ぱたん。
「……代行者。どこまで読み終わりました?」
「……」
「代行者っ。聞いているのですかっ?」
「え? あ、はい」
気づくとシオン・エルトナム・アトラシアがわたしの顔を睨み付けていました。
「徐々に奇妙な冒険」
その35
「セト神のアレッシー その1」
「……なんでしょうか」
「どこまで読み終わったか聞いているんです」
「あ、はい。ええと……丁度今からDIOと承太郎が戦うところです」
ついつい読みふけってしまいましたね。
「終盤戦ですね。そこまで読んであればまず問題はないでしょう。いかがですか? 感想は」
「ええ。とても面白いです。遠野君や秋葉さんが夢中になるのもわかる気がします」
それぞれの能力も面白いですし、単純な力ではなく頭を使った戦いがあるのもいいです。
時折入るギャグもまたいい味を出してますし。
「そういう事を聞いているのではありません」
「……わかってますよ。タタリがこのマンガを具現化してしまったことについてでしょう?」
「はい」
「一言でいえばとんでもないことをしてくれた、ですかね……」
このマンガの世界の人たちはそれこそ無茶苦茶な能力者ばかりです。
「今まで出てきたスタンド使いも遠野君たちが原作を知らなければもっと苦戦していたでしょうし」
「その通りです。だからこそ貴方にも原作を読ませました。知らなければ役に立ちませんからね」
「……」
なんか最初から思ってたんですけど、わたしこのシオンとかいう人と思いっきり合わないような気がします。
下手をしたらアルクェイド以上に。
「しかし今は違います。原作の知識を得た以上、あなたは吸血鬼に対する知識、戦い方をも持つ、最も頼りになる人間となりました」
「え? あ、いや、それほどでも」
案外いい娘かもしれませんねえ。
考えを改めなくてはいけません。
「それで代行者。あなたの考えるこれからのタタリの行動を聞かせていただきたいのですが」
「つまりどう動くかを予想しろと?」
「そういうことです」
「それは貴方のほうが得意分野なのでは。アトラスの錬金術師」
「その通りです。しかし参考までに聞いておこうと思いまして」
「……」
ああ、やっぱり苦手かも。
このいかにもわたしは全て知ってますみたいな口調がどうも気になってしまいます。
偉そうというか高飛車というかなんというか。
とにかくわたしとは相性がよくないようです。
「それで如何でしょうか?」
「……そう、ですね」
それでもとりあえず自分の考えを整理する意味もあって考えてみました。
「最初の頃は原作と同じパターンが多かったですけれど、これからは原作とはまた違った動きをしてくるのではないでしょうか」
「その心は?」
「ほら、まとめてスタンド使いが襲って来たときがあったじゃないですか。その前の暗青の月と力の時もそうでしたが。原作と違うパターンをやっている時、ヤツは実験しているんだと思うんですよ」
「実験……ですか」
「そうです。どの攻撃パターンがわたしたちにとって最も対処しづらいか。それを分析していたんだと思います」
「なるほど。それで代行者はタタリがどう判断したと思います?」
「その答えは単純明快、原作と違った行動をすればわたしたちはその後の予想が出来なくなるわけです」
原作とまったく同じ事をしたってそれはもう倒してくれって言ってるようなものですからね。
「ええ。その通りです。私の第三回路もそう結論付けました」
なんかよくわからないことをシオンが言ってますけど取りあえず無視です。
「さらに言うならば、集団を狙うよりも誰かが一人になったときを狙うでしょうね。しかも弱点をついた」
「それはつまり代行者をおびき寄せるためにメシアン付近を破壊したのと同じ事をするということですね」
「ま、まあ……そういうことです」
それを引っ張り出されるとなかなか痛いんですけどっ。
「……ところで遠野君はどこへ?」
アルクェイドはベッドの上でおねんね中ですが。
さっきから遠野君の姿がどこにも見当たりませんでした。
「志貴は外の空気を吸ってくるよと出て行きましたが……」
「……」
「……」
さらに言うならば、集団よりも誰かが一人になったときを狙うでしょうね。
「と、遠野君を探しましょうっ!」
「は、はい……」
わたしとシオンは慌てて部屋の扉を開けました。
「次のスタンド使いは誰でしたっけ……?」
「順番どおりだとしたらバステト女神のマライアですが」
「それはあり得ませんね。あれはどちらかというと守りのスタンドですから。アルクェイドを狙うのであれば攻められるスタンド使いを選ぶと思います」
「ではその次の……セト神のアレッシー?」
「アルクェイドは何百年も生きてますから数年くらい遡っても意味がないと思いますが……いや」
遠野君に出会う前のアルクェイドは自我なんて無かったんだから、操るのは簡単だといえます。
「……アレッシーの可能性は高いですね」
わたしと同じ事を考えたのか、シオンがそんなことを呟きました。
「しかし今は夜。影は出来にくいと思うんですけど」
「スタンド使いにそんなものは関係ないでしょう」
「……そ、そうですね」
ああもう、なんかイチイチムカっときます。
秋葉さんがアルクェイドを相手にしているときもこんな心理なんでしょうね。
「一階に誰かいます……」
「む?」
階段から下を見るとシオンの言うとおり人影が。
「……誰でしょう」
遠野君にしてはいやに頭身が低いような。
「はっ……まさかっ」
わたしは嫌な予感がして、階段を飛び降りて一階に着地しました。
すたんっ。
その音に反応したその人物がこちらを向きます。
「……おねえちゃん、だあれ?」
ズキュウウウウン!
まるでDIOにキスをされたエリナのような衝撃がわたしの胸を貫きました。
なんですかこの衝撃はっ。
これが鯉、いえ恋?
いや、そうじゃなくて、母性本能に直に訴えかけるというかなんというか……萌え?
「あのう……君、名前は?」
一応念のために聞いてみました。
人違いだったら困りますからね。
「ぼくは……しき。とおのしき」
「……」
それを聞いたからにはとりあえずやる事は決まっています。
「いやぁ〜! 遠野君っ! 遠野君かわいい〜っ!」
わたしは有無を言わさず思いっきり遠野君を抱きしめてしまうのでした。
TO BE CONTINUED……