「あの、志貴。つかぬことを聞くのですが、本当にこれが真祖なのですか……?」
「信じられない気持ちはわかるけど間違いなくそうだ」
「真祖というと絶対的な力をイメージするのがわたしたちの世界では常識ですから信じられないでしょうね……」

シエル先輩が苦笑していた。

「なによー。失礼ねー」

頬を膨らませているアルクェイド。

「ああもう……」

なんだか収集がつかなくなってきてしまった。
 

「いーかげんになさい貴方たちっ! アルクェイドさんが合流したんだからっ! 四の五の言わずにさっさとタタリを倒しに行ったほうがいいでしょうっ!」
 

するとすっかり影の薄くなってしまった秋葉が、自分の存在を主張するように叫ぶのであった。
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その27
「アヌビス神 その1」












「あ、秋葉……」

そうだよな。アルクェイドが無事だとわかった以上、あれこれ考える必要はないのだ。

後はタタリを見つけて倒すだけだ。

「何よ。アブドゥルのくせにー」
「な、なんですってえ!」

顔を真っ赤にして怒り出す秋葉。

「落ち着けよ秋葉。今はタタリを倒すために協力しなきゃ駄目だ」
「……ですが」
「アルクェイド、おまえも挑発するんじゃない」
「ちぇ」

アルクェイドはそっぽを向いてしまった。

「……本当に真祖……あれが……」

シオンがなんだか壊れた顔になっている。

「えーと、皆さん、決戦に向けて盛り上がるのは結構なんですけれどー。ちゃんと話を進めませんか?」

琥珀さんがぱんぱんと手を叩いて全員の視線を集めた。

「そ、そうですね。話を進めましょう」

それでシオンも元の顔に戻る。

「……私が最初に言ったのに」

不満げな顔をしている秋葉。

「まあまあ……」

なんだか俺はさっきから秋葉をなだめてばかりである。

「まず、真祖が無事だとわかり、我らと協力してくれる形となったのは嬉しいことです。ですが、肝心のタタリの居場所はまだわかっていません」
「そうだな……それが問題だよな」

それがわからなければこちらから動くことは出来ないのだ。

「あれ? わたしまだ言ってなかったっけ」

それを聞いたアルクェイドが呆れた顔をしている。

「ん? どうしたアルクェイド」
「タタリの居場所なら知ってるわよわたし」
「ほ、本当ですかっ?」

シオンがアルクェイドに詰め寄った。

「本当よ。わたしひとりでタタリを探してたって言ったでしょ。見つけてさあ乗り込もうって時にレンが志貴のピンチを教えてくれたの」
「……そうだったのか」
「真祖。教えてください。タタリはどこに」
「ん。なんだっけ……あの建設途中の建物あったじゃない?」
「建設途中……シュラインか」

確か元公園だった場所に建設途中の巨大なビルがあったはずだ。

「真祖が発見したのならばそれで間違いないでしょうね……」

シオンの顔に汗が流れていた。

いよいよタタリ本体と戦うかもしれないという緊張からだろう。

「シオン、落ち着いて」
「……大丈夫です志貴」
「そうよそうよ。わたしがいる限り楽勝だって」
「……」

アルクェイドが加わったおかげで有益な情報を得れたはいいが、緊迫感という大事なものが無くなってしまったような気がする。

「と、とにかく場所はわかった。シュラインに向かおう」
「そうですねー。善は急げです」
「まだ現れていないスタンド使いもいますしね……気を引き締めねば」
「……」

レンがふぁ〜とあくびをしていた。

「あれ?」

誰か足りないような。

翡翠は倒れてしまっているからしょうがないとしても……

「……先輩」

そうだ。シエル先輩がどこにもいない。

「ねえ。シエル先輩がどこに行ったか知らない?」

俺はみんなに尋ねてみた。

「え? あ、あれ? そういえばいつの間にかいませんね」
「おかしいな……ついさっきまでいたのに」
「トイレにでも行ったんじゃない?」
「そうなのかなぁ……」

それだったらいいんだけど。

「……嫌な予感がするな」

今までのことがあった以上、また何かが起こるような。

「考えすぎでしょ。すぐに戻ってくるって」
「ならいいけど」
「……」

くいくい。

「ん」

足元を何かに引っ張られ、振り返るとレンがいた。

「どうした? レン」
「……」

そうか。そういえば先輩はレンと遊んでやってたっけな。

「もしかしたらレンなら先輩の居場所を知ってるかもしれない」
「ついて行って見ましょうか?」
「うん。そうしてみよう」

とか言って本当にトイレだったらどうしよう。

そうなってしまったらまあ、「ぎ、銀の戦車だからトイレネタってわけか、はは、ははは……」とでも誤魔化すとしよう。

誤魔化せなさそうな気もするけど。

俺たちはてくてく歩いていくレンの後を追っていった。
 
 
 
 

「外に行くんですかね……」
「みたいだな」

レンは玄関の前で開けろと言わんばかりに戸を叩いていた。

「……真祖。感じませんか」
「?」

俺たちから一歩下がった位置にシオンとアルクェイドが立っている。

「ええ。何よこの殺気……隠す気まるでないじゃない」
「さ、殺気?」
「ええ。ちょと志貴たちは下がってて……危険だわ」
「お、おう」

俺たちは大人しくシオンのいる位置まで下がった。

「近いわ……扉を開けてすぐの位置にいるわね……」

玄関に向けて拳を構えるアルクェイド。

「おいこら。扉を壊す気か?」
「ちゃんと後で治すから安心してよ。せーのっ……!」

扉に向けて振りかぶるアルクェイド。

ひゅおん。

「……え?」

だが何か風を切る音と共にアルクェイドの動きが止まった。

そして次の瞬間、鮮血が扉を真っ赤に染めていた。

「ア、アルクェイドっ!」
「な……なによ今の……っ! 扉を貫通して……」

不幸中の幸いなのか、攻撃を受けたのはアルクェイドのみ。

一般人だったら即死だったろう出血なのにアルクェイドはその場に踏みとどまっていた。

「扉を貫通って……まさか」

俺は扉を見た。

傷ひとつついてない扉。

それなのにアルクェイドを傷つけた斬撃。

「……アヌビス神かっ!」
「ご名答」
「!」

すぱんっ。

まるでバターか何かのように扉が真っ二つに切断される。

「バカな……どうして」

俺はそこに立っている人物を見て唖然とした。

そこに立っていたのは。
 

「名は弓のシエル……『冥界の神アヌビス』のカードを暗示とするスタンド使い。貴方たちの命……貰い受けます」
 

TO BE CONTINUED……



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