味方ながらなんつー恐ろしい能力。
「ホル・ホースは血を流して気絶……原作とは反対の展開になってしまいましたね」
「秋葉に檻髪食らいながら先輩の鼻に指突っ込んでくすぐり始めた時はどうしようかと思ったけどさ」
「や、止めてくださいよその話はっ」
ホル・ホースは先輩にそんな事をしたもんだから黒鍵でぐさぐさ刺されてしまったのだ。
正直哀れとしかいいようがない。
「さあ行きましょう。タタリの本拠地、シュラインへ」
「あ、うん」
俺たちは夜の街へと繰り出すのであった。
「徐々に奇妙な冒険」
その41
「地獄の門番ペット・ショップとケニーG」
「ここが……シュライン」
「ええ。この雰囲気はっ……このドス黒い感覚は……間違いありません。タタリの本体がここにいます」
シオンはシュラインを見て汗をかいていた。
ジョセフがDIOを感じるようにシオンもタタリを感じ取っているんだろう。
「私たちの旅はついに終点を迎えたってわけね……町内だけど」
「それ言っちゃったら緊張感なくなっちゃうだろ」
「す、すいません」
近所に吸血鬼のアジトがありましたなんて全く笑えない冗談だ。
「しかしここを放置したら一晩でこの街は滅びますよ」
「だな」
なんとしてでもタタリを倒さなくてはならない。
「では誰が先陣を切りますか?」
「……」
そう、俺たちはシュラインの目の前にいながら近づけずにいた。
「近づけばペット・ショップが襲い掛かってくるのは間違いないでしょう」
地獄の門番ペット・ショップ。
一度標的にした相手はどこまでも追いかけて殺すクレイジーなハヤブサだ。
正直かなりの強敵だと思われる。
「原作では倒したのはイギーでしたけど……」
琥珀さんがアルクェイドを見る。
「レンにまともな戦闘力期待しちゃ駄目よ。夢の中ならともかく」
アルクェイドの肩の上でにゃあとレンが鳴いた。
「ではアルクェイドさんに行ってもらっては?」
「真祖はおそらく最後にタタリが具現化するであろうDIOへの切り札。傷ついて貰っては困ります」
「……むぅ」
いざ行こうとするとなかなか話がまとまらなかった。
「考えてもラチがあかないよ。みんなで一気にいったほうがいいんじゃないかな」
仕方ないので俺はそう提案した。
「それで全員がヴァニラ・アイスの暗黒空間にバラ撒かれたらお笑い種ですね」
「……うぐ」
それは酷すぎる結末である。
「わたしが志貴と行くわよ。そのペット・ショップとかヴァニラ・アイスとかいうのだってタタリの具現化したやつでしょ? 大した事ないって」
「……」
そういえばこいつまともにスタンド使いと戦ってなかったなあ。
「油断してアヌビスにやられたのはどこの誰ですか、真祖」
「うー」
シオンの言葉にむくれるアルクェイド。
「ここで話してたって時間の無駄ですよ。早くメンバーを決めてしまいましょう」
「……わかりました。では真祖、わたし、志貴が第一メンバー。代行者、秋葉、琥珀が第二メンバーとしましょう」
「十分経って出て来なかったらシュラインに火でもつけますか?」
冗談交じりに琥珀さんがそんなことを言う。
「大丈夫ですよ。むしろわたしたちだけで敵を殲滅しないかどうかを心配してください」
シオンが余裕の表情で返した。
「そういうわけです。行きましょう、志貴。真祖」
「ええ。さっさと片付けちゃいましょ」
「しょうがないな、全く……」
アルクェイドとシオンが駆けていくのを追う。
「気をつけてくださいね」
「おう」
自動ドアが開き俺たちを迎え入れる。
「妙ですね……ここは建設中だったのでは?」
「もうほとんど完成間近だって話だからな。それよりもっと妙なのは、ペット・ショップが襲ってこないことだよ」
ドアに近づいたところどころか進入してもペット・ショップが襲い掛かってくる気配が無かったのだ。
「……」
と、アルクェイドが道の真ん中で立ち止まっていた。
「ど、どうした?」
「このまま行くとまた入り口に戻るわよ」
「え?」
「だってほら、見えるでしょう?」
「……」
アルクェイドの指差した先には確かに自動ドアがあった。
「俺たちが入って来たのと別のやつじゃないか?」
「じゃあ入ってみる?」
「……ああ」
三人で自動ドアを駆け抜ける。
「……兄さん?」
「う」
ドアを出た先には秋葉たちが立っていた。
「ほら、同じ自動ドアだったでしょ?」
「これは……ケニーGのスタンドか」
ケニーGのスタンド、幻覚能力。
幻覚で俺たちを惑わし俺たちを入り口まで戻してしまったのだろう。
「ケニーGなどただの雑魚です。さっさと見つけて倒してしまいましょう」
「おう」
再びシオンが自動ドアをくぐった。
「……げ」
入った先は延々と続く廊下があった。
終わりがどこにあるのかさっぱりわからない。
「入り口は……」
しかも入り口まで消えてしまっていた。
「どうする? シオン」
「アルクェイド。気配を感じませんか?」
「……さすがにここまでタタリが近いと分身の気配までわからないわ」
アルクェイドは渋い顔をしていた。
「……そう、ですか……わたしもです」
「え、ど、どういうこと?」
「つまり……言い辛いのですが、ケニーGの位置がわかりません」
「……マジで?」
「……」
相手が勝ち誇ったとき、既に相手は敗北しているとはジョセフの言葉だったけど。
「ケニーGごときと油断していた俺たちがバカだったってこと……か?」
「あ、安心してください志貴。わたしの頭脳をもってすればこんな迷路などっ」
シオンが似合わないブイサインをしている。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です。……多分」
「……」
「まずこちらに行きましょうか」
シオンに誘導され、俺たちは迷路を移動し始めた。
で、何分か後。
「迷ったな……」
「……そんな……まさか……」
俺たちは自分たちがどこにいるのかもう完全にわからなくなってしまっていた。
「ここじゃあらゆる概念が通用しないのね……」
アルクェイドの言う通り、この幻覚の迷路中では迷路を攻略するための基本的な手法が全て通用しなかったのだ。
「磁力も風も滅茶苦茶。壁を破壊しても駄目、と」
穴の開いた迷路の先には壊した壁とまったく同じ壁があった。
「どうすりゃいいんだよ……絶望的だぜ」
俺がそう呟いた瞬間、空に甲高い鳥の鳴き声が響き渡った。
「……今のは……ペット・ショップの」
「志貴、危ないっ!」
キィン!
「うわっ」
アルクェイドに突き飛ばされ俺は背中をぶつけてしまう。
「何する……ん」
俺のさっきまでいた場所には巨大な氷のつららが突き刺さっていた。
「……バカな」
空を見る。
シュラインの中、夜中だっていうのにバカみたいに真っ青な青空。
「真祖……今、ペット・ショップ……鳥の姿が見えましたか?」
「全然。幻覚に紛れて攻撃してきたんじゃないかしら」
「……」
空にペットショップの姿は全く見えなかった。
「まさか……」
背中に冷たい汗が流れる。
「どこがどこに繋がってるかわからない場所で……全く姿の見えないペット・ショップと戦えって言うのか?」
「……Exactlyと言うしかないですね」
やばい。
この状況はものすごくやばい。
「ケニーGに……こんなに惑わせられるなんて」
今更言っても後の祭り。
俺はラバーズの言葉を思い出した。
最弱こそが。
至上最弱こそが、最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も恐ろしいマギィ〜!!!
TO BE CONTINUED……