秋葉の姿ももはや原型を留めていない。
「夢のスタンド……死神13(デスサーティーン)」
俺の目の前には黒いマントにピエロのような顔のスタンドが浮かんでいた。
「ラリホー。夢の中で死ねるなんてロマンチックだと思わないかい?」
「徐々に奇妙な冒険」
その25
「死神13とゲブ神のンドゥール そして愚者」
「……」
俺は無言で七夜の短刀を取り出した。
「ほほう。それで俺を切り刻もうってかぁー。怖いねえ。だがそんなことが可能だと思うかぁ〜い?」
「いや……違う」
俺はそのままに短刀を腕に突き刺した。
「ぐっ……」
激痛が走る。
「ラリホー。夢の中ではいくら自分を痛めつけても決して目は覚めない。それにぃいいいーっ」
「な……なんだとっ?」
あれほど深く傷をつけたというのに瞬時に傷が治ってしまった。
「原作のようにはいかねえぜーっ? 傷で文字を彫ろうったって甘いこったぁーっ!」
「ぐっ……」
起きているみんなに助けを求めようという作戦が即座に見抜かれてしまうとは。
「こちらもそろそろ手札が少ないんでな。本気モードってわけさ。ラリホー」
「……これは」
当たり一面は何もない、砂だけの世界になってしまった。
「砂漠……か」
「ご名答。そして砂漠と言ったら何が出てくるか……わかるよなぁ〜?」
「……まさか」
ザザザザザザ……
砂の上を何かがこちらへと向かってきている。
「ゲブ神の登場だーっ! ラリホーっ」
「……」
ゲブ神は音を探知して攻撃してくる水のスタンド。
本体は約4Kほど先にいるであろうンドゥール。
俺は靴を脱いであらぬ方向に投げた。
ひゅうん!
即座にゲブ神が反応し、靴は粉微塵にされてしまった。
迂闊に動けば次は俺がああなる。
つまり身動きできない状態になってしまったのだ。
「さあ、どうするよ殺人貴。どぉ〜するかぁああああ〜?」
「……」
姿の見えないンドゥール本体を倒しに行くのはまず不可能だ。
そこまで行く間にゲブ神か死神13に殺されてしまうだろう。
では先に死神13を狙うか。
だが動けばゲブ神に狙われるだけ。
「何もしないなら……このまま殺させてもらうぜぇーっ!」
「くっ……」
死神13の攻撃をなんとかかわしたが、体勢の崩れたところをゲブ神に狙われる。
「ぐあっ!」
腹を貫かれた。
ぽたぽたと赤い血が零れ落ちる。
「フヒヒヒヒ……惨めだねぇ〜。このままミンチ肉コース確定かぁ〜?」
「ぐっ……」
腹を押さえふらふらと歩く俺。
ザザザ……
その俺をあざわらうかのようにゲブ神がゆっくりと追いかけてきた。
「……まいったな、まったく」
絶体絶命というやつである。
「こうなったら一人でも多くのスタンドを倒してみんなの負担を減らすだけだっ……」
俺は最後の力を振り絞って死神13へ突っ込んだ。
「おおーっとっ! ここが夢の世界だってことを忘れたのかい?」
「な……うわあっ!」
俺の体は宙に浮き、雲によってがんじがらめにされてしまった。
「ここは夢の世界……なんでもありなんだよっ!」
死神13が指を弾くと、俺たちが今まで苦労して倒してきたスタンド使い全員が俺の目の前に現れた。
「こいつらになぶり殺しにされるってのが一番よさそうだなぁ〜。具現化したとはいえ、俺様の一部分だ。ぶっ殺したら全員で血を吸い尽くしてやるっ!」
「ぐっ……」
雲は岩のように硬くなっていてまったく俺の体は動かない。
「この圧倒的強さ! 絶対的恐怖! 楽しいねぇ〜っ!」
俺をせせら笑う死神13。
「ほら! みんなも笑え!」
ヒャハハハハハウヒヒヒヒウキャキャキャキャキャと笑い声が響く。
「……くそっ」
俺はもう覚悟を決めた。
「ほう。諦めたようだな。ならば運命の輪。決め台詞を言ってやりな! ンドゥール! やつを殺せッ!」
「……っ」
目を閉じる。
「勝ったッ! 第三部完!」
運命の輪の声。
そして静寂。
「ふ〜ん。それで、誰が遠野志貴の代わりをやるっていうのかしら?」
「……?」
なにか、とても懐かしいような声が聞こえた気がした。
目を開く。
「なっ……」
あれだけいたスタンド使いたちが、一瞬のうちに地面へ打ち伏せられていた。
そして。
「き、貴様……何故ここに……ッ!」
死神13が動揺している。
「俺が夢の中に呼んだヤツ以外は入って来れないはずなのにッ! 何故ここにいるッ! 真祖ッ!」
「……ふん。貴方、わたしのことちゃんと知ってるわけ?」
アルクェイドは、敵を目にした時の残虐な目つきをしていた。
けれど俺にはわかる。
「アルクェイド」
「うん。志貴。助けに来たわよ」
俺に向けてくれるその笑顔は、間違いなくアルクェイド本人そのものだった。
「どうして……ここに?」
「レンが教えてくれたのよ。夢の世界で妙なことをしているやつがいるって。……夢魔のレンなら人の夢に入り込むことなんて造作もないことよ。タタリ」
「お、おのれっ……しかしいくら真祖と言えどもゲブ神の狙撃からはっ……!」
「ああ。ずっとむこうにいた男だったら最初に倒しておいたわよ。出現場所くらい、夢の中だからどこだって決められるわよね」
「ンドゥールを……倒した?」
そういえば俺が目を閉じてから一度もゲブ神の攻撃がない。
「ば、バカなっ……!」
「この夢の世界に残っているのは貴方ひとりだけ。しかもこの夢の主導権はレンが握ったわ。もう貴方はただの雑魚にすぎない」
「お、おのれ、オノレエエエエエッ!」
「さあ、お仕置きの時間よ、ベイビー」
闇雲に突進していく死神13を、アルクェイドは容赦することなく細切れにした。
「まったく、タチの悪いヤツね。志貴を狙うだなんて」
「あ、アルクェイド……」
死神13が倒された事で俺の体も開放された。
「レン。この景色なんか殺風景でやだわ。変えて頂戴」
アルクェイドがそう言うと、世界はなんだかムーディなベッドルームへと変わった。
「それより志貴。久々の再開だし、どう? せっかくレンの夢の中なんだから、何かえっちなことでもしない?」
「こ、こらっ! 何言ってるんだ! どこ触ってるんだ!」
とか言いながらまるで抵抗しない自分が悲しい。
「ちなみにわたしも志貴と同じ夢を見てるの。だから、現実の体でも同じ快楽が得られてることに……ううん。もっと数倍の快感が得られるはずよ」
「そ、そうなのか?」
「試せばわかるって。ほらほら」
「うわーっ!」
こうして俺たちはレンの見せる淫夢の中、バカみたいに体を重ねるのであった。
これがほんとの愚者ってやつでひとつ。
チャンチャン。
TO BE CONTINUED……