガードを開きましたね。絡みついたスタンドとやらが無敵だろうと、本体をどうにかしてしまえば問題ないでしょう」
「あっ!」
「ドゥー・ユー・アンダスタン? あなた……ずいぶんコケにしてくれましたね? わたしは意外と根に持つタイプなんですよ」

海中で第七聖典もスタンドから取れかけていた。

「うう……気持ち悪かったですよぅ。この代償は高くつきますよー」

セブンも怒り心頭といった感じだ。

これならば最高の威力が出せるだろう。

「セブン! コード、スクエアッ!」
「ブギャアアアッ!」
 

イエローテンバランスの男は海中をすべり、そのまま港へと吹っ飛んでいった。
 

続く



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