「シオン、タタリと戦うにはどんな準備をしたらいいんだ?」
「志貴の場合特に準備は必要ないと思います。強いて言うならばその短刀を無くさぬよう」
「そうだな。これはスタンドに通用するみたいだからな……」

今のところスタンドに通用する攻撃は俺の七夜の短刀、シオンのエーテライト、ブラックパレル、それからシエル先輩の武装一式だ。

話を聞いた限り、秋葉の檻髪も通用するだろう。

「……まあ特殊能力は効果があるって事だな」
「それがまだ救いです。本当に手がつけられない能力を具現化されたらそれこそ勝てなくなってしまいますから」
「そうだな……」

第二部や第六部を具現化されていないだけまだマシだといえる。

「……おっと危ない」

そんなことを考えたらそれを具現化されてしまう可能性があるからな。

「あの、志貴さま」
「ん」

気づくと翡翠が扉を開けて立っていた。
 
 




「徐々に奇妙な冒険」
その22
「スタンドという力」






「……いつの間に」

シオンも驚いた顔をしている。

まあ翡翠は気配を感じさせないのが得意技だからな。

「どうしたの、翡翠」

俺はさほど驚くこともなく尋ねた。

「そろそろ出発されたほうがよいのでは」
「あ、うん、そうだね」
「ただ、琥珀姉さんは少し準備があるそうなので、遅れるそうです」
「そっか。じゃあ玄関で待ってよう。シオン。行こう」
「……はい」

そのまま翡翠と別れ俺たちは玄関へと向かった。
 
 
 
 

それから十分ほど玄関で待機。

「……来ませんね」
「来ないなあ」

遅れるといった琥珀さんはともかく、秋葉もシエル先輩も姿が見えなかった。

「もしかして、もう既に新しいスタンドの攻撃を受けているのでは」
「いや、そんなまさか……」
「否定は出来ないでしょう。先ほど秋葉たちは襲われているのですから」
「そ、そうか。そうだよな」

そう言われると急に不安になってきてしまった。

「キャアアアアアアアア!」

そこに聞こえた秋葉の悲鳴。

「志貴っ」
「ああっ、あっちからだなっ」

秋葉の悲鳴のしたほうへ大急ぎで向かう。
 

「あ。志貴さん。シオンさんも」
「こ、琥珀さん?」

遠野家の庭の森の中で琥珀さんが手を振っていた。

「琥珀さん、秋葉はっ?」
「そこに倒れておられます」
「そこにっ?」
「うーん……うーん……」

琥珀さんの指差した先ではマンガみたいに目が渦巻きになっている秋葉が倒れていた。

「ど……どうなってるんだ?」
「女帝の正体を見てしまったんですよ。事もあろうに翡翠ちゃんに化けてたんです。あれが」
「翡翠に?」
「ええ。しかしご安心を。既にこの琥珀が退治しておきましたから」
「……思い返してみれば先ほどの翡翠は様子がおかしかったですね……迂闊でした」

渋い顔をしているシオン。

「でも、誰も犠牲者が出てないんだから大丈夫だよ」
「そう安心は出来ません。本物の翡翠ちゃんがまだ見つかってないんですよ。結局翡翠ちゃんを探す前に秋葉さまのところへ来てしまいましたから……」

琥珀さんは不安げな顔をしていた。

「いつから入れ替わってたのかわかりませんからね……」
「多分、ホルホースさんとの戦いのどさくさに入れ替わったんだと思います」
「……そうか。アルクェイドの前に翡翠を探さなくちゃいけないな」

琥珀さんは翡翠が心配で気が気じゃないだろうし、俺だって不安である。

「遠野君っ、遠野君っ」
「せ、先輩?」

先輩がややあせった顔をしながら駆けてきた。

「ど、どうしたの先輩」
「いえ、わたし、屋敷の中にアルクェイドが隠れて居ないか探っていたんですよ。そうしたら屋根裏に翡翠さんが倒れていたんです」
「翡翠ちゃんがっ?」

シエル先輩に詰め寄る琥珀さん。

「翡翠ちゃんは無事でしたかっ? どこも怪我してませんでしたかっ?」
「お、落ち着いて下さい。翡翠さんに怪我はありません。精神的なショックも少ないようです」
「そ、そうなんですか……よかった」

ほぅと安堵の息を洩らす。

「ですが、何か妙なものが翡翠さんの背中に見えて……」
「な……なんですってっ?」
「先輩。琥珀さんを案内してあげて。俺は秋葉を担いでいくから。シオンも手伝って」
「わかりました。琥珀さん、こちらです。部屋に寝かせてはいるんですが……」
「……翡翠ちゃん……」

いつもの笑顔が微塵も見えず、不安げな顔の琥珀さん。

「志貴。秋葉はわたしに任せて行ってあげてください」
「……ごめん、ありがとう」
「いえ」

秋葉のことはシオンに任せ、俺は翡翠の元へと急いだ。
 
 
 
 
 

「本当にどうしてしまったんでしょうか……急に熱が出て気を失ってしまうなんて。ですが、姉さんの解熱剤のおかげでだいぶ落ち着きました」
「ううん。非常識なことばっかりだったからね。体がびっくりしちゃったんだよ」

翡翠は一見して元気そうに見える。

だが、確かにその背中には何か透明なものがついているようだった。

「ほら、起きたら顔をふかなくちゃ」
「ね、姉さん……」

恥ずかしそうな顔をしながらも大人しく琥珀さんに従う翡翠。

「髪もバサバサだよ? ほら」
「い、いいですって」
「爪も手入れして……と」
「琥珀さん。リンゴも剥いてありますが」
「あ、こちらに下さいな。はい。翡翠ちゃん。あーん」
「……」

ウサギ型のリンゴを遠慮しがちに食べる。

「も、もう大丈夫ですから。皆さん、もう出かけなくてはいけないんでしょう。お送りします……」
「動くなっ! 静かに寝てろっ!」
「……っ!」
「……あ。ご、ごめん」

つい強く言いすぎてしまった。

しかし俺は途中で気づいてしまったのだ。

「ね、熱が下がるまで何もしないほうがいいよ。ね」
「……そ、そうですね……悪化しては元もこうもありませんし。大人しく眠る事にします……」

目を閉じる翡翠。

「……どうなりましたか」

シオンが部屋へ入ってきた。

「秋葉は?」
「自室に寝かせておきました」
「……そうか」
「遠野君。翡翠さんの背中に見えるあれは一体……」
「……」

俺は琥珀さんを見た。

琥珀さんの前で、この事実を伝えるべきだろうか。

「……スタンドです」

ところがその琥珀さん自らシエル先輩にそう伝えたのである。

「スタンド……?」
「ジョジョで出てくるパワーあるビジョンのことなんだ。……けど、これは」
「原作で、主人公のお母さんにこのスタンドが発現してしまうんです。スタンドとはその本人の精神力の強さで操るもの。戦いの本能で行動させるもの」
「戦闘的って。そんな翡翠さんは……」
「翡翠ちゃんの性格では、それに対する抵抗力がありません。スタンドがマイナスに働いて害になっているんです」
「……」

絶句するシエル先輩。

「このままでは……翡翠ちゃんは死んでしまいます」
「そうさせない方法はただひとつ、スタンドを具現化させているタタリを倒すことだけ、ということですね」
「はい……そういうことになります」

琥珀さんはあくまで淡々と語っていた。

だがその口調が余計に怒りを感じさせる。

「皆さん……なんとしてでもタタリを倒してください。お願いします。わたしも最大限に努力します」
「……ああ」
「元よりそのつもりです」
「……翡翠さんまで巻き込むとは……許せませんね……」

翡翠を助けるためにも早急にタタリを見つけることが必要となってしまった。

「……行きましょう、みなさん」
「おう」
「わかりました」
「任せてください」
 

四人の意思は結束し、打倒タタリへの闘志を燃やすのであった。
 
 

続く



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