「志貴。ねえ起きてよ、志貴」
「ん……」

妙にけだるい体を起こす。

「気がついた?」
「……アルクェイド」

ベッドで寝ていたらしい俺のすぐ傍にアルクェイドが立っていた。

「えーと……」

はて、これはどんな状況だったんだっけ。

「死神13に襲われていたのよ。大変だったわね」
「……あ」

その一言で夢の記憶が一気に蘇った。
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その26
「シオンの秘密」












「そ、そう……だったな」

鮮明に蘇ったのはもちろん死神13との戦いなんかじゃなくて、その後のアルクェイドとの情事の記憶なのだが。

「無事で何よりでしたー」
「ええ、本当に一時はどうなることかと……」

秋葉や琥珀さんのいる前でそんなことを語れるわけがなかった。

「う、うん。本当にすごい強敵だった。夢の中での戦いとはいえ、体が疲れちゃったよ」
「ほんと、わたしがいなかったら一大事だったわね」
「……っていうかおまえ、どっから沸いてきたんだよ」

ごく平然とそこにいるアルクェイドに尋ねる。

「沸いたとは失礼ね。夢の中でも言ったでしょ。レンが教えてくれたの。夢の中で妙な事してるやつがいるって」
「それでその気配を追って来たら遠野家へ辿り着いたらしいですよ」

先輩が黒猫、つまりレンにミルクをやりながら説明してくれた。

「この場合、レンが愚者なんだろうなぁ」

ンドゥールとの戦いでいち早く危機を察知したのだから。

とするとアルクェイドを暗示するカードは何なんだろう。

「スタンド云々の話も琥珀から聞いたわ。タタリが具現化してるらしいわね」

俺がそんなことを考えているとアルクェイドがそんなことを言った。

「おまえ、タタリのこと知ってるのか?」
「当たり前でしょ。こっちの業界じゃ有名な話だもん」

それは一体どのへんの業界を指すんだろうか。

「っていうか、わたし単独でタタリ探してたのよ」
「そうなのか?」
「ええ。街に妙な気配が出てきた時点でね」
「そりゃ俺たちがおまえを探し回っても見つからないはずだ」

俺が死神13に襲われたのは逆によかったのかもしれない。

例えばこれが秋葉だったらアルクェイドは絶対助けに来なかっただろう。

「シオン、アルクェイドが見つかってよかったな」

とりあえずこれでアルクェイドを探すという最初の目的は達成できたわけだ。

「……」
「あれ?」

なんだかわからないけどシオンは上の空で、おまけに顔を真っ赤にしていた。

「ええと、シオン?」
「は、ははは、はいっ?」

びくりと反応する。

「……?」

なんだろう。俺が気絶する前の凛々しいシオンと態度が妙に違うような。

「そうそう。最初に志貴さんが死神13に襲われていることを気づいたのはシオンさんなんですよー」
「ん?」

すると琥珀さんがそんな事を言った。

「えーと? どういうこと?」
「はい。気を失われた志貴さんが急に苦しみだして、これはおかしいと」
「あー……うん」

そのへんは死神13に襲われているときだろう。

「そうしたら、エーテライトとかいうやつで志貴さんの意識が覗けるらしくてですね。それで覗いて見てわかったんですよ」
「……シオンが俺の意識を?」
「はい。覗けるだけで夢の中に入り込むというのは不可能だったんですけどね。途方に暮れているところにアルクェイドさんが来てくれたわけで」
「へ、へえ……そうなんだ」

俺はだらだらと嫌な汗が背中に流れているのを感じた。

「ちなみにシオン。どこからどこまで覗いてたのかな」
「……そ、それはその……なんといいますか」

答えなくてもその反応だけで全て理解できた。

見られてた。全部。

「ええ、ええとし、シオン? そのへんは忘れていいから全部」
「あー。何か怪しいですねぇ。夢の中でシオンさんと何かあったんですか?」
「い、いや、そんな事は全く」

アルクェイドとはあったけどっ。

「ねえ志貴。シオンシオン言ってるけど、この女何なのよ一体」

そのアルクェイドがむくれた顔をしていた。

「あ、いや、シオンは錬金術師でタタリを追ってて」
「そういう問題じゃなくて。この女、吸血鬼じゃないの」
「……え?」

何を言ってるんだろう、こいつは。

「やはり気づいてましたか。アルクェイド」

すると先輩までそんなことを言い出した。

「し、シエル先輩?」
「遠野君。今まで黙っていましたけれど、この際はっきりするべきだと思います。この錬金術師からは吸血鬼の気配がする。それは紛れもなく事実」
「……」

全員が静まり返ってしまう。

「し、シオン。本当なのか?」

言われてみれば思い当たる点はいくつかあった。

非常識な身体能力、そして灰の塔にやられた時の傷が一瞬で治ってしまったことなど。

しかしそんなことがまさか――
 

「……本当の事です」
 

シオンは俯きながら答えた。

「ほらね」
「そ、そんなっ。だって、その、タタリってのは吸血鬼なんだろ? なのにシオンは吸血鬼で、錬金術師で……」

どういうことなのかさっぱりわからない。

「ここからはわたしの推測ですが……シオン。貴方を吸血鬼にしたのはタタリなのではないですか?」
「え?」
「その通りです。わたしは数年前にタタリに血を吸われ吸血鬼となってしまった」
「けれど自我は奪われてない……か。魔力ポテンシャルが高かったおかげかしら」

アルクェイドはそんな話を聞いても平然としていた。

「……遠野君。吸血鬼になってしまった人間が支配から逃れられる方法ってなんだと思います?」
「そ、そんな事急に言われても」
「もしかして、タタリを倒すとシオンさんは人間に戻れたりするんでしょうか」

琥珀さんがそんな事を言った。

「察しが早いですね。伝承では手下の吸血鬼が親玉を倒すとその支配力が崩壊すると伝えられています。けれど……」
「それって確か今まで実現したためしがないんじゃなかったっけ?」
「それはわたし自身重々承知していることです」

シオンが凛とした表情で言い切った。

「けれど、わたし自身のため、またこれ以上犠牲を出さないために……タタリを倒さなくてはいけないんです」
「……シオン」

そうか、あれこれ悩む必要は無いんだ。

「俺はシオンを信じるって前に言ったもんな。シオンが吸血鬼だろうがなんだろうが信じるよ。一緒にタタリを倒そう」
「志貴……」

シオンが俺の手を握ってきた。

「こらーっ、いちゃつき禁止っ!」

アルクェイドが即座にその手を引っぺがした。

「……」

きょとんとしているシオン。

「あの、志貴。つかぬことを聞くのですが、本当にこれが真祖なのですか……?」
「信じられない気持ちはわかるけど間違いなくそうだ」
「真祖というと絶対的な力をイメージするのがわたしたちの世界では常識ですから信じられないでしょうね……」

シエル先輩が苦笑していた。

「なによー。失礼ねー」

頬を膨らませているアルクェイド。

「ああもう……」

なんだか収集がつかなくなってきてしまった。
 

「いーかげんになさい貴方たちっ! アルクェイドさんが合流したんだからっ! 四の五の言わずにさっさとタタリを倒しに行ったほうがいいでしょうっ!」
 

するとすっかり影の薄くなってしまった秋葉が、自分の存在を主張するように叫ぶのであった。
 

TO BE CONTINUED……



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