「ドゥー・ユー・アンダスタン? あなた……ずいぶんコケにしてくれましたね? わたしは意外と根に持つタイプなんですよ」

海中で第七聖典もスタンドから取れかけていた。

「うう……気持ち悪かったですよぅ。この代償は高くつきますよー」

セブンも怒り心頭といった感じだ。

これならば最高の威力が出せるだろう。

「セブン! コード、スクエアッ!」
「ブギャアアアッ!」
 

イエローテンバランスの男は海中をすべり、そのまま港へと吹っ飛んでいった。
 
 

「徐々に奇妙な冒険」
その13
黄の節制 その4










「や、やりましたねマスターっ。これでもうあいつは再起不能ですよっ」
「いえ。急所は外して起きました。話を聞かなきゃいけませんからね」

わたしも港へと上がり、男の傍へ歩いていく。

「はひィ〜〜はひィ〜〜や……やめちくれェ〜っ。もう戦えない……もう殴るのはやめてくれーっ! もう再起不能だよォ〜〜」

後ずさりをする男。

「鼻の骨も折れちまったァ、歯もブっ飛んだよォ……下アゴの骨も針金で繋がなくちゃあならねーよきっとォ……はひィーはひィー」
「マスター。あんなこと言ってますけど?」
「……しゃべって貰いましょうか。何故あなたが遠野君に化けていたか。そして、あなたの正体を」
「そ、それだけは口が裂けても言えねえ……ぜ」
「なるほど、ご立派ですね」
「思い出した! 『死神』『女帝』『吊られた男』『皇帝』の四人がおまえらを追ってるんだった!」
「は……?」

男はてんで訳のわからないことを言った。

「あのー。マスター。この人の正体なら、わたしわかりますけど」
「はい?」

変わりにセブンがそんなことを言う。

「はい。わたしのデータベースの中にあるパターンと酷似してますから」
「じゃあセブン。もしかして最初から」
「はい。この人が志貴さんの真似してたときからわかってましたけど……」
「どうしてもっと早く言わなかったんですかぁっ!」

偽者の遠野君とデートできると喜んでたわたしがバカみたいである。

「な、何度も言おうとしましたよぅ。マスターが黙れだの埋めるだの言ってくるから言えなかったんじゃないですかぁ」
「う……」

セブンが何度も絡んできたのはそのせいだったのか。

「ごほん。じゃあセブン。こいつはなんなんですか?」
「えっと……二十七祖の十三。ワラキアの夜の固有結界です」
「なっ……?」

ワラキアの夜、タタリ。

その能力は人の不安要素、願望を具現化し、湾曲して吸血行動へ駆り立てるものである。

「ほう……さすがは第七聖典。私の名を知っているか」

瞬間、男の声質と雰囲気が変わった。

「え……わたしが見えているんですか?」
「当然だろう」

二十七祖ともあれば魔力も相当のもののはずである。

精霊であるセブンも見れて当たり前なのだろう。

つまりそれ自体がこいつが只者じゃないことの証明になっている。

「……では、セブンが見えていながらわたしに接触したと」

第七聖典は教会の中でも最強の兵器だ。

それなのに近づいてきたということは、完璧にわたしを舐めていたということだ。

腹が立つ。

「フフフ。この男でもやもすれば君を倒せると思ったんだがね……所詮は小物だったようだ。まぁ、問題は無いがね。観客は多いほうが盛り上がる」

不適に笑うワラキア。

「何が目的なんですか、貴方は」
「目的? 単純な事だ。血を吸いに来た」
「……」

タタリがタタリと呼ばれる所以。

タタリは自然現象としてその身を維持している。

そしてタタリが現れた街は必ず崩壊を辿っていた。

こいつの恐ろしいまでの血の欲求、吸血行為によって。

「そんなことを……させるわけにはいきません」
「はっはっは。だがしかし今まで私はそれを実現させてきたよ。君ごときに止められるのかね」
「やってみせます」
「これは面白い……。ではついでに教えてやろう。この街で最も力の持つもの。そいつの体を頂こうと思っているんだ。私は」
「なっ……それは」
「そう。アルクェイド・ブリュンスタッドの体をな。そうすれば私は本当に無敵だ」

タタリは狂気じみた笑いを浮かべていた。

「そんなことは……断じて!」

わたしは即座にタタリを抹消させるべく、第七聖典を構えた。

「今、気づいたが……シエル……ヒヒヒ。幸運の女神は俺にまだついていたようだぜ」
「っ?」

タタリの口調は元の男の口調に戻っていた。

つまりこいつは木偶人形、タタリの好きなように操れる存在なんだろう。

もうわたしと話すことはないということか。

「……倒しても本体にダメージは無いんでしょうけど」

放っておけばこいつが吸血行為を開始するかもしれない。

躊躇せずに抹消するべきだ。

「そこんとこの排水溝だが、ザリガニがたくさんいるだろう。よく見てみな」
「何を言っているんです?」

ピン。

排水溝のネジが突然外れた。

そこに見えるのは、この男のスタンド、イエローテンバランスの肉。

ドオオオオッ!

「ぬ……くぅっ?」

わたしに向けてその肉が波のように押し寄せてきた。

第七聖典はわたしの手を離れ、地面へと落下してしまう。

「ぐわはははははは! そのちいせえ〜排水溝は! 俺の傍のこのマンホールに続いていたァーッ!!」
「うわ……ああっ!」
「引っ張っててめーを固定するッ!」

わたしの体は排水溝へと引っ張られ、縛り付けられてしまった。

「これでもうオレを攻撃できまいッ! 今俺が話した情報は無駄になってしまったな。シエル! てめーを引きずり込む穴がこんなに近くにあるとはまったく幸運よのうォーおれってさぁーっ!」

男はバカみたいに大笑いしている。

「ザリガニも食ってパワーアップッ! ブヂュブヂュルつぶして引きずり込みジャムにしてくれるぜェーっ!」
「やれやれ。自分のことというのは自分ではなかなか見えにくい。気がつかなかったんですか、本当にあなたが幸運だったのは今までだということに。鼻を折られた程度で済んでいたのが……真の幸運だったということに」
「ああン?」
「セブン! コード、デルタ!」
「は、はいっ!」

ボゴオッ!

セブンが排水溝に向けて突撃を食らわせた。

「ゲエッ!」

その衝撃で男の下のマンホールが飛び上がる。

「セブンは遠隔操作可能なんですよ……でなきゃなんのための精霊ですか」
「うう、わたし元々戦闘用じゃないのに……」

セブンの言い分は無視するとして。

男はすっ飛んで、きれいにわたしの前まで来てくれた。

「はっ!」

わたしは逃げられないようにそいつを掴んだ。

「ハハッ。じょ、じょうだん。冗談だってばさあシエルさんッ! ハハ! ちょ、ちょっとしたチャメッ気だよォ〜ん! たわいのないイタズラさぁ! やだなあ! もう〜! 本気にした?」
「……」
「ま、まさか……もうこれ以上殴ったりしないよね……? 重症患者だよ。鼻も折れてるしアゴ骨も針金で繋がなくちゃあハハハハハハハハ」
「……もう、貴方には何も言うことはありません。……とても哀れすぎて」

何も言えません。
 

ボゴボゴドゴドボドガドゴ。
 

「ドベェーッ!」
 

今度こそ男は再起不能。
 

塵となり消えていった。
 

続く



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