『一緒にカレー屋メシアンに向かいましょう。そこにオインゴ兄がオレンジに見せかけた爆弾をしかけます。すると……』

「すると……?」

『悪い奴はふっとばされます。顔がまっぷたつ血を流してリタイヤだァーッ!』

「こ、こんなに予知がはっきりと!」

志貴さんはなんだかよくわからないけど嬉しそうです。

「でかしたぞアキラちゃん。この通りに行動すれば悪いやつは倒せるんだなっ」
「え、あ、は、はい。多分そうなんだと思います」

マンガに描かれていた悪い奴は、わたしの見た事のない人の顔だった。

なんだかやたらブサイクだけど、誰なんだろう。

「よしっ。じゃあメシアンに行こうっ」
「あ、え、ちょっと待ってくださいっ」
 

わたしは慌てて志貴さんを追いかけて行った。
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その39
「アキラちゃんの大冒険 その2」







「志貴さん、どこに行ったんだろう……」

途中でわたしは志貴さんとはぐれてしまった。

「大丈夫なのかなぁ」

マンガの予知によるとオインゴ兄という人が爆弾をメシアンに仕かけるらしい。

志貴さんが巻き込まれたら大変だ。

「しきさーん」

名前を呼ぶ。

反応は……ない。

「おかしいなあ……」

メシアンに行くっていってたのに。

「この辺を探してみようかな」

再び曲がり角へ。

どんっ。

「ああっ! す、すいませんっ」

またも人にぶつかってしまった。

こんなに人通りが少ないのにぶつかってしまうなんて、なんてわたしはマヌケなんだろう。

「いや、気にしなくていいよ」

ぶつかった相手は普通のサラリーマンっぽい人だった。

「そ、そうですか。本当にすいません」

もう一度頭を下げる。

「……しかし、君は学生かい?」
「え、あ、はい」

制服を着ていないけど身長が低いのでそう見えたんだろう。

「最近、殺人鬼が街をうろついているという噂がある。早く家に帰りなさい」
「そそそそ、そうなんですかっ?」
「ああ。いいかい。早く帰るんだよ」

わたしの肩をぽんと叩き男の人は去っていった。

「さ、殺人鬼……」

思わず周囲を見回してしまう。

「で、でも、志貴さんならきっとなんとかしてくれるしっ」

強引に自分を振るい立たせる。

とにかく志貴さんを見つけないと。
 

ドガーンッ!
 

「うああっ?」

爆発音が響いた。

「今のは……」

見るとメシアンのすぐ傍の路地裏から煙が出ている。

「……」

わたしはその場所に慌てて走った。

「し、しきさ〜ん?」

路地裏は煙でほとんど何も見えなくなってしまっている。

「い、いますか〜? いたら返事してくださ〜い」

やはり返事はない。

「ど、どうしよう……ごほっ、げほっ」

いけない、立っていると煙を吸い込んでしまう。

わたしはとりあえずその場に屈んだ。

「……」

と、自分の手に持っていた例の予知のスケブに気づく。

「もしかして……」

ページをめくってみた。

「新しいページが……現れてる」

そこにはこう書かれていた。

『オインゴ兄は爆発で再起不能! 志貴さんはまったく傷つくことなく、いや気づくことすらなく戦いは終わっていたのでした』

「終わった……?」

どういうことなんだろう。

「……」

だんだんと煙が晴れてきた。

「あっ」

すると一人の男の人が倒れているのを発見。

「だ、大丈夫ですか……?」

近寄って顔を見て驚いた。

「こ、この人マンガの予知に出てた悪い人だ……」

よくわからないけど爆発に巻き込まれてやられてしまったらしい。

「……」

しかもよく見るとさっき志貴さんが着ていた『OINGO』という趣味の悪い服を着ていた。

「……まだ新しいページが……ある」

スケブをめくるとまだマンガは続いていた。

『なんと志貴さんはオインゴ兄の変装だったのです。がーん! 大ショック!』

「……えーと」

どうやら悪い奴とはオインゴ兄という人のことだったらしい。

そしてこのマンガに書いてある事から憶測すると、オインゴ兄は志貴さんに変装してわたしに近づいてきて、マンガの予知を信じて仕かけた爆弾で自滅してしまったということになる。

「そんなバカなことってあるのかなぁ……」

それこそマンガみたいな展開であった。

『さあ本物の志貴さんを探さなきゃ。アキラは再び志貴を探しに向かいました』

そこでマンガは終わっていた。

「……やっぱり志貴さんを探さないとわかんないみたい」

そもそもわたしが志貴さんがなんとかしてくれる、と思ったのはこのマンガの冒頭に書かれていた文句のせいなのである。

「……」

一番最初のページに戻して開く。

『何としてでもこのマンガを志貴さんに見せなくてはいけない』

そう書かれていたのだ。

「どっかで聞いたような文句なんだけどなあ……」

どこかで聞いたような言葉。

けどどうしても思い出せなかった。

「さあ、本物の志貴さんを探さなきゃ」

マンガと同じセリフを言ってわたしはその場を後にしようとした。

けれど。

「メシアンっ! メシアンは無事ですかあっ!」

なんて大声で叫ぶ女性が目に止まり足を止めた。

「あれは……」

見た事がある気がする。

確かシエルっていう、志貴さんの先輩の人だ。

「……どこで見たんだっけなあ」

マンガの予知にはあの人のことは書いてなかったし。

「自分で未来予知したんだっけなあ……」

どうも記憶がはっきりしない。

このマンガのせいで自分の予知とそうでない予知が混在してしまっているのだ。

思い出せないけど多分自分の未来予知で見たんだと思う。

「だとしたらシエル先輩さんはわたしの事を知らないわけで……」

あの人に聞けば志貴さんの行方はすぐにわかるかもしれない。

けれど、いきなり「シエルさんですか?」なんて話しかけたら怪しいことこの上ないだろう。

「メシアンは無事ですかっ! カレーはっ! ルーはっ!」

今話しかけるとそれこそとんでもないことになりそうだし。

「爆発はっ……あっちっ!」

シエルさんはとんでもないスピードで路地裏へ駆けていった。

「あ、ちょっと……」

話しかけようかどうか悩んだままわたしはシエルさんの後を追った。

「この男は……オインゴ……と読むんですかねこのシャツは」

シエルさんは倒れた男の人をじっと見つめている。

「よかった……メシアンが無事で」

そして大きく安堵の息を洩らしているようだった。

「メシアンってあそこのカレー屋さんだよなぁ」

あそこってそんなにあせるほど重要な場所だったんだろうか。

「む」
「あ」

そしてシエルさんと目が合ってしまった。

「動かないで下さい」
「えっ」

なんだかわからないけどシエルさんはわたしを睨み付けている。

「あ、あの、どうしてですか?」
「どうしてではありません。なんですか、その剣は」
「剣……?」

後ろを見るとシエルさんの言うとおり剣が落ちていた。

「こんなの……さっきまで無かったのに」

どこから出てきたんだろうか。

「あなたのものではないのですか?」
「わ、わたしのじゃないですよっ。突然現れたんですっ」

わたしは慌てて叫んだ。

「突然?」
「は、はい。突然です。さっきまではありませんでしたっ」
「……」

シエルさんがゆっくりと近づいてくる。

「動かないで下さいよ」
「は、はいっ」

両手バンザイをして無抵抗をアピール。

ばさっ。

「あ……」

スケブが落っこちてしまった。

「この剣……近くで見ると……凄い綺麗ですね」

そしてスケブには新しいマンガが現れていた。

『シエルさんは怪しげな剣を握りました。するとさあ大変! シエルさんは悪の手先となってしまったのです』

「え……ちょっ! し、シエルさんっ! その剣を握っちゃ駄目で……」

思わず名前を呼んで振り返る。

「……す」

しかしもうそこにはシエルさんの姿はなかった。

「ああ、悪の手先になっちゃったのかなぁ……」

このマンガ、未来が100%当たるのはいいけれど、常に見てなくちゃ全く役に立ってくれない。

「……どうしよう」

こういう時こそ事態を解決できるマンガが浮かんでくればいいのに。

『アキラはシエル先輩のことはとりあえず諦めて志貴さんを再び探します』

「……」
 

マンガの予知はどうあっても志貴さんを探させたいみたいだった。
 

TO BE CONTINUED……



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