「要するに、あなたはわたしの思考パターンまで憶えられなかったのが敗因なんです」
「……貴様の判断力……確かに」

ふらふらと倒れこむ志貴さん。

「憶えたって無駄ですよ。だって」

わたしは志貴さんを受け止め、足元のスイッチを押しました。
 

「はい。遠野家地下帝国にアヌビス神をご案内〜」
 

そしてそこにできた落とし穴に、アヌビス神は姿を消してしまうのでした。
 
 


「徐々に奇妙な冒険」
その30
「バステト女神」













「や……やったの? 琥珀」

秋葉さまが信じられないといった顔をして尋ねてきます。

「はい。一杯食わせてやりましたよ。これぞ策士琥珀の真髄といったところでしょうか」
「まさかアヌビス神を策で倒すとは……」

シオンさんも驚いてますね、ふふふ。

「えっへん」

ここは胸を張ってもいいところではないでしょうか。

「やはりジョジョといえば頭脳戦ですしねー。このわたしの存在というのは非常に大きいと思います」
「……あのー。今一状況が把握出来ないんですが」
「あう」

そんな中シエルさんだけは何が起こったのかよくわかっていないようでした。

「シエル先輩。そもそもなんであんな物騒な刀を拾ってきたんです? だいたい誰にも言づてもせずにいなくなるだなんて……」

大した活躍もしていないのにご立腹な秋葉さま。

でもシエル先輩がいなくなってしまった理由は気になりますね。

「そ、それは……窓の外に爆発が見えたからです」
「爆発?」
「はい。ここからでは音も聞こえないような遠い場所でしたけれど」
「代行者。それならば余計に一人で行くのは危険だったと思うのですが」
「そ、それはその。場所が問題でして。つい我を忘れてしまい……」
「場所?」
「はい」

シエルさんがそこまで入れ込むような場所って一体何なんでしょう。

「……まさか、メシアン?」

ぎくうううぅっ!

擬音語で言ったらそんな感じでシエルさん反応してました。

「あ、あはは……」

まあシエルさんらしいといえばシエルさんらしいんですけれど。

「メシアンとは何なのですか? 琥珀」
「えー、その。シエルさんの力の源の場所といいますかー」
「そ、そうっ! そこでスタンド使い……でしたっけっ? それっぽい男が倒れていたんですよっ!」

大げさに叫ぶシエルさん。

まあ、この緊急時にカレーの事で我を忘れたなんてかっこ悪いですからねえ。

「スタンド使いが?」
「はい。顔がぐちゃぐちゃになってて判別はつかなかったんですけど……周囲には人がほとんどいなかったので、爆発を起こしたのはそいつだと思います」
「ってことはそいつが自滅したってことですか? そんなマヌケなスタンド使いがいるものですか」

秋葉さまがため息を付いています。

「いえ……ちょっと待ってください秋葉さま」

わたしはシエルさんの話を聞いて一人思い当たる人物がいました。

「シエルさん。その男。趣味の悪いシャツを着ていませんでしたか?」
「……そういえば妙なシャツを着ていたような。確かオインゴとかいう……」
「ああ、なるほど」

秋葉さまもその一言で納得出来たようです。

「わたしたちの知らない間にやっつけていたってことですね」
「や、やっぱりスタンド使いだったですか? よかった……メシアンがなんともなくて」
「オインゴさんじゃ何もどうにもできなかったと思いますけど」

タタリさんもあんな人具現化して何させるつもりだったんですかねえ。

「で。肝心のアヌビス神が出てきてないんですけれど?」
「あ……はい。ええとですね。その爆発が起きた場所のすぐ傍に落ちていたんです」
「ア、アヌビス神が?」
「はい。一般人が拾ったら危ないなと思い、手に取ったら意識が遠くなって……」
「……原作さえ知っていればそんなことはしなかったでしょうに」

頭を抱える秋葉さま。

「仕方ありませんよ。シエルさんの言うとおり、一般人が拾わなかっただけまだマシだったかと」

原作でも脈絡無く剣が落ちてましたしねえ。

「そうですね。一般人を巻き込んだらややこしくなるところでした」
「どうでもいいけど……お願い、ちょっと静かにしててくれない?」

どさり。

「どさり?」

はて、何でしょうか。

「あ、アルクェイドっ?」

アルクェイドさんが力無くベッドに倒れています。

「さ、さっきのアヌビス神戦でそんなにやられてたんですかっ?」
「ええ……シエルの一撃が痛かったし……志貴との戦いでも結構食らってたみたい。タタリにそんなとこ見せるのシャクだから堪えてはいたけど」
「真祖がここまでのダメージを受けているなんて……」
「わ、わたしがアルクェイドを……?」

最強の戦闘力を誇るはずのアルクェイドさんがここまでダメージを受けていただなんて。

恐るべしアヌビス神。

「やはりスタンド使いを甘く見てはいけませんね……」

今回の戦いだってギリギリ勝てたようなものですし。

「……真祖が傷ついたままではタタリに勝つのは難しいですね」
「兄さんも気を失ったままですものね」
「はい……」

そういえば志貴さんも部屋の隅に倒れたままなのです。

「仕方ありません。……真祖の傷が癒えるまで待ちましょう」
「そうするしかないですね……」

せっかく目的地がわかったのに動けないだなんて、もどかしいことこの上無いですけれど。

「アルクェイドさんの傷が癒えるまで対策を練る事は出来ると思います。ジョジョ全巻を読み直しましょう」

秋葉さまが珍しくマトモな事を言ってます。

「さすが秋葉さまですねー」

とりあえず褒めておきました。

「当然でしょう。特にシエルさん。あなたは早急に知識を得てください」
「は、はい……すいません」

ここにきて当主の威厳復活ってやつですかね。

「わたしは今の戦いでお注射が一本減ってしまったので補給してきます」
「好きになさい」
「は〜い」

調子に乗った秋葉さまと一緒にいると疲れますからわたしはわたしで休憩しておくことにしました。
 
 
 
 

「ふう……」

自分の部屋で過ごす優雅なひととき。

これでこの後タタリさんと戦うことを考えなきゃ本当に気楽なんですけどねえ。

「……それにしてもシエルさんもマヌケですねー」

冷静になって考えて見るとシエルさんもマヌケとしかいいようがありません。

いくら一般人が拾ったら危ないと考えたとしても、アヌビス神に乗っ取られたということは、一度抜いてしまったということです。

拾うまではまあいいとして、抜く意味はあったんでしょうか。

「……はー」

まったく、もっと頭を使って欲しいものです。

「……?」

はて。

何か部屋の中に違和感が。

なんでしょう。

「こんなところに……コンセントなんかありましたっけ」

自分の部屋だというのに、見慣れない場所にコンセントが。

「……」

試しとばかりに触ってみます。

バチイッ!

「わわわっ!」

体中に電気が走りました。

「び、ビリッときましたよ……」

危ない危ない。

シエルさんをバカにしたバチがあたったんですかね。

「前言撤回。触れてはいけない物というのは触れてしまいたくなるものです」

誰かが言っていたフレーズを真似してみます。

誰が言ってたんでしたっけ、これ。

「……ま、別に大した事じゃないですかね」

そろそろみんなのところに戻らなくてはいけません。
 

わたしはなんだか妙に開きづらくなった鉄のノブを回して皆さんのところへ向かうのでした。
 

TO BE CONTINUED……



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