目を開けると先輩の姿が。
「えっと……俺、どうしたんだっけ」
「アレッシーに子供にされてたんですよ。まあもう倒しちゃいましたけど」
「あー……」
そういえばそうだったっけ。
「ごめん、先輩。油断してた」
「いえいえ、気にしないで下さいな」
「徐々に奇妙な冒険」
その37
「幕間」
「まさかセト神のスタンドが影を伝って伸びてくるなんて思わなくてさ……」
完全に不意を突かれてしまった感じだ。
「あれはわたしも驚きました。まあでも大した事は無かったですよ」
「ははは……」
さすがはシエル先輩である。
「しかし……子供にされたせいか記憶がはっきりしないな」
どうも頭がぼーっとしてしまう。
「代行者がいなければわたしたちはやられていたでしょうね……」
シオンは渋い顔をしていた。
「それもシオンがわたしをこの場に残した判断があったおかげですよ」
「そ、そうですか?」
「ええ」
「……」
なんかシオンが先輩の手玉に取られている気がする。
「……そういえば秋葉たちはどうしてるかな。偵察に行ってから連絡あった?」
「いえ、特には」
「そっか」
「もしかしたら秋葉たちもタタリの攻撃を受けてしまったのかもしれませんね」
「かもなぁ」
アレッシーと同時だから多分襲うとしたらマライアだろう。
ばたんっ。
だだだだだだだっ。
「……なんだ?」
こちらに駆けてくる足音が聞こえる。
「兄さんっ! ご無事ですかっ?」
「あ、秋葉?」
「しっきさーん。まだ生きていらっしゃいますか〜?」
「……琥珀さんも」
息を切らせた秋葉と琥珀さんが部屋に転がり込んできた。
「ええ。まったくもって元気そのものですよ」
シエル先輩が答える。
「本当ですか? アレッシーなどに襲われたりしませんでしたかっ?」
「ん? ああ、襲われたけど先輩が倒してくれたんだ」
「え? もうですか?」
「ああ。さすがシエル先輩だよ」
「……正確にはわたし自身の力じゃないんですけどね」
先輩はよくわからないことを呟いていた。
「しかし……」
襲われた相手にアレッシーとピンポイントで来たって事は。
「やっぱり秋葉たちはマライアに襲われたんだな」
「え? あ、は、はい」
俺が相手を言い当てたので秋葉は驚いたようだった。
「そうなんですよー。大苦戦しましたけれどわたしの英知のおかげで倒すことが出来ました」
「嘘をつきなさい。私の檻髪のおかげでしょう?」
「ま、まあそれはそうですけど……」
「どうやら心配する必要はなかったみたいですね」
くすくすと先輩が笑う。
「まあ、どっちも無事でよかったよかったと」
メンバーがメンバーだけに緊迫感がさっぱり感じられなかった。
「……」
そんな雰囲気に対してなのかやたらと面白くなさそうな顔をしているシオン。
「ふぁー。よく寝た……」
そして緊迫感の無さの極みが目を覚ます。
「……目を覚ましましたか真祖」
「もう傷は大丈夫か?」
「うん。ばっちり。やっぱり夜は治りが早いわ」
びっっとブイサイン。
よかった、本当に元気のようだ。
「では早速シュラインへ向かいましょう」
立ち上がるシオン。
「え? もう? もうちょっとゆっくりしてから行きましょうよ」
「事態は一刻を争うんです。そんな悠長な暇はありません」
「あ。タンマです」
すると琥珀さんがそんなことを言った。
「何ですか」
「これから出てくるであろうスタンド使いをおさらいしたほうがいいと思うんですが」
「そうですね。残りの連中はひと癖もふた癖もある人ばかりですし」
先輩は琥珀さんの言葉に賛成のようである。
「俺もそのほうがいいと思うな。先輩は原作を読んでもらったけどアルクェイドはまだだし」
「肝心要のわたしが情報持ってなきゃ困るでしょ?」
「……」
これでもかってくらいぶすっとした顔をするシオン。
「残りのスタンド使いはホル・ホースとボインゴ、ダービー兄弟にペット・ショップ、ケニーGにヴァニラ・アイス。そしてDIOです」
そして一気に第三部の残りスタンドを羅列した。
「け、ケニーG?」
「幻覚を作り出すスタンドだよ。イギーとアブドゥルにさくっとやられたやつ」
「ああ……あの雑魚ですね」
そんな言われ方をしたらケニーGも浮かばれないことだろう。
まあ確かに雑魚だったけど。
「雑魚のことはどうでもいいでしょ。強いやつを教えてよ」
「わたし、ダービー兄弟は割と強敵だと思います」
「でも琥珀。あいつらの能力を知ってるんだからバカ正直に戦う必要ないでしょ?」
「うう、頭脳戦が好きなのに……」
「ダービー兄弟は格闘には向いて無いなあ……」
ゲーム開始の前にやっつけちゃえばいいんだからな。
「純粋に戦闘で強いのはペット・ショップ、ヴァニラ・アイス、DIOでしょうね」
「そうだな……その辺りだろうな」
「ペットショップ戦ではイギーが重症を負うし、ヴァニラ戦闘ではアブドゥルとイギーが死亡。DIO戦では花京院が死亡、ジョセフが死んで蘇る……」
「……」
お互いに顔を見合わせてしまう。
「前に確かタロットカードを引き合いましたよね」
「ああ」
「このまま何の策も考えずに行くと、その暗示の人が死ぬのではないでしょうか」
琥珀さんが神妙な顔つきで呟いた。
「……」
確かにこの先は本当に生きるか死ぬかの戦いである。
「しかしタタリは原作と違う動きをしています。その通りに行くとは限らないでしょう」
「としたらこちらもこちらで原作と違う戦い方をすれば誰も死なずにすむかもしれないですね」
「でも、それってどうすればいいの?」
「うーん……」
そう言われると困ってしまうのだが。
「アルクェイド。おまえ暗黒空間を作ったり時間を止めたり出来るか?」
もしこいつがそれらを出来るとしたら、DIOもヴァニラ・アイスも強敵ではなくなるだろう。
「んー。やってみたことないからわからないわね」
「……そうか」
「でも、多分志貴ならそれを何とか出来るんじゃないかしら」
「俺が? なんで?」
「なんとなく、だけど」
「……なんとなくかよ」
思わず苦笑してしまう。
「しかし遠野君は『星』のカードを引きました。つまり主人公ということです。主人公だけが持つ特殊能力を持っているんじゃないですかね?」
「俺は時なんて止められないよ」
「『止まった時』を殺すとか出来ないんでしょうか」
「止まった時を殺すねえ……」
いよいよ話が胡散臭くなってきてしまった。
「何より大切なのは恐怖を克服する事だと思います。DIOも言っていましたが」
「そうだな……『恐怖』を克服することが『生きる』ことか」
「でも恐怖を乗り越えた花京院は死んでしまいましたよね」
「……」
「……」
「……」
「琥珀」
「あ、あう、わたし余計な事言っちゃいました?」
琥珀さんの言葉に凍りつく場の空気。
バキューンッ!
「っ?」
「……今のはっ?」
その空気を破壊するような銃声が階下に響いた。
「銃を使うスタンド使いと言えば……」
「ホル・ホースですね」
「二度目の登場……ボインゴも一緒でしょう」
「油断しないようにしよう。何が起こるかわからないからな」
「ええ。わかってますよ」
各自が戦闘姿勢を取る。
「ボインゴか……」
ボインゴの能力はマンガによる未来予知。
マンガ、未来予知。
俺の頭の中には一人の少女の姿が鮮明に浮かび上がってくるのだった。
「まさか……な」
TO BE CONTINUED……