「ちょ、兄さん! 前へ出ては駄目です!」
「え? あ……」

くらりと眩暈がした。

「秋葉っ! 志貴に何をしたんですかっ!」
「し、視界に入ってきたらもう略奪の対象なんですよ! 兄さんっ! 兄さん……っ」
 

秋葉の叫び声がいやに耳に響く中、俺は気を失ってしまうのであった。
 
 




「徐々に奇妙な冒険」
その24
「死神13」















「……さんっ! 兄さんっ!」
「……ん」

目を開ける。

「ここは……」

俺の部屋だ。

「よかった……気がついたんですね」
「えと……俺どうしたんだっけ」

なんだか頭がクラクラする。

「突然気を失われてしまったんですよ」
「そうか……悪い」

どうも記憶がはっきりしなかった。

なんか厄介な事件に巻き込まれていたような気がするんだけど。

なんだっけ。

「全くもう。日頃の無茶が祟ったんです」
「……たたった?」

その言葉で思い出した。

「そうだ。タタリだ! 秋葉っ。タタリはどうなった? あれから新しいスタンド使いとか出てきてないか?」
「は?」

きょとんとしている秋葉。

「だからスタンドだよ。今まで色々出てきただろ」
「なんの……話です?」
「だから、シオンが追ってきた吸血鬼が……」
「誰ですか、シオンって」
「……え」

おかしい、どうも会話が噛み合ってない。

「兄さん。夢と現実をごっちゃにしているんではないですか?」
「……夢……?」

そんなまさか。

シオンやタタリ、スタンドのことは全部夢だったっていうのか。

「夢にしてはリアルすぎだったような……」
「寝ぼけていただけですって」
「……うーん」

うまく考えがまとまらなかった。

「そういえば翡翠はどこにいるんだ?」

さっきまでのことが夢だったというならば、翡翠も元気なままのはずなのだが。

「兄さん。私の看病では不服だというのですか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど。ただ姿が見えないからどうしたのかなって」
「……翡翠は兄さんが倒れたのを見てショックで寝込んでしまったんです。琥珀が看病をしています」
「そ、そうなんだ。……大丈夫かな」
「気になるのでしたら見舞いに行ってあげて下さいな。私など放っておいて」

そっぽを向いてしまう秋葉。

「わ、悪かったよ。ありがとう、秋葉。看病してくれて、感謝してる」
「本当ですか?」
「ああ」
「本当に感謝していますか?」
「もちろんだ」
「私の事……好き、ですか?」
「ん? あ、ああ、そりゃあまあ……好きだ」

なんだか突拍子もない質問だったけど、変に戸惑って機嫌を損ねるのもなんなので、肯定しておいた。

「本当に、本当ですね?」
「……ああ」
「なら……」

秋葉はいきなり自分の上着のボタンを外し始めた。

「な、なななななななななっ……」
「兄さん、私を……私を抱いてください!」
「な、なんだってぇっ!」

何を言い出すんだ突然。

「私はずっと昔から兄さんの事が好きでした。そして今の返事で確信を得ました。私たちは相思相愛、結ばれる運命だったんです!」
「ちょ、ちょっと待てっ! 落ちつけ秋葉っ! い、いいか。おまえと俺は兄弟で……」
「血は繋がっていません!」
「い、いや、それはそうだけど。俺はお前にそういう感情は……」
「ならさっきの言葉は偽りだったというのですかっ!」
「あ、あれはその、家族として好きという意味でだな」
「私を一人の女として見てください!」

秋葉はそう言って俺に抱き着いてきた。

「こ、こらっ、秋葉、離せっ!」
「嫌です! それとも兄さんは他の女のほうがいいっていうんですか!」
「い、いや、だからその……」
「その優柔不断さが許せないんです! 兄さんっ! 兄さんはいつもそうです! 他の女にうつつを抜かしてばかりで……」
「ご、誤解を招くような発言をするんじゃない!」
「事実です! 現に目の前の私よりも翡翠の事を気にかけて!」
「それはたまたま姿が見えなかったからだろ!」

思わず秋葉を突き飛ばしてしまう。

「あうっ」
「あ、だ、大丈夫か?」
「……」

ぎろりとこちらを睨む秋葉。

「もう許せませんっ! 兄さん! こうなったらもう貴方を殺して私も死にます!」
「な、なんだとっ!」
「そうすれば二人は永遠に結ばれるんです! そういう運命なんですね!」
「こら! 落ちつけ秋葉! おまえ、どうかしてるぞっ!」

秋葉の髪の毛がだんだんと赤く染まっていく。

「くそっ……」

こうなったら当て身でも入れて気絶させるしかないようだ。

けど、そのためにはまず秋葉の気を逸らさせなくてはいけない。

「……よし」

幸いにも今の秋葉は薄着だ。

気を逸らさせる材料は整っているのである。

俺はズボンのポケットから七夜の短刀を取り出した。

「ていっ!」

メガネを外さず一閃。

「なっ」

不意を突かれた秋葉はなすすべもなく俺の攻撃を食らった。

はらり。

ナイフの斬撃で秋葉のブラジャーが外れた。

今がチャンスだ!

ばいーん。

「……なっ!」

ところが俺の攻撃を阻害する意外なものが目の前にあった。

それは秋葉の胸である。

あのつるつるぺたんという擬音が最も似合う秋葉の胸が。

「秋葉の胸がでっかくなってるだとぉーっ!」

思わずジョジョ風に叫んでしまった。

「な、なにがおかしいんですかっ? 成長期なんですよっ!」
「い、いや! 嘘だ! あり得ない!」

そんなことは天地がひっくり返ったとしてもあり得ない事だ。

「おまえ! 秋葉じゃないな! 何者だ!」
「な、何を言っているんですか兄さんは!」
「……本物の秋葉なら右肩に大きなホクロがあるはずだ。どうだ。おまえは」
「あ、ありますよそれくらい! ほら!」

秋葉が背中を向けると確かにそこに大きなほくろがあった。

「……なるほど、よくわかった」
「信じていただけましたか?」
「ああ。マヌケが一人見つかったようだ。……本物の秋葉にはそんなところにホクロはないんでね」
「……」
「さあ、正体を現わせ!」
「クク……ククククク」

秋葉は、いや、秋葉のニセモノは俺に正体を見破られると肩を振るわせ笑い出した。

「しくじったぁー! どうせだから妹に殺されるというシチュエーションで終わらせたかったんだがなぁ! サービスで胸まで大きくしてやったのに……裏目に出たかっ! ラリホ〜」
「……ラリホ〜」

その叫びが響いた途端、俺の部屋がドロドロと崩れていった。

「そうか……今までのが夢だったんじゃなくて、ここが夢の世界ってことか……」
「ご名答。きさまは死神世界の夢の中にいるんだよっ!」

秋葉の姿ももはや原型を留めていない。

「夢のスタンド……死神13(デスサーティーン)」

俺の目の前には黒いマントにピエロのような顔のスタンドが浮かんでいた。
 

「ラリホー。夢の中で死ねるなんてロマンチックだと思わないかい?」
 

TO BE CONTINUED……



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