「あ、秋葉さま……わ、わたしすごく恥ずかしいんですが」
「そんなの私だって一緒よ! 何を見てるんですかあなたたち! ダンスの練習をしてるのよ! あっちへ行きなさい! あっちへ!」
「そ……外でのダンスは気持ちいいですねー。あは、あはははは〜」

なんかもう。

すいません。

ごめんなさい。調子に乗って悪かったです。
 

志貴さん、シエルさん、シオンさん、アルクェイドさん。
 

誰でもいいから、このわたしを窮地から救ってくださいっ!
 
 

「徐々に奇妙な冒険」
その33
「バステト女神 その4」











「いちにの」

ばしっ。

「やった! 転ばずにここまで来れたわっ」
「そ……そうですね」

ここまで来る間、奇異の目で見られ続け、わたしの心はもうボロボロでした。

うあーん、視姦されちゃいましたよぅと叫びたいところですが我慢です。

「琥珀。少しずつ体をずらして動かすことが出来る?」
「まあなんとか出来ると思いますが……」

正直それも気が進みません。

「なら、私は捕まっているから少しづつ私の体の下のほうに動いて足のつま先から離れるのよ」
「わたしの頭と秋葉さまの頭がくっつくという事は頭と足は反発するってことですもんね……」

それはまったく原作と同じ事です。

「あのぅ、本当にわたしが動かなきゃ駄目ですか?」
「ええ」
「……うう」

覚悟を決めるしかなさそうでした。

「で、では……いきますよー」

ずるずると秋葉さまのナイムネを伝いそれから下半身に。

「……やっぱり……この姿勢って……すっごくやばいんじゃないですか? 人に見られたら誤解されるというか……」

わたしは秋葉さまのスカートに顔をうずめているわけですから。

「だ、誰も見てやしないから早く……」
「お、おいっ! 同志Aっ! ここでおにゃのこ同志のリアル絡みが展開されてるでござるよっ!」
「ほ、本当なんだな。ハァハァしちゃうだな」
「うきゃああああああっ! 何っ! 何この気持ち悪い連中はっ!」
「し、失敬な。我ら『つるぺたはにゃーん愛好会』に向かって何を言うんでござる!」
「同志! さらに同志を呼べっ!」

ざざざざざざっ!

「うわぁ〜っ! なんか一杯気持ち悪い人が増えてますよぅっ!」
「あ、あなたたちっ! あっち行きなさいっ!」
「じょ、女王様タイプなんだな。もっと嬲って欲しいんだな。ハァハァ」
「イヤァァァァッ! 琥珀っ! 早く! 早く離れてっ!」
「早くと言われましても! ああ〜、これはわたしの役じゃないですよぅ……決してェェェェ」

秋葉さまがくるりと背中を向けました。

「こ、今度は後ろからでござるかっ!」
「同志! カメラ! カメラを買ってこいっ!」
「早く! 早くしてぇっ!」
「秋葉さまっ、わたしなんかもう涙が出てきましたよっ……!」

なんですかこれはっ!

これもタタリの作戦だとしたらもうタチ悪すぎですっ!

「こ、こうなったら……赤主・檻髪ッ!」

秋葉さまの檻髪が周囲全体を赤く染めました。

「こ、これはなんでござるかっ!」
「な、なんだか危ない予感がするんだな……うっ」

わたしたちの周囲を覆っていた人たちはばたばたと倒れていきます。

「あ、秋葉さま。いいんですか? 一般人だったら大変ですよ?」
「気にしなくていいのよっ。これもタタリの仕業っ! そういうことにするのっ!」
「そ、そうですねっ!」

無茶苦茶な理屈ですけど今回ばかりは秋葉さまの言葉に賛成です。

「とにかく、早く離れて……」
「は、はいっ!」

バチッ!

ようやくわたしの頭と秋葉さまの足が反発し、体が離れました。

「やったっ! 離れることが出来たわっ!」
「後は早くここから逃げるだけですね」
「そうね……エスカレーターは無理だから階段から逃げましょう」

わたしたちはさっそく階段を探して駆けだしました。
 
 
 
 

「階段の手すりは鉄……くっついてしまうわね」

不思議と邪魔も入る事もなく階段へ辿り着いたわたしたち。

「しかしくっつきながらでも地上に出る事は可能だと思います。これを手と手すりの間にどうぞ」

わたしは秋葉さまに向けて本を投げました。

「……これは?」
「さっきの変な人たちが持ってた本です。分厚いんで磁力の遮りになるかなって」
「なるほど。それはいい考えだわ」

ちなみにわたしの持ってる本のタイトルは優しい科学。

さっきの人たちと微塵も関係なさそうな本でした。

「じゃあ、これを使って行きましょう」

わたしは右の手すり、秋葉さまは左の手すりへ。

本を滑らせながらゆっくりと昇って行きます。

「妙ね。何でマライアは追ってこないのかしら」

秋葉さまが中間あたりまで来たところで呟きました。

「楽観的に考えれば、わたしたちが逃げているということに気づいていない。しかし、それはあり得ないでしょうね」
「そうね……それで終わるはずがないわ」

終わってくれれば楽ですけれどもそんなわけがありません。

何か引っかかるんですよね。

「けど、逃げ切れたらそれはそれで問題ないわ。琥珀。私はこのまま一気に外へ出るっ!」
「え? あ、ちょっと秋葉さまっ……」

秋葉さまはたんたんと音を立てて階段を昇って行きます。

「気をつけてくださいよ! もしかしたら外でマライアさんが待っているのかもっ」
「大丈夫、磁力は強くなってないわ! いけるっ!」
「……」

わたしがマライアさんだとしたらどう考えるでしょうか。

いくらなんでもわたしたちがマライアさんを追ってないのに気づかないはずがありません。

なのに追いかけてこない。

だとしたらもしかして。

「追わなくても問題が無い……?」

わたしたちが外に逃げるのを見逃すという事は、本体が追うことをしなくてもわたしたちを始末できるということなのでは。

「あ、秋葉さまっ! まずいですっ! 外に出ては危険ですっ!」

そうです、根本的なことを忘れていました。

ここは日本なんです。

「何よ琥珀っ! 後ちょっとで外に……」
「外に出たら何が待っていると思ってるんですかっ? そこいらじゅうにある道路にっ! 何が走っていると思っているんですかっ?」
「……っ? 車っ?」
「そうです! わたしたちが一歩でも地上に出たらっ! 周囲を走っている自動車全てが向かってくるんですよっ!」

今の磁力程度では完全に車を引き寄せるということはないでしょう。

しかし、ハンドルの操作を誤らせるには十分すぎるはずです。

「それに他にも鉄のものなんてたくさんありますっ。そこにくっついてる時に車が迫ってきたら……」
「……じゃあ、どうしろっていうのよっ!」

秋葉さまが苛立った様子で叫びました。

「戻ってマライアさんを追いかけるしかないでしょう。……今の日本、地上のほうがよっぽど物騒です」
「……ッ。結局無駄足を踏んだだけってこと?」
「そんな事はありません。この本があります」
「……何よ。優しい科学が何の役に立つっていうの?」
「追いながらわたしはこの本を読んでみます。何かマライアさんへの打開策が得られるかもしれません」

優しい科学、サブタイトルは「わかりやすい磁力のしくみ」

「……ずいぶんご都合主義な本に思えるんだけど」
「それくらいなきゃやってられませんよっ!」

きっとこの本が手に入った事は運命なんです。

わたしたちに恥をかかせたマライアさんをその手で倒せというっ。

「わかったわ……なら探しましょう。マライアを」
「はいっ」
 

わたしたちは昇ってきた階段を引き返していきました。
 

TO BE CONTINUED……



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