「さっすが秋葉さまですねー。これなら天下を取れる日も近いですよー」

琥珀さんだけは大喜びである。

「……レッドバインドが出来たんなら……もしかして……」

そして何か妖しげなことを呟く秋葉。

「あ、秋葉? おーい」
「……クロス・ファイア・ハリケーン・スペシャル! かわせますかっ!」
「だーっ!」
 

今度は秋葉の作り出した♀マークが俺に向かって飛んでくるのであった。
 
 





「徐々に奇妙な冒険」
その4
ファントム・ブラッド






「こ、こらっ、バカ、止めろってば」
 

ぼんっとひとつのクロスファイアが俺の元いた場所に埋まる。

「す……凄い。これが私の力だっていうの……ふふ、ふふふ……」

ああいかん。

秋葉がだんだん反転しかけているじゃないか。

「くっ……」

仕方なく俺はメガネを外し、七夜の短刀を取り出した。

「甘い甘い甘い甘いっ!」

そのクロスファイア全ての線をなぞり切り裂いていく。

こんなもんにまで死の線が見える辺り、俺の能力も本当にどうかしてると思う。

「ていやっ!」

そして全てのクロスファイアをバラバラに分解し終わった。

「わー。志貴さん凄いですねー。シルバーチャリオッツみたいでしたよー」
「い、いやあ、大した事ないって」

といいつつもまんざらじゃない気分ではある。

「……ですが兄さん。原作のポルナレフがどうなったかお分かりですよね」
「う?」

確かポルナレフは地面に開いた穴から出てきたクロスファイアに。

「ま……まさか」

最初に俺を狙ったかのように見えたクロスファイアは。

「そうです。その場に停滞させるためですよっ」
「だーっ!」

俺めがけ赤いイメージが舞いあがり、全身を包み込んでくる。

「ぐぅ……」

あっという間に体力を奪われダウン。

「炎に焼かれて死ぬのは苦しいでしょう。その短刀で自害してはいかがですか」
「く、くそっ……」

俺は短刀を秋葉に投げつけようとした。

けどすぐに止めた。

「うぬぼれていた……秋葉の能力なんかに俺の剣さばきが負けるわけないと……」
「わ、名言ですよ秋葉さま」

そう、助かる方法はあるのである。

「ふふ……このまま潔く焼け死ぬかな。それが戦いに敗れた俺のおまえの能力に対する礼儀……自害するのは無礼だろ」

パチン。

秋葉が指を弾くと俺を纏っていた赤いイメージが消えた。

「ニヤリ」
「……琥珀さん、わざわざ言葉で言わなくていいから」

体力が無くなっていてもツッコミを入れる辺り、俺も芸人じみてきたなあと思う。

「あくまで騎士道とやらの礼を失せないんですね、兄さんは」
「しかも秋葉さまの背後からも短刀を投げなかった……DIOからの命令をも越える誇り高き精神ですねっ」

つまりこのやりとりはポルナレフが仲間になるシーンそのものなのである。

「というわけで兄さんは肉の芽を抜き取られて仲間になるわけですね」

髪の色も元に戻り、にこりと笑う秋葉。

「肉の芽がなくなってにくめないってやつですか?」
「兄さん、こういう駄洒落を言う琥珀は無性に腹が立ちませんか?」
「うわ。原作通りのやりとりをしただけじゃないですかー」
「あはは……」

二人ともずいぶんとまあジョジョにはまってしまったようである。

「……読ませてよかったのかなあ」

正直見せたのは失敗だったかなーなんて思い始めてきた俺であった。
 
 
 
 

「はあ……」

部屋のベッドに寝転がる。

略奪された体力は元に戻してくれたから体力は十分なのだが、精神的にかなり疲れてしまった。

「まったくどうかしてる」

誰に言うわけでもなく呟く。

やっぱり最近は……いや、今日は妙な日だ。

あの女の子と会ったあたりからだろうか。

「……幻じゃなかったよな」

確かにあの子は実在していたはずだ。

そしてなんとなく彼女は最近の妙な出来事の原因を知っているような気がする。

「……」

チッチッチ。

時計の針の音がいやに響く。

「探して……みるかな」

俺は少し街を出歩いてみることにした。
 
 
 
 
 

「あらら、志貴さん、どちらへ行かれるのです? 晩御飯、もう出来ますよ?」

玄関で琥珀さんと鉢合わせてしまう。

「うん。ちょっとね。すぐ戻ると思うから」
「わっかりましたー。秋葉さまにはうまく言っておきますね」
「ありがとう。助かるよ」

こういう時琥珀さんは話が早くて助かる。

「いえいえ。でも早めにお帰りくださいね」
「わかった」

外は夕焼けからだんだんと闇夜へと変わっていく最中。

「……噂のバケモノどもの活動する時間だな」

まあ噂なんか信じているわけじゃないけど、一応七夜の短刀を持っているか確かめる。

あくまで一応だ、一応。

「よし……」

あの子と会ったのはどのへんだったっけ。

確か交差点の辺りだったかなと記憶を辿りながら歩いていく。
 
 
 
 

「ん?」

そうして街中を歩いていると、なんだか見たことのある後ろ姿を見つけた。

「あ、秋葉?」

その出で立ちは秋葉のようだった。

だが秋葉は今ごろ家で食事をしているはずである。

一体どうしたんだろう。

「……おい、秋……」

声をかけようとして俺は秋葉が持っているものに目を奪われた。

「石仮面……」

それは琥珀さんが作ったレプリカの石仮面である。

そう、裏側には針なんかついていない、まったく安全なはずのニセモノのはずだ。

「……骨針が……ついてるじゃないか……」

だが遠目から見るそれには、骨針が生えているように見えた。

背中に嫌な汗がにじむ。

「おい……秋葉っ!」

そして考える間もなく俺は秋葉を追っていた。

「……」

秋葉は俺の言葉に気付いていないようで、ふらふらと歩いていく。

「くそっ……」

見える距離なのに、ちっともその差が埋まらない。

秋葉は路地裏のほうへと消えていった。

「秋葉っ!」

俺も急いで路地裏へと入る。
 

そこは見覚えのある場所だった。
 

吸血鬼というものをはじめて知って、吸血鬼をはじめて殺した場所である。
 
 

「……秋葉」

そこに秋葉は立っていた。

「兄さん」

俺の声に反応して秋葉は振りかえる。

「人間っていうのは能力に限界がありますよね……」

そうしてくすくす笑いながら仮面を眺める秋葉。

「何を言ってるんだ、秋葉」

どくんと心臓が高鳴る。

不吉な予感。

もしも秋葉が。

「私が短い人生で学んだことは……人間は策を弄すれば弄するほど予期せぬ事態で策が崩れるってことです」
「おい、秋葉っ!」

もしも秋葉が石仮面を被って吸血鬼になってしまったら。

「人間を超えるものにならなくてはね」
「何を言ってるんだっ!」

俺は一体どうするのだろう。
 

「私は人間を止めますっ! 兄さんっ!」
 

瞬間、秋葉の右手に持ったナイフが俺の肩を切り裂いていた。
 

続く



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