「……つまり、タタリという吸血鬼のせいで今この街はおかしくなっていると?」

一通り俺たちの話を聞いた後、琥珀さんがそう俺に尋ねてきた。

さすがは琥珀さんというかなんというか、理解が実に早い。

「そうなんだ。シオンはそれを倒すために戦っている錬金の戦士ってことかな」
「……そのような格好のよいものではないのですけど」

シオンはなんともいえない顔をしていた。
 
 





「徐々に奇妙な冒険」
その18
暗示









「しかしそのタタリという吸血鬼……ずいぶんと厄介な能力を持っているんですね」

秋葉が顔をしかめている。

「ああ。だから俺たちでなんとかしなきゃいけない。みんなでこの街を守るんだ」

俺の気分としては第四部のノリである。

「ええ、そうですね……」

まだ秋葉たちが四部を読んでいないのが残念なところだ。

また今度有彦に借りてこよう。

「遠野君。俺たちもということは、秋葉さんたちにも戦ってもらうということなんですか?」

先輩が尋ねてきた。

シエル先輩の心境としては一般人は巻き込みたくないといったところなんだろう。

それは俺だって同じだ。

「うん。でも俺が戦わせたくないって言ったって、タタリは秋葉たちを狙ってくるんだ。戦わざるを得ない」
「確かに……そうですね」
「それに、ジョジョ三部を読破してるから十分戦力になるよ」
「言えています」

シオンが頷いた。

「わたしも読んでおいたほうがいいですかね……」

先輩がえらく生真面目な顔をしている。

情報収集に余念がないからなあ、先輩は。

「タタリの事は深刻な話ですが、ここは明るく行きましょう〜。タロットカードで役割でも決めませんか?」

琥珀さんが場を和ませるように明るい声で言った。

琥珀さんはどんな時でもムードメーカーである。

「そうだな。それもいいかもしれない」
「志貴。そんなことをしている場合では……」
「いいじゃないか。ジョジョも時々ジョークが混ざってた。そういうのは必要なんだよ」
「……」

シオンは何か言いそうな顔をしていたが、やがて諦めたように「好きにしてください」と言った。

「よーし。じゃあみんな好きなカードを引いてくれ」
「ではわたしが一番で〜」

琥珀さんが真っ先にカードを抜いた。

「……出しゃばらないの琥珀」

と言いながら秋葉が二番。

「ではわたしも……」

先輩が三番手。

「失礼します」

翡翠が四番。

「じゃ、俺も……と」

最後にシオンにカードを向けた。

「ほら、シオンも」
「わ、わかりました」

シオンもカードを取り、全員にカードが行きわたった事になる。

「それじゃあ一斉にカードオープーン」

はらり。

「お……」

琥珀さん、隠者のカード。ハーミットパープル。

秋葉、魔術師のカード。マジシャンズレッド。

シエル先輩、戦車のカード。シルバーチャリオッツ。

俺、星のカード。スタープラチナ。

シオン、法皇のカード。ハイエロファントエメラ……もといハイエロファントグリーン。

「なかなかいい感じなカードですね」
「だなあ」

不思議なことにそれぞれの特徴というかなんというかを良く表したカードとなっていた。

琥珀さんが隠者だなんて絶妙と言わざるを得ない。

これも奇妙な出来事のなせる技とでも言うべきか。

「でも俺がスタープラチナってのは出来すぎだと思うけどなあ」
「そんなことはありませんよ。突きの速度、正確さ、スタープラチナと言っても差し支えないと思います」
「……あはは。ありがとう」

一般人としてそれは喜んでいいのか微妙だった。

「あの、姉さん、これは……」

翡翠が自分のカードを見て難しい顔をしている。

そういえばまだ翡翠のカードは確認してなかったな。

「ん? あれ……女帝?」

何故か翡翠のカードは女帝、エンプレスのカードだった。

「あんな変な奴が翡翠……?」

それはかなり嫌すぎるのだが。

「いえ、元々女帝のスタンドのカードの暗示は、大いなる母性の象徴であり、母なる大地ですから。外れてはいないと思いますよ」

琥珀さんがそんなことを教えてくれた。

「なるほど……」

それなら翡翠らしいと言えるかもしれない。

「それで志貴さん。思ったんですけど、翡翠ちゃんは家で待機のほうがいいんじゃないですかね?」

ふと真面目な顔になる琥珀さん。

「でも、一緒に行動したほうが安全なんじゃ?」
「いえ。わたしがタタリだったらこう考えます。集団で高エネルギーを持っている奴らがいる。そいつらを狙おう、と」
「あ、そうか……」

俺たちがまとまって行動するのは狙ってくださいと言っているようなもんだからなあ。

そこに戦闘力絶無の翡翠がいるのは危険なことだと言える。

「どうしますか? 志貴」
「うーん……」

この選択肢はかなり重要な気がするぞ。

「志貴さま。大丈夫です」

すると翡翠が意を決したような顔をしていた。

「翡翠?」
「わたしとて自分の身くらい自分で守れます。それに、姉さんの言っている事のほうが正しいと思いますし」
「そっか……それなら翡翠は自宅に待機でいいかな」
「かしこまりました」

うーん、今日の翡翠はなんだか頼もしいなあ。

「そういえば志貴さまは今までどんな敵を倒したんです?」
「ん?」

続けて翡翠が尋ねてくる。

「んーと。第一部ディオと……灰の塔、悪魔、先輩が黄の節制を倒して……力と暗青の月が同時に海で襲ってきた」
「す、ストレングスと暗青の月が海で同時に? よく兄さん無事でしたね……」

秋葉が驚いた顔をしていた。

「うん。同時攻撃には結構てこずったんだけどさ。三人の連携でなんとかなった」
「それは興味ありますねー。聞かせてもらえたりします?」

目を輝かせている琥珀さん。

「……あまり面白いものではないですけど」
「話すほどの事では……」

先輩とシオンは渋い顔だった。

まあ、二人には話して欲しくない話題かもなあ。

「兄さん。宜しければお願いします」
「あー、うん」

まあこの流れで話さないってのは無理ってものだろう。

「まずさ……」
 

俺は出来るだけ臨場感が出るように話しはじめた。
 
 

続く



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