「秋葉さま。準備といっても何をすればいいんでしょうね?」

休憩中、秋葉さまの部屋でわたしはそう尋ねました。

「さあ……相手はスタンド使い。一筋縄じゃいかないでしょうね。とりあえず傷薬を適当につめておきなさい」

ちなみに秋葉さまは服が汚れてしまったわと着替えの最中です。

「了解です」

わたしは愛用の薬箱に片っ端からお薬を投げていきました。

包帯シップに消毒オッケー。

「怪しいクスリもいれときます?」
「好きになさい。敵に効くかもしれないわ」
「ラジャー」

敵とあらば容赦しないのが秋葉さま。

いかにも怪しいクスリだって余裕で携帯を許可してくれたりするのです。

日本の法律上はまずいのかもしれませんけどね、とか言うとわたしの首が危ういので黙っておきました。
 
 





「徐々に奇妙な冒険」
その20
女帝その1







「そういえば琥珀。貴方さっき怪我をしてたでしょう? ちゃんと手当てをしておいたほうがいいんじゃない?」

カーテン越しに秋葉さまが話しかけてきます。

「あー。なんかバイキン入っちゃったっぽいんですよねー。赤く腫れてましたし……」

服の袖をめくると、なんだか気持ち悪い腫れ方をしていました。

「これ、ちょっと切って毒抜きしないと駄目かも……」
「ちょっと、そんなに悪いの? 薬かなんか塗って包帯巻くだけじゃ駄目なのかしら?」
「あはっ。大丈夫ですよ。これくらい。わたしは医学の心得もあります。問題無しです」

わたしはクスリ箱からメスを一本取り出してその腫れ物に向けました。

「ヘイシスターッ! あたいを切ろうなんてとんだバカヤロウだねッ! このとんちきめっ!」
「え」

なんだか聞いた覚えのあるようなイヤーなセリフが聞こえましたけど。

とてつもなく嫌な予感がします。

「……」

腫れ物を見て、その予感が的中したことを悟りました。

腫れ物には、気持ち悪い目と鼻、それから牙の生えた口が出来ていたのです。

「あたいが「女帝(エンプレス)よッ! チュミミ〜ン! 淫乱女琥珀ッ! まず! てめーを血祭りにあげちゃやるよッ!」
「うわっ……わわわ」

なんと、初の女スタンド使いにして最も気持ち悪いスタンド、エンプレスがわたしの腕に取り付いているのです。

「こ、このっ、一体どこでとりついたんですかっ……」

メスを思いっきりエンプレスに振り下ろします。

ガッキーンッ!

「歯、歯で止められたっ……」
「ちょっと、何をしてるの琥珀」

そ、そうだ。秋葉さまに助けてもらえば……

「遠野秋葉に助けを頼むのかいッ? そうはおもいどおりに行くかねッ!」
「うっ……」

エンプレスはわたしに向けて嘔吐してきました。

ああ、なんて汚らしい攻撃方法なんでしょうっ。

「ヘイ! そこのナイチチお嬢様! 着替えたって無駄さぁッ! ブサイクは何を着てもブサイクッ!」
「なっ……」

こともあろうかエンプレスはわたしの声色を真似てそんなことを叫びやがりました。

「なんですって……!」

カーテンの向こうの秋葉さまの髪の毛が怪しく動いています。

「ナイチチの上にブサイクッ! ハンッ! この美少女琥珀には足元も及ばないさねッ!」
「琥珀、あなたっ……!」
「ちょ、ちょっと待ってください秋葉さまーっ!」

わたしは慌てて部屋を逃げ出しました。
 
 
 
 

「これであんたは遠野秋葉に追われることになったわけだわねッ! 助けを頼む事は出来ないッ!」
「こ、この……」

階段を降り、一階へ。

「そしてあんたを確実に殺せることになったわけなのさッ!」
「……くうっ」

コイツを倒すには本体を探さなくてはいけません。

わたしにはスタンドなんてものはないんですから。

「あんたはこー考えている。『スタンド』は『スタンド』や特殊能力でしか倒せない。何も能力のない自分で腕と一体化しているのをやっつけることができるのか? ……とね」
「……くっ」
「フヒャヒャ、無理だね!」
「なんとか……なんとかしなきゃ」

必ずスタンド本体がどこかにいるはず。

エンプレスの本体はブサイクな女で美女に化けて……

「……エンプレス?」

ちょっと待って。つい最近そのカードを見なかっただろうか。

「あ」

そうだ。

翡翠ちゃんが女帝のカードを引いていたはず。

「ま、まさかあの翡翠ちゃんは偽者でっ……」

翡翠ちゃんは二階にいるはず。

わたしは慌てて階段を昇りかけ。

「見つけたわよ、琥珀」
「あ、ああああ、秋葉さまっ。ちょっと聞いて下さいっ。実はですね……」
「現れたなナイチチタカビー女ッ! あたいは前からアンタのことが気に食わなかったのさッ!」
「うわ、本心っぽいけど心に秘めてた事を言わないでくださいっ!」

慌てて傍にあった布を拾って被せ、エンプレスを黙らさせます。

「やっぱりね……あなたはいつか裏切ると思ってたのよ……」
「ひいい、状況悪化ですかーっ!」

わたしは即座に踵を返して駆け出しました。
 
 
 
 

「どこへ行ったの琥珀っ! 出てきなさいっ!」

秋葉さまの怒声が遠くへ遠ざかって行きます。

「……はぁ、なんとかやり過ごせたようですね」

わたしは厨房に隠れてなんとか秋葉さまを撒くことに成功しました。

「それにしても、コイツをどうしましょうか」

ガブガブ、ガブカプ。

「……?」

なんだかまたものすごく嫌な音が聞こえるんですけど。

グチャグチャ、コリコリムシャムシャバリバリ。

「……はっ」

気づけば冷蔵庫の扉が開いているじゃありませんか。

「キャ、キャベツにリンゴ……な、なにをしているんですかっ!」

足元に落ちているのはキャベツやリンゴの根っこの部分。

猛烈に嫌な予感が。

「…………食ってるんだよ! 食事中なのさッ! 琥珀ッ! でっかくなるためにねッ! 食事してるのさッ!」
「くうっ……原作の展開を知っていながら迂闊でしたっ……」

慌ててわたしは傍のフライパンを手に取りました。

「えいっ!」

パァーン!

「あ、危なかった……」

エンプレンスの拳が思いっきりフライパンをへこませています。

原作の事を思い出さなければやられてしまっていたことでしょう。

「チッ……しくじったッ! しかしこんなにでかくなったわよッ! 『親のすねかじり』……いや腕かじりと呼んでママ! チュミミ〜ン」
「くっ……この琥珀が策略において貴方なんかと年季が違うことをこれから思い知らせてあげますよっ!」

ジョセフさんのセリフを真似てかっこつけてみます。

とは言ったものの、これからどうすればいいんでしょうかね……はぁ。
 
 

続く



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