「おめーの『予知の本』とおれの『暗殺銃』の能力を合わせて奴らをブッ殺すんだ。いいな?」
「え、あ、あの、そのう……」
「いいなっ?」
「で、ですからわたしは瀬尾晶と言いまして。そのボインゴとかいう人じゃないんですよぅ……」

わたしはカウボーイの格好をした妙な人に絡まれていた。

「じゃあこの本は一体なんなんだっ? ああんっ?」
「うう……」

どうしたこんな事になってしまったんだろう。

わたしは一時間ほど前の事を思い出していた。
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その38
「アキラちゃんの大冒険」




「……来ちゃった」

わたしは志貴さんと遠野先輩の住む三咲町に辿り着きました。

「びっくりするかなぁ」

約束も何もせずに来てしまったわたし。

しかももう夜も遅い時間である。

「でも電話じゃこれは上手く説明できないし……」

何故この街に来たかというと、わたしに奇妙な出来事が起きはじめていたからなのだ。

異変に気づいたのは数時間ほど前。

最初は何が起こっているのかよくわからなかった。

けれどそれは絶対にあり得ない出来事だったのだ。

わたしは怖くてたまらなかった。

でも。

この奇妙な出来事も志貴さんやその知り合いの人たちならきっとなんとかしてくれるだろう。

勇気を出してそれを持ち、この街にやってきた。

「……なんでこんなに人がいないんだろう」

駅前だというのに人の姿はほとんど見えずがらんとしている。

「まあ気にしてもしょうがないか……」

そんな街に違和感を感じつつも、とにかく遠野のお屋敷に向かうことにした。
 
 
 
 
 

「この道を左に曲がって……」

どんっ。

「あ、す、すいませんっ」

人があんまりにも歩いてないので油断したせいか、突然出てきた人に激突してしまった。

「いや……大丈夫だよ」

その人はそう言って笑っている。

「あ、あれ? 志貴さん?」

なんとそのぶつかった相手は他でもない、遠野志貴さんだった。

「……君は?」

がーん。わたしって志貴さんに覚えられてないのか。

「ほ、ほら、アキラですよ。瀬尾晶。遠野先輩の後輩の」
「あ、ああ。そういえばそうだったね」

ごほんげほんと咳払いをする志貴さん。

具合でも悪いんだろうか。

「え、ええと、それでそのアキラちゃんはどうしてこんなところにいるのかな」
「あ、はい。実は志貴さんに相談したいことがあってですね」
「そ、そそそそ相談したいこと?」

志貴さんがやたらと慌てている。

わたしそんな変な事言ったかなあ。

「はい。志貴さんだったらきっとなんとかしてくれると思うんですよ」
「俺だったら……なんとか」

何故か後ずさりをする志貴さん。

「あ、あの。聞いていただけますか?」
「ウヒッ! で、ででで、でもさ。おれがそれを解決できるとは限らないぜ?」
「で、でも志貴さんの知り合いの方がなんとかしてくれるかもしれないですし」
「……」

大して熱くもないのに汗を拭っている志貴さん。

「どうしたんですか? 具合でも悪いんですか?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけどさ。はは、ははは……」

志貴さんの体調も気になるけどが、わたしのほうも一刻を争う事態なのだ。

「とにかく、これを見てくださいっ」

わたしは持ってきたカバンの中からそれを取り出した。

「……こ、これは?」

取り出したのは一冊のスケッチブック。

分厚い、普通の本くらいのサイズがあるものである。

「わたしのものなんです。まだ一度も使った事が無い」

そう、わたしはまだこのスケッチブックに何かを書いた事はなかった。

「ふ、ふーん……」
「なのに……見てください」

わたしは一枚目のページを開いた。

「マ、マンガだ」
「はい。マンガです」

そう、そこにはマンガが描かれているのだ。

「わたしが一度もこの本を使って無いのに……マンガが描かれているんです」
「マンガ……」

志貴さんはなんだか難しい顔をしています。

「もしかして、これに突然マンガが浮き上がってきたりしたの?」
「は、はいっ。信じられないけどそうなんです。突然マンガが浮き出てきて……」

最初見た時は本当に信じられなかった。

ほっぺたをつねったけれど痛かったし。

「しかも、そのマンガに書いてある事が必ず当たるんです」
「……100%?」
「はい。100%なんです」

志貴さんが開いているページにはわたしと志貴さんが出会ったシーンが描かれていた。

つまり今現在を描き表しているのだ。

「マンガの予知……100%」
「はい」
「そうか……おまえ、いや君がそうだったのか」
「え?」

何だかいま一瞬志貴さんの顔が悪人みたいに見えたような。

「書物の神、トト神って知ってるかい?」
「え? えーと……ちょっとわからないです」
「そうか。じゃあお話をしよう。あるところにオインゴとボインゴという仲のいい兄弟がいたんだ」
「は、はぁ」
「兄は弟と一緒に悪い奴をやっつけようとしていた。けれど不思議なことに一緒にいたはずの弟はどこにも見つからなかった」
「見つからなかったんですか」
「ああ。でも代わりが見つかったんだよ」
「はい?」
「アキラちゃん。頼みがある」

志貴さんが真面目な顔をしてわたしの肩を掴みました。

うわ。志貴さんの顔が間近にあってドキドキします。

「な、なんでしょう?」
「君がボインゴだ。君の未来の見えるマンガの力を貸して欲しい」
「え、ええっ?」

暗がりでよくわからないけれど、よく見ると『OINGO』と印刷されている変な服を着ていた。

「ひょ、ひょっとして遠野先輩の罰ゲームか何かなんですか?」
「何でもいい。とにかく予知の力が必要なんだ」
「え、えと……」

確かにわたしには未来予知の力がある。

けれどそれはわたしの頭の中で見えるものであって、こういう風にマンガとして写し出されるものではなかったのだ。

よくわからないけれど、今志貴さんがその力を必要としてくれているならば。

「わ、わかりました。協力します」
「本当かいっ? 助かるよっ」
「い、いえっ……」

志貴さんのためならなんのその。

「で、この後の予言はどうなるの?」
「それが……このマンガ、すぐ近い未来しかわからないんです」
「そ、そうか。弟のもそうだったな」
「何か?」
「いや、なんでもないよ。じゃあ予言が出るのを待たなきゃな……」

そんなことをいっているうちに。

「あ……新しいページが……現れ……ました」

新しいページにマンガが描かれていた。

『一緒にカレー屋メシアンに向かいましょう。そこにオインゴ兄がオレンジに見せかけた爆弾をしかけます。すると……』

「すると……?」

『悪い奴はふっとばされます。顔がまっぷたつ血を流してリタイヤだァーッ!』

「こ、こんなに予知がはっきりと!」

志貴さんはなんだかよくわからないけど嬉しそうです。

「でかしたぞアキラちゃん。この通りに行動すれば悪いやつは倒せるんだなっ」
「え、あ、は、はい。多分そうなんだと思います」

マンガに描かれていた悪い奴は、わたしの見た事のない人の顔だった。

なんだかやたらブサイクだけど、誰なんだろう。

「よしっ。じゃあメシアンに行こうっ」
「あ、え、ちょっと待ってくださいっ」
 

わたしは慌てて志貴さんを追いかけて行った。
 

TO BE CONTINUED……



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