この状況はものすごくやばい。
「ケニーGに……こんなに惑わせられるなんて」
今更言っても後の祭り。
俺はラバーズの言葉を思い出した。
最弱こそが。
至上最弱こそが、最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も恐ろしいマギィ〜!!!
「徐々に奇妙な冒険」
その42
「地獄の門番ペット・ショップとケニーG その2」
キィン!
ドウッ! ドウッ! ドウドウッ!
「……うわ、うわ、うわっ!」
「場所が……特定できない……っ」
四方八方から発射されるつららのミサイル。
アルクェイドが切り刻み、シオンがエーテライトで叩き落とし、俺が氷を殺す。
それだけやっているのに攻撃は全く止む気配が無かった。
「どうするんだ……? このままじゃいつかやられちまうぞ?」
まさか速攻で倒されたケニーGのせいで苦戦するなんて誰が予想しただろうか。
こんな状況あり得ない。
ペット・ショップだけでも強敵だっていうのに。
まるでホル・ホースが相棒を見つけた時のような異常な強さだった。
「やられるつもりはありません。とにかく幻覚を作り出しているケニーGを探し出しましょう」
「……どうやって?」
「それを今考えてるんじゃないですかっ! 少し黙っててくださいっ!」
きしゃーと唸るシオン。
「キョーン!」
「む」
それに反応したかのように鳥の鳴き声が近づいてくる。
「キョオオオオオーッ!」
「間違いない……来るっ!」
物凄い速度で壁からペット・ショップが俺に突撃してきた。
「甘いっ!」
それに即座に反応したアルクェイドが俺をかばう様に前に出た。
ビタアッ!
「え」
するとアルクェイドの目の前で見事に停止するペット・ショップ。
「わざわざ姿を現すなんて……愚の極みですね」
シオンがエーテライトをペット・ショップに向けた。
「!」
首を上下左右に動かしシオンを睨み付けるペット・ショップ。
ニヤリ。
ペット・ショップ口ばしの端がキューっとゆがんでいた。
「何が可笑しいというんですっ!」
エーテライトを払うシオン。
ひゅんっ。
だがエーテライトはペット・ショップを捕らえることなく空を切った。
「なっ……」
「シオンっ! そのペット・ショップも残像だっ!」
「キョオオオオッ!」
ドスッ!
俺の背後から飛んできたつららが嫌な音を立ててシオンに突き刺さる。
「っあっ……!」
「シオンっ!」
「……大丈夫です……私は既に半分は吸血鬼……この程度の傷など……」
「キョオオオーッ!」
「……くっ」
再び飛んできたつららを殺す。
「まいったわね……これじゃケニーGを探すどころじゃないわよ」
「くそっ……」
どうすればいい。どうすれば。
ふっと視界が暗転し、風景が変わる。
「……今度は雪原かよ……」
真っ白い雪しか見えないに変化してしまっていた。
「ますますつららが見にくくなったわね……」
ペット・ショップの攻撃は背景に完全に同化してしまっていて、音でだいたいの位置を判断して攻撃するしかなくなってしまった。
ドシュッ!
「っ……!」
左肩をつららがかすめていく。
「志貴、大丈夫? 大した事ない……けど」
このままじゃ本当にやられるのは時間の問題だ。
パキ、パキパキパキ……
「……なんだ?」
何かが軋む音がする。
「空気が妙に冷たくなって……はっ!」
慌てて足元を見た。
「雪が氷に……っ!」
いつの間にか雪は氷に変化していて、巨大な霜柱のようになっていた。
その霜柱が幾層にも絡みあい、俺たちの脚をがんじがらめにしてしているのだ。
「バカ……な」
完全に身動きが取れなくなってしまった。
「グギッグギッギッ……」
ペット・ショップの勝ち誇ったような鳴き声が響く。
「……」
遠野家ご一行はケニーGの幻覚のせいでペット・ショップに殺されてしまうのだろうか。
「……ふふ、ふふふ」
そんな状況でシオンが笑い声をあげた。
「シオン?」
「なんだ……答えは最初から出ていたんですね……つまらない。なんてつまらない。それに気づかなかった私はなんて愚かだったんでしょう」
自虐じみた笑い。
「ど、どうしたんだ?」
「志貴。わかりました。ケニーGを探す必要なんてなかったんです。ペット・ショップを見つける必要も」
そしてきっぱりと言い切った。
「え?」
「ケニーGもペット・ショップも本体は意外と脆いですから。攻撃を当てさえすれば倒せる」
「で、でも」
「攻撃が当たらないというんでしょう? それは間違いです。ケニーGもペット・ショップも近くにいるけど姿が見えないだけなんです」
「……ああ、そっか。そういうことなのね」
アルクェイドが納得したような顔をしていた。
「どういうことなんだ?」
「つまりね……ちょっと志貴、巻き添え食らっちゃ大変だからわたしの傍にいて」
「お、おう」
アルクェイドのすぐ横に立つ。
次の瞬間、物凄い暴風雨が起きはじめた。
「な……な?」
しかも俺たちだけは台風の目の中にいるようにまったく影響を受けなかった。
「つまり、姿が見えないんだったら周囲一面を攻撃してしまえばいいというだけのことなんですよ。ケニーGは近距離型のスタンドですから必ず攻撃は当たる」
「その攻撃はわたしの空想具現化でね。ちょっと激しい台風呼んでみたわ。鳥もタダじゃすまないような」
激しい雨音と風音が響く。
それと共に俺たちを取り巻く風景が変わり始めていた。
「どうやら……ケニーGを倒したみたいですね」
「ああ」
「そう。じゃあ止めるわ」
アルクェイドが指を弾くと一瞬で雨も風も止んでしまった。
ドサッ。
そして俺たちの目の前にぎゅうぎゅうに絞られたぞうきんみたいになったペット・ショップが落下して来た。
「もっと早く気づけば志貴もシオンもダメージなんか受けなかったのに」
アルクェイドは今の戦いで全くダメージを受けていないようだった。
「……つくづくとんでもないやつなんだな、おまえ」
あらためてアルクェイドの非常識な強さを実感した限りである。
「頼もしい限りですよ」
シオンが笑う。
「だな」
だからこそ、この力をタタリが写し取ったら恐ろしい事になる。
アルクェイドに比べたらDIOのほうがよっぽどマシかもしれない。
「さあ急ぎましょう。秋葉たちの力を借りる必要もありません」
「おう」
俺たちは元の風景に戻ったシュライン内を駆け出すのであった。
TO BE CONTINUED……