自分の部屋だというのに、見慣れない場所にコンセントが。
「……」
試しとばかりに触ってみます。
バチイッ!
「わわわっ!」
体中に電気が走りました。
「び、ビリッときましたよ……」
危ない危ない。
シエルさんをバカにしたバチがあたったんですかね。
「前言撤回。触れてはいけない物というのは触れてしまいたくなるものです」
誰かが言っていたフレーズを真似してみます。
誰が言ってたんでしたっけ、これ。
「……ま、別に大した事じゃないですかね」
そろそろみんなのところに戻らなくてはいけません。
わたしはなんだか妙に開きづらくなった鉄のノブを回して皆さんのところへ向かうのでした。
「徐々に奇妙な冒険」
その31
「バステト女神 その2」
「琥珀。シオンから提案があるそうよ」
部屋に戻ると秋葉さまがそんなことをおっしゃりました。
「シオンさんから?」
「ええ。シュラインに偵察部隊を向かわせようと思います」
「シュラインに……ですか。それは危険なのでは?」
「タタリの狙いは真祖。真祖を相手にするならば、偵察部隊など構っていられないはず」
「うーん……」
バラバラになっての行動は危険ですから避けたいんですけどねえ。
「私は賛成ね。仮に攻められたとしても、それは相手の手ゴマを減らすことになるもの」
「秋葉さまは好戦的すぎですよー」
「何か言った?」
「いえいえ、なんでもございません。で。偵察するとして、誰が行くんですか?」
「貴方と秋葉です」
「わ、わたしと秋葉さま?」
わたしはまあ納得できるとしても、何故に秋葉さまが?
「私の攻撃力はスタンド使いにも通用することは証明済みでしょう?」
「ま、まあそうですけど……」
何気にスタンド使いを一番倒してるのって秋葉さまなんですよねえ。
秋葉さまの能力は単体よりも集団のほうが効果を発揮しますし。
「真祖はケガを治すのが最優先。志貴は気を失ったまま。代行者はジョジョの知識が足りない……」
「……確かに」
今動けるメンバーは限られてたりします。
「シオンさんは何故待機組なんです?」
「……エーテライトが全て切断されてしまいました。修復に時間がかかるんです」
「あ、なるほど」
エーテライトはアヌビス神に片っ端から真っ二つにされちゃってましたね。
「そういうわけで私と琥珀なのよ。構わないでしょう?」
「はぁ……」
秋葉さまと二人だと、気を遣わなきゃいけないから大変なんですけど。
四の五の言ってはいられませんか。
「わかりました。二人で偵察に向かうとしましょう」
そんなわけでわたしと秋葉さまはシュラインに偵察に向かうことになりました。
「シュラインってどの辺りでしたっけ?」
わたしは信号を渡りながら秋葉さまに尋ねました。
「港の傍でしょう? 大して遠くではないわ」
「それなら安心ですねー」
あんまり長距離だと秋葉さまがタクシーを使いたがりますからね。
民間人を巻き込んだらかわいそうです。
「何が安心なのよ」
「いえいえ。こちらの話です」
自転車でも使えばもうちょっと早く行けるんでしょうが。
ここだけの秘密、秋葉さま。自転車に乗れないんです。
チリンチリン……
「……っと」
わたしたちのすぐ傍を一台の自転車が通り過ぎて行きました。
キィィィィィーッ!
ガシャアッ!
「?」
振り返るとその自転車が派手に横転しています。
「信号が赤だから慌てて止まろうとして転んだんじゃない?」
確かにわたしたちが渡り終わった信号は赤に変わっていました。
「ですかねー」
信号はよく見なきゃ危険ですよ、まったく。
「まったく、自転車なんて使う人間の気が知れないわ。乗って行っても置く場所に困るでしょうに」
「あ、あはは」
まあそこいらじゅうに無断駐車している自転車を見ていたらそんな気にもなるかもしれませんが。
ギギギ……
「?」
バタ、バタ、バタバタバタ……
「わわわわっ?」
突如わたしに向けて無断駐車していた自転車たちがドミノ状に倒れてきました。
「危ないですね……」
慌てて退いたのでなんとか激突は免れましたけど。
「あ、あれれ?」
「……何してるのよ、琥珀」
「え、ちょ、ちょっとお尻がガードレールから離れなくて……」
ガムか何かがくっついていたんでしょうか。
「訳のわからない事を言わないで頂戴。ほら……!」
秋葉さまに引っ張られて、なんとかガードレールから離れることが出来ました。
「……おかしいですね」
触ってみてもガムみたいなものはくっついていませんでした。
「おかしいのはあなたでしょう。ほら、行くわよ」
「はぁ……」
何か引っかかります。
こんな話をどこかで聞いたような。
「……うーん」
こういうのって思い出せそうで思い出せないんですよねえ。
「ほら。下に降りるわよ」
「はい?」
見ると秋葉さまは地下鉄への階段を降りようとしているところでした。
「何故地下鉄を?」
「地上よりはスタンド使いに襲われない気がするじゃない」
「……そうですかねー」
むしろ危険は増すばかりだと思うのですが。
「何? 何か文句あるの?」
「いえいえ、全くございません」
秋葉さまには逆らえません。
悲しい使用人のサガってやつですね。
わたしは大人しく地下へ向かうエスカレーターに足を乗せました。
ガチッ。
「がち?」
はて、わたしは草履を履いているはずなのですが。
何なんでしょう、今の音は。
「あ、あれっ……?」
足をあげようとしても全く動いてくれません。
「あ、あの、秋葉さまっ?」
秋葉さまはエスカレーターをさっさと降りて下に行ってしまったようでした。
「ああ、もうっ! なんかやばげな状態だっていうのに……」
足をなんとか引っ張ろうと手を床に向けます。
ガチッ。
「え?」
なんと手までもがエスカレーターにくっついてしまいました。
「……こ、これはまさか……」
わたしの体がエスカレーターの床、つまり鉄にくっついてしまっている。
ここまできてわたしはようやく気づきました。
これは磁気のせい。
わたしの体が磁石になってしまっているんだと。
「しかもだんだん磁力が強くなってきてますよ……」
今やわたしの力じゃ足をあげることが出来ないくらいでした。
「……迂闊でした……まさかわたしの部屋に……」
原因はただひとつ、部屋にあったコンセント。
「あれは……バステト女神のスタンドだったんですかっ」
わたしとしたことが、なんたる油断。
アヌビス神を倒せた事で調子に乗ってしまったようです。
「ご名答。ウフフフフフ……」
「え?」
顔を上げた瞬間、アクセサリーの鎖のようなものがわたしの腕に絡み付いてきました。
「ま、まさかっ……!」
その姿は間違いありませんでした。
バステト女神のスタンド使い、マライアさんです。
「どうぞごゆっくり。策士の琥珀」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! うあ、うわわわわわーっ!」
わたしの体はズルズルとエスカレーターのタラップに引きずりこまれていくのでした。
TO BE CONTINUED……