「……どうしよう」
こういう時こそ事態を解決できるマンガが浮かんでくればいいのに。
『アキラはシエル先輩のことはとりあえず諦めて志貴さんを再び探します』
「……」
マンガの予知はどうあっても志貴さんを探させたいみたいだった。
「徐々に奇妙な冒険」
その40
「アキラちゃんの大冒険 その3」
『遠野先輩は怖いけれどアキラはせいいっぱい勇気を出して遠野のお屋敷に向かっていきました』
わたしはとりあえず常にマンガを見ながら行動する事にした。
そうすれば予知を見逃がすことがないからだ。
「……」
しかしこう的確にわたしの心理を当てられると悲しいものがある。
「ま、まあいいや。行こう……」
予知どおりわたしは遠野のお屋敷へ向けて歩き出した。
『途中、ギャンブラー風のおじさんに声をかけられます』
「君。このわたしとちょっとつまらない賭けをやってみないかい?」
「え、わ、わたしその、急いでるんで」
『アキラは何だろうこの変な人と思い、慌てて逃げ出しました』
「ま、待てっ! 待ってくれッ! まさかッ! まさかこのダービーの出番がたったこれだけだと言うのかッ?」
こういう人に関わるとロクな事が無いに決まってる。
何か言ってるけど完全に無視してわたしは駆けだした。
『そしてついにアキラは遠野家へと辿り着きました』
「やっと着いた……」
『けれどアキラに不幸な出来事が訪れるのです』
「……え」
さらに新しいマンガが浮かぶ。
『後ろを振り返るとカウボーイ風の男の人が』
「……」
振り返ってみた。
「おめー。そのマンガはもしかして……予知のマンガ」
するとわたしのマンガを見て驚いているカウボーイ風の男の人が本当に立っていた。
何故にカウボーイ? というのも聞きたいところだったけれど。
「な、なな、なんで予知のマンガのことを知ってるんですかっ?」
思わずマンガの事を尋ねてしまった。
「ほう。やっぱりそうか。ってことはてめーがボインゴってことだな」
「ボ、ボインゴ?」
さっきのオインゴって人も言ってたけど、このボインゴっていうのは誰の事なんだろう。
「今マライアとアレッシーの野郎が連中を襲っている。奴らが負けたら今度は俺たちの出番だ。いいな?」
「え、えと、その、な、何の話なんですか? わたしにはさっぱり……」
「ええい、めんどくせえっ!」
「むぐっ?」
口を塞がれてしまった。
「クロロホルムだ。女の子にこんなこたーしたくねーんだがよ。予知が出るまでてめーは人質だ。いいな……」
最後にそんな事を言っているのが聞こえ、わたしの意識は途絶えてしまった。
「おい、起きろボインゴ」
「うーん……」
目を開ける。
そこには例のカウボーイの人が。
「マライアとアレッシーがやられた。俺たちの出番だ」
「え、えと、その」
「おめーの『予知の本』とおれの『暗殺銃』の能力を合わせて奴らをブッ殺すんだ。いいな?」
「え、あ、あの、そのう……」
「いいなっ?」
「で、ですからわたしは瀬尾晶と言いまして。そのボインゴとかいう人じゃないんですよぅ……」
ずいぶんと長い回想になってしまったけれど、わたしが絡まれたのは以上のような顛末があったからなのである。
どうもわたしは予知のマンガのせいでボインゴという人と間違われているらしい。
「じゃあこの本は一体なんなんだっ? ああんっ?」
「うう……」
「この本がある以上てめーはボインゴなんだよ」
「そそ、そんな理屈滅茶苦茶ですっ! それに、予知が100%とは限らないし……」
わたしはこのマンガの予知が100%なのを知っているけれどこの人は知らないはず。
「いや。このマンガの予知は絶対に当たる。マライアとアレッシーがやられることも載ってたからな」
「えっ?」
「ほらよ」
マンガを見ると、確かにマライアという人とアレッシーという人を志貴さんたちが倒した事が描いてあった。
「あ、あなたは一体?」
「おれはホル・ホース。おめーのマンガの力を借りて真祖の連中をブッ殺す」
「ええっ? だ、駄目ですよ殺すだなんて!」
真祖というのは何なのかわからないけど、そんなことをさせちゃ絶対にいけない。
「だがもう新しい予知は出てるんだぜ」
「……」
確かに新しい予知が浮き出ている。
「でも……この予知って……」
『チクショー! 残るスタンド使いはほとんどいねーじゃねーか! スカタンどもメーッ 早いとここの弾丸をブチ込んでやるぞ!』
ホル・ホースさんが怒っている絵が描かれていた。
『でもホル・ホース。商店街で「皇帝」の拳銃を使うことを考えてはいけません』
「これって……」
『さあ! ホル・ホース、シエルさんの鼻の穴に指をつっこみーの! アーンド! くすぐりーのするとォ!』
これはひょっとしてギャグか何かなんだろうか。
『やったーッ! 血を流して気絶だッ! ラッキーホル・ホース! みな殺しのチャンス到来だーッ!』
いや、もうこれはギャグとしか思えない。
「こんなバカげたことがこれから起きるわけねーぜと言いたいところだが……原作でもこのマンガ通りの展開が起きた」
「え」
また分からない単語が出てきた。
原作ってなんのことだろう。
「だが誤解しちゃいけねえ。原作じゃくすぐるのを忘れたから負けたんだ。あれを忘れなかったらおれは勝ったんだッ!」
「は、はぁ……」
「くすぐりさえすれば真祖も遠野志貴も遠野秋葉もシエルもシオンもブッ殺せるッ!」
「……っ!」
何がなんだかわからないけど今のではっきりした。
この人は志貴さんを殺そうとしている。
それを知ったわたしは何をすればいいだろうか。
「……」
意識を集中させる。
「……お願い……見えて」
マンガではない、わたし本来の未来予知。
それは完全ではない変えられる未来。
でも、変えられるからこそっ。
「……見えたっ」
わたしはペンを取り出した。
出来の良さは関係ない。
とにかく急いでペンを走らせる。
「お。奴らが出てきたぞ。さっそく……」
「あ、あのぅ。ホル・ホースさん。新しい予知が出てきてるんですが……」
「あん?」
そのページを見せた。
『ホル・ホース、原作どおりの行動を取る前にやるべきことがある。それは遠野秋葉への狙撃だッ! 5メートルまで接近して連射連射ッ! 一気にダメージを与えられるぞッ!』
「遠野秋葉に狙撃だあ? さっき皇帝を使うなと出てたっつーのに」
「で、で、で、も、わた、わた、わたしの予知は……絶……対、ひゃくパーセントなんです、ハイ……」
「……そうだな。先の予知よりはよっぽど攻撃的だし……いっちょやってみるかっ!」
ホル・ホースさんの手から突如銃が現れ、くるくると回転させている。
「準備OK! いくぜッ!」
そしてホル・ホースさんは駆けていった。
「……」
ぐらりと視界が揺れる。
「無理して未来予知したから……かな」
わたしの見た未来。
真祖という人を狙った弾丸が逸れて遠野先輩に当たってしまう。
けれどそれは背後からの跳弾に気づかなかったから。
正面からの狙撃ならば遠野先輩は余裕で叩き落とせる。
先輩はわたしの逃げ足のスピードだって奪えちゃうんだろうから。
「後は……お願いします、せんぱい」
まいったなあ。また志貴さんにマンガ渡せないや。
わたしの意識はそこで途切れた。
「しかし、不思議ですね……ボインゴと一緒に来ると思いきや正面からの狙撃」
「ほんとよ。しかも私を狙うなんて愚の骨頂。焼き尽くしてあげたわ」
「ははは……」
味方ながらなんつー恐ろしい能力。
「ホル・ホースは血を流して気絶……原作とは反対の展開になってしまいましたね」
「秋葉に檻髪食らいながら先輩の鼻に指突っ込んでくすぐり始めた時はどうしようかと思ったけどさ」
「や、止めてくださいよその話はっ」
ホル・ホースは先輩にそんな事をしたもんだから黒鍵でぐさぐさ刺されてしまったのだ。
正直哀れとしかいいようがない。
「さあ行きましょう。タタリの本拠地、シュラインへ」
「あ、うん」
俺たちは夜の街へと繰り出すのであった。
TO BE CONTINUED……