秋葉さんがわたしに尋ねてきます。
「さすがに火をつけるわけにはいきません。わたしたちもシュラインの中に突入しましょう」
「そうですか」
秋葉さんが自動ドアに一歩近づきました。
「徐々に奇妙な冒険」
その43
「亜空の瘴気と館の執事」
「秋葉さん。突入する前に言っておきます。この先出てくるスタンド使いは強敵ばかり。負傷どころではすまないかもしれません」
「……」
「琥珀さん。あなたもです。わたしは戦闘慣れしてますが……あなたたちは日常の生活があります。無理して戦う必要はありません」
わたしがそう言うと、二人は即座に答えました。
「シエルさん。一人だけかっこつけはよくないですよ。ここまで来た以上、お手伝いいたします」
「そうですよ。私がいなければ倒せなかったスタンド使いも多かったでしょう?」
「……」
「生きて出られたら豪勢な晩御飯を奢りますよ」
「シオンさんにもね」
「……すいません、わたしがバカだったみたいです」
三人で手を取り合いました。
「そしてもうひとつ……おそらくこのメンバーの構成上、次に出てくるのはヴァニラ・アイスなんですが……」
「……わかっています。私が無事でいられるかどうかでしょう?」
カードの暗示で魔術師の出た秋葉さん。
原作ではヴァニラ・アイスにアブドゥルがバラ撒かれてしまいましたからね。
「ええ。ですからそれをされないように予め対策をしておこうと思います……」
「……幻覚はないみたいですね」
シュライン内はごく普通のビルの内装でした。
「周囲に気をつけないと……」
わたしたちには原作と違って炎の探知機もイギーの鼻もありません。
各個人の反応力だけが頼りとなります。
「……ところどころ傷がついていますね」
強風か何かでつけられたような傷。
「志貴さんたちはどこにいるんでしょう……」
琥珀さんが上を見回しています。
「……」
そして秋葉さんが壁に手をつけました。
「……」
その壁のラクガキを見逃すわたしではありません。
『このラクガキを見て後ろをふり向いた時おまえらは』
秋葉さんの指が動きました。
『死ぬ』
「琥珀さんっ!」
「わっ?」
わたしは琥珀さんを抱えて跳躍しました。
ガオーンッ!
「……っ」
「あ、秋葉さま? どこに行きました? 今のは一体?」
秋葉さんの立っていたところには切り口から煙のようなものが出ている腕だけがありました。
「な……なんですかこ……この腕はっ? 秋葉さまっ? どこへ行かれたんですっ?」
背中に冷や汗が流れてきました。
「秋葉さんっ!」
ズオオオオオ……
何もなかった空間に。
そいつが姿を現し始めました。
「やはり……出てきましたね……」
「秋葉さまっ? どこへ行かれたんですかっ!」
琥珀さんが慌てた様子で周囲をきょろきょろと見回しています。
「遠野秋葉は……」
そいつの手が落ちていた手を掴みました。
「こなみじんになって死んだ」
「……っ!」
「わたしの口の中はどこに通じているのか自分でも知らぬが暗黒の空間になっている……吹っ飛ばしてやったのだ」
ゆらゆらと不気味に浮かぶそれは間違いなくヴァニラ・アイスのスタンド、クリーム。
「次はおまえらだ……タタリ様を倒そうなどと思い上がった考えは……正さねばならんからな……」
ガジュ! ガジュ ! ガゴッ!
秋葉さんの手を食っていくクリーム。
そしてクリームの口から男が顔を現しました。
「ひとりひとり順番に順番にこのヴァニラ・アイスの暗黒空間にバラまいてやる」
「……」
タタリの作った偽者のクリーム。
しかしその威圧感は本物さながらです。
「嘘です……秋葉さまを殺したなんて……」
琥珀さんはがたがたと震えていました。
「ウソをつくなああああ――――ッ!」
琥珀さんは我を忘れたようにヴァニラ・アイスへ向かっていきました。
「愚かな……」
ヴァニラ・アイスが暗黒空間に姿を消そうとしたその瞬間。
「……捕まえたわ」
秋葉さんがクリームの腕を捕らえていました。
「なっ……き、貴様ッ?」
「何故生きている? と聞きたいんでしょう? 答えはね。檻髪で私の偽者を作って動かしていたの。貴方がバラ撒いたのは私の偽者だったってことよ」
そう、これが私の考えた作戦でした。
ヴァニラ・アイスは真っ先に秋葉さんを狙う。
ならばそれを利用して隙を突くことが出来るはず。
「くたばりなさいッ! ヴァニラ・アイスッ!」
秋葉さんの髪の毛が真っ赤に染まります。
「……フン。まさか本当にヤツの言葉通りになるとはな」
「え?」
秋葉さんの檻髪を食らいながらもヴァニラ・アイスは不適な笑みを浮かべていました。
「貴様らが策を練っていたのはわかった……だからこちらも敢えて策にはまってやった。それだけの事」
バキイッ!
「きゃあっ!」
「秋葉さまっ!」
クリームの口から出てきたもう一本の腕に秋葉さんは吹っ飛ばされてていきます。
「な……ッ?」
クリームの腕を掴んでいるということはヴァニラ・アイスの腕をも掴んでいるということ。
秋葉さんの檻髪の略奪を受けていて動けるはずがないのに。
「貴様らの策は無駄に終わったというわけだ」
「そんな……」
一体何故?
「フフフ……ショックだろう? せっかくの策を読まれてしまって……」
「!」
クリームの口から聞こえたのはヴァニラ・アイスとは異なった声。
「そして代行者……君はどうしてヴァニラ・アイスに策を読まれたのかわからなかった。ま、敗北を認めてはいないのですが……かなりのショックだった」
「……まさか」
その口調には覚えがありました。
その男はDIOの館の執事。
「今更理解したとてもう遅いですよ。わたしのスタンド『アトゥム』はあなたの魂に触ることが出来た」
「……」
わたしの腕を見るとスタンドの手がわたしの腕に食い込んでいました。
「テレンス・T・ダービー……」
「Exaxtly」
ヴァニラ・アイスの口から一人の男が出てきました。
「既にご存知だとは思いますが……わたしの能力は相手の心を読み、魂を奪う能力」
テレンスは余裕ある笑いを浮かべていました。
「さて、原作の中でも最高峰の攻撃力を持つヴァニラ・アイス……その男に腕の使えない状態で勝てるのですかね。代行者」
「……黙りなさいっ!」
迂闊でした。
ヴァニラが出てきた以上、テレンスが現れてもおかしくはなかったのに。
「おっと怖い怖い。さて。ルールを説明しましょうか。勝負は心を読めるわたしとヴァニラのコンビ対あなたたち」
「……」
「ちなみに敗北を認めた時点でわたしのスタンドはあなたたちの魂を奪わせて頂きます」
「黙れと言っているでしょうっ!」
わたしはテレンスに向けて黒鍵を投げました。
「ヴァニラ」
「わかっている」
クリームが動き、黒鍵を一口で飲み込んでしまいます。
「さて、勝負を始めるからには例の言葉を聞きたいのですが……どういたします? 尻尾巻いて逃げ出しても構わないのですよ? フフフ」
「ふざけないでっ! 貴方たちごときに負けるものですかっ!」
秋葉さんが叫びました。
「気丈なお嬢さんだ……だが、その威勢がいつまで続くことか」
「御託は不要です。賭けましょう、私の魂を。さあ、かかってらっしゃい!」
「グッド。仕掛けるぞ、ヴァニラ」
「わたしに命令していいのはタタリ様だけだ……」
「ふふふ、そうだったな」
「……」
この二人の連携にわたしたちは勝てることが出来るんでしょうか。
ものすごい精神的重圧がわたしに圧し掛かってくるのでした。
TO BE CONTINUED……