まあこの流れで話さないってのは無理ってものだろう。
「まずさ……」
俺は出来るだけ臨場感が出るように話しはじめた。
「徐々に奇妙な冒険」
その19
暗青の月と力
……そこには巨大な貨物船が浮かんでいた。
「これは……『力(ストレングス)』の船……」
「ウキャ、ウキャキャキャキャ……」
そして船の側面からオランウータンが顔を出している。
「間違いない……これはストレングスだっ!」
「新手のスタンド使いですかっ!」
シオンが構える。
「よぉ〜〜こそよぉ〜〜こそクックック。我らが独壇場である海へ」
ストレングスの船の甲板から声が聞こえた。
「なっ……今のセリフ……暗青の月(ダークブルームーン)かっ!」
「シブイねェ……。セリフだけで判断出来るなんて、まったくおたくシブイぜ。その通り!」
甲板から男が飛び降り、それを半漁人のようなスタンドが支えている。
「水のトラブル! 嘘と裏切り! 未知の世界への恐怖を暗示する『月』のカードその名は『暗青の月』!」
「なんてこった……スタンド使いが一度に二人も……」
しかもどちらも水の近くなら最大限に力を発揮するスタンドである。
タタリは俺たちがこの場所にいる事をいいことにこいつらを具現化したんだろう。
「くそっ……こいつらを倒さなきゃ家には……」
いやがおうにも気持ちがあせる。
「琥珀さん……秋葉……翡翠……無事でいてくれよっ」
俺はメガネを外し、一刻も早くこいつらを倒すべく突進するのであった。
「志貴っ! 駄目ですっ!」
「なっ?」
シオンのエーテライトに体を引っ張られる。
グシャアっ!
「なっ……」
俺の向かっていた位置に、ストレングスの船のクレーンが大穴を開けていた。
「この大きさ……厄介ですね。遠野君。これを倒すにはどうすればいいんです」
「どうするったって……本体を叩くっきゃないけど」
原作ではストレングスは承太郎の挑発に乗って近づいていき倒されたのである。
「あの高さじゃ……」
だが今ストレングスは貨物船のてっぺんで笑っているのだ。
そしてその高さから巨大スタンドを操っている。
近づくのは至難の技だといえよう。
「君たちィ〜。『力』にばかり目を取られるのもいいが、この俺も忘れて貰っちゃあ困るんだなぁ」
「うわっ」
水流が俺の真横を通り過ぎていく。
その水流も地面に穴を開けていた。
「……水中戦が得意だとわかっている相手に水辺で勝負を挑むつもりはないんですが」
先輩は渋い顔をしていた。
「けど放っておくわけにもいかないだろ」
「ええ。まずどちらかを倒す必要がありますね……まずは文字通りこの雑魚っぽい男から」
「ほう? 今なんと言ったね? この俺が雑魚だと?」
「ええ。水中で力を発揮するということはですね。地上では大した力を発揮出来ないということですから」
横を見た時にはもう先輩の姿はない。
「そいつぁ面白い冗談だ……でもな〜。スタンド使いってやつは己の弱点も知り尽くしているもんなんだぜぇっ!」
一歩下がる暗青の月。
ダダダダダダッ!
「えっ……?」
キィンキィンキィンキィンキィン!
シエル先輩がいきなり目の前に現れて俺に向けて飛んできた何かを弾いていた。
「……これは……フジツボですか」
「そう。海中にあるフジツボを飛ばしたのさぁ〜。我が暗青の月は水中では素早いといったろう。素早く地上に戻る事も造作もでは無い」
暗青の月のスタンドが海中に顔だけ浮かばせている。
なるほどそれなら本体は地上にいながら「水中にいる」状態なわけである。
「しかも遠野君を狙うときましたか。卑怯にも程がありますね」
「戦略を考えていると言ってもらいたいねえ」
「くっ……」
ひょっとして俺は先輩の荷物になってしまってるんだろうか。
「し、シオン、協力を……ってあれ」
見るとシオンの姿はどこにもなかった。
「キィーッ!」
「ん」
上を見るとストレングスのクレーンがぶんぶん空中を動き回っていた。
「し、シオンっ」
そしてシオンが空中でそのクレーンをひょいひょいと回避していた。
エーテライトの先端を貨物船の一部にくっつけて昇っているんだろう。
「ストレングスのほうはわたしに任せてください志貴。代行者と二人で暗青の月をっ!」
「わ、わかった……でもっ」
「でもっ?」
「その位置だとスカート丸見えだぞっ!」
「どこを見てやがるんですか貴方はっ!」
べし。
あ、シオンが落ちた。
「おっとっとと」
慌てて落ちてきたシオンを受け止める。
「バカな事を言わないでくださいっ! 後少しだったというのに……」
「ご、ごめん」
どうもまた余計なことをしてしまったようだ。
「茶番をやってる暇はないぜ〜ンン〜?」
「ぬ……ぐっ」
「せ、先輩っ!」
なんとシエル先輩が暗青の月に捕らえられ、今にも水中へと漬かりそうになっていた。
「まったく、この俺を舐めてもらっちゃ困るんだよなあ〜」
「と、遠野君……こないでください」
じりじりと先輩の体が動いていく。
「先輩……あんなにぐったりして」
ちょっと待て。ぐったりしてる?
「ぐったりしてますね……それはむしろナイスなんじゃないですか?」
「……かもしれない」
「何を言ってるんだお前ら。こうしてこの女は海中に連れ込まれ……」
「水に漬かるのは貴方で十分ですよ」
先輩の自信に満ちた声が聞こえた。
「あん?」
「爆発まであと1秒」
そして先輩は跳んだ。
シエル先輩は法衣の下にもう一枚第七聖典を使うための特殊な衣服を着込んでいるのだ。
「火葬式典……発動」
ボボボボボボボボボボボッ!
暗青の月が掴んでいる先輩の服が大爆発を引き起こした。
「うぎゃああああああっ!」
真っ赤に燃え上がった男のシルエット。
「わたしの服に仕込まれた火薬と刃物は並みの数じゃないですよ……そしてそんな傷で海中に入ったら」
バチャアン。
「傷の痛みに耐え切れず……よくて失神、悪ければショック死ですね」
シオンが極めて冷静に言い放った。
暗青の男はぷかりと海上に浮かんで、微塵も動かない。
「……む、惨い」
ちょっと敵に同情してしまいたくもなる。
「そんなことより問題はこっちなんですよ……」
先輩が港に目を向けた。
そこにはストレングスの船が相変わらず壮大に浮かんでいる。
「代行者。第七聖典を使えば効果があるのでは?」
「穴は開くでしょうけど。この大きさじゃ大したダメージにならないんじゃないかと」
ちなみにこの二人、平然と会話をしながらストレングスのクレーン攻撃、ネジやプロペラによる攻撃を全て回避しているのだ。
俺はそれを弾き返すだけで精一杯である。
「志貴。何かいいアイディアはありませんかね」
「そ、そんなこと言われても……あ」
ふと気づいた。
「……ストレングスの好きなものがある。それを使えば降りてくるかもしれない」
「なんですか? それは」
「ま……まさか」
露骨に嫌な顔をするシオン。
シオンは俺の記憶からそれを読み取ったんだろう。
「ああ、つまり……」
「おーい、ストレングス」
「ウキャっ?」
「ここに現役女子高生とピチピチギャル(死語)がいる」
「は、はぁ〜い」
「……」
先輩に制服に着替えてもらい、シオンはとりあえず色っぽいポーズを取ってもらった。
そう、ストレングスのオランウータンは人間の女の子が大好きなのである。
「パンチラもあるぞっ!」
ちらりと先輩たちに太ももとパンツを見せつけてもらう。
「ウホッ、ウホホホホホ……」
大喜びするストレングス。
俺もかなり嬉しい。
「さらに! 今からこの二人が服を脱ぐっ!」
「ウホッ!」
もうストレングスは見るからに興奮している。
「ああ、でも残念だなあ。おまえのいるその高さじゃ脱衣シーンはまともに見られないだろう。本当に残念だ」
「……」
俺の言葉を聞いてストレングスの姿が船の中へ消えた。
「ウホッ……」
そしてすぐに俺たちの目の前に現れる。
「……ホントに来ましたね」
「本当に来るとは……」
「……俺も正直驚いてるけど」
「ウホホ……」
二人に手を伸ばそうとするストレングス。
「残念ですがお触りは」
「お断りいたします」
そうして己の本能に忠実に生きたストレングスはボコボコにやられてしまった。
だがきっと悔いはないことだろう。
「終わった……」
なんだか不毛な戦いだった。
「手ごわかったようなそうでもなかったような……」
「……疲れました」
かなり疲れた顔をしている二人。
「疲れたのはわかるけど。今は家に急がなきゃ」
「志貴はいいですよね……二人のパンツが見れてラッキーとか思ってればいいんですから」
「こ、こらシオンっ!」
「はぁ、まったくもう……」
「と、とにかく行くぞっ」
俺たちは遠野家へ向けて駆けだすのであった。
「……てな風に倒したんだけど」
回想終了。
思い出してみるとどうも俺が活躍してないような気がしてならない。
「結局マヌケな二人だったわけですねー」
「まったく品性がないにも程があります」
水のエキスパートたちの評判は散々であった。
「まあ、たまたま運がよかっただけだよ。油断は禁物だ。準備が出来たら気をつけてアルクェイドを探そう」
「そうですね……では五分後に翡翠を除いた全員で門の前に集合ということで。いい?」
「おう」
「わかりました」
「はーい」
「なぜ秋葉が仕切るのです……」
「まあまあ」
とりあえず解散し各自準備を開始する。
だが、もう既に新たなスタンドの魔の手が忍び寄っていたことに俺はまだ気づいていなかったのであった。
続く