「ヴァニラ・アイス……ケニーG……ダービー弟……けっ! やっぱりおまえらはアホどもだったぜッ!」
 
 




「徐々に奇妙な冒険」
その46
「DIOの世界」





「くくくくくく……くくくくくけっ。腹の底から『ザマミロ&スカッとサワヤカ』の笑いが出てしょうがねーぜッ!」
「おーい、やっほー」
「このオレをヌケサクだなんて呼びやがって……逆にやられちまったのはヴァニラ・アイス! てめーたちだぜッ!」
「志貴。こいつ人の話まるで聞いてないわよ?」
「……まあヌケサクだからな」
「真祖の姫君をやるのはこのオレ様だ……!」
「だ、そうですよ。やってしまいなさい、真祖」
「言われなくてもやるわよ。……えいっ!」

メシャアッ!

「ぎゃあああああッ!」

アルクェイドのパンチでヌケサクは吹っ飛んでいった。

「こんな奴まで具現化させているなんて……タタリの意図が読めません」

シオンはため息をついていた。

「まあ、演出ってやつだろ」

まさかいくらなんでもヌケサクにアルクェイドが倒せるとは思ってないだろうし。

「ば、ば、ばかなッ! なんで後ろからっ?」
「非常階段を昇って来たのよ。エレベーター内で襲われたら厄介だし」
「待ち伏せを避けるためでもありました。作戦は成功ですね」

そのおかげでやたらと時間を食ったが、ヌケサクの見苦しい劇は見なくて済んだわけだ。

「さあ、ヌケサク。DIOのいるところまで案内なさい。どうせここまで来たらDIOになってるんでしょ?」
「真祖。再起不能にしないでくださいよ」
「こ……この、てめーヌケサクと呼んだな……なめるなよ〜〜〜」

きっとヌケサクはなんで知ってんだ? と思っていることだろう。

「ブッ殺す! このオレ様はすでにDIO様の血が体内に入って不死身になっているのだァーッ!」

ヌケサクがアルクェイドに飛びかかった。

「ふーん。不死身ねえ。わたしも一応そうなんだけど。それじゃちょっとその不死身度を参考のために試してみようかしら?」

軽くヌケサクを受け止め宙に浮かせるアルクェイド。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」

アルクェイドのラッシュでヌケサクは遥かかなたに吹っ飛んでいった。

「無駄無駄って……それじゃDIOのほうだろ、おまえ」
「えー? だってほら、わたし真祖なわけだし」
「まあそりゃそうだけどさ……っていうかおまえジョジョ読んでたっけ?」
「ううん。さっきシオンにこれ借りたの」

そう言ってアルクェイドはエーテライトのわっかを取り出した。

「これ使うとシオンと意識が繋がるんだって。そっから情報を引っ張り出してきたのよ」
「……パソコンのファイルダウンロードみたいだな」
「志貴にもエーテライトは繋いで在りますから同じ事が出来ますよ。喋らなくても意思を送ろうとすれば出来ます」
「ほうほう」

試しに何か考えてみるか。

シオンのパンツは赤のストライプ。

「青ですっ!」
「そうそう、青だった」
「何を下らない事考えてるのよ、志貴」
「はっ!」

しまった、アルクェイドにまで意思を読まれてしまった。

「完全に心を読まれるのは困るなあ」
「カットという言葉でエーテライトを無効化出来ます。セットで再接続が可能です。無論、わたしが許可した相手のみですけれど」
「そうなのか……これから先、いつはぐれるかどうかわからない。いつでも繋げられるようにしておいたほうがよさそうだな」
「そうね。妹たちにもエーテライトを渡しておけばよかったかしら」
「秋葉たちもDIOを探しているだろうからそのうち会えるさ」
「ですね。とりあえず吹っ飛んでいったヌケサクを追いますか」
 
 
 
 
 
 

「秋葉さん、琥珀さん。少しここで待っていていただけませんか」

わたしは屋上へと続く階段の手前で秋葉さんたちにそう言いました。

「何故です?」
「……感じませんか? プレッシャーを」

頭を押しつぶすかのようなとんでもない威圧感。

ロアを追っていた時にも感じた、二十七祖クラスの吸血鬼のみが発することが可能なオーラ。

「タタリが……すぐ近くにいるということですか?」
「はい。おそらくはDIOを具現化して」
「それなら、私たちも一緒に行きますよ」
「駄目です。確認しなくてはいけないことがありますからね」
「確認?」
「ええ。タタリがDIOを具現化して……本当に時を止められるのかどうか、です」

時を止めるというのはそれこそまさに世界を支配する能力。

アルクェイドならばともかく、果たしてタタリがそこまで再現できるのかどうか。

「……」
「そのためには、実際に時を止めてもらわなくてはいけないんですよ」

つまり実際に静止した時を体験してみる人間が。

「そんなっ! ではシエルさんが犠牲になるというのですかっ?」
「やすやす死ぬ気はないですよ。色々考えてあります。まだここは銀の戦車……ポルナレフの死ぬシーンではないですから」
「だからと言ってタタリが原作どおりにするとは限らないでしょう?」
「それもわかっています。だからこそわたしなんです。わたしはこう見えても鍛えてありますから、そう簡単には死にません」
「ですけど……」
「話はここまでです。……来ました。退いてください」

秋葉さんと琥珀さんはためらいつつもわたしから離れていってくれました。

ますます近づいてくるプレッシャー。

わたしはゆっくりと階段を昇り始めました。

二段、三段。

「フン……埋葬機関の代行者か……」

階上から聞こえる声。

「タタリ……いえ、DIO、お出ましですか」

見上げれば原作と寸分違わぬDIOの姿。

「ついに会えましたね……」

すなわちこれが真のタタリ。

パチパチパチと手を叩くDIO。

「おめでとう代行者。このDIOが放ったスタンド使いは全て倒したし、誰一人死ぬことなく無事ここまで辿り着けたというわけだ……」
「祝いに何かくれると言うならあなたの命を頂きますよ」

わたしがそう言うとDIOはニヤリと笑いました。

「アレッシーの時に見させて貰ったぞ……まさか、貴様がロアの転生体だったとはな」
「……昔の話です。ロアは既に滅されています」
「しかし貴様の体内にはロアだったころの知識が残っている」
「否定はしません」
「フフフフフ。ひとつチャンスをやろう」

――来た。

原作と同じシーン。

「その階段を二段降りろ。わたしの仲間にしてやろう。逆に死にたければ……足をあげて階段を登れ」
「わたしはロアに乗っ取られたとき……心の奥底まで絶望で埋め尽くされました。しかし、わたしは耐えた。耐えて、耐えて……そのロアを倒すことが出来た」
「……フン」
「もうあなたみたいな輩に利用される人生なんてまっぴらですよ。わたしが貴方の要求を受けるわけがありません」
「本当にそうかな? ならば……階段を昇るがいい」

DIOと視線が絡み合う。

わたしは一歩目の前の階段を昇った。

「そうかそうか代行者。フフフ。階段を降りたな。このDIOの仲間になりたいというわけだな」
「っ!」

背筋に悪寒が走る。

「そんなバカな……」

わたしは確かに階段を昇ったのに。

「どうした? 動揺しているぞ代行者。『動揺している』それは『恐怖』しているということではないのかね」
「……」

まさか、タタリは完璧にDIOの能力まで具現化してしているというんでしょうか。

「それとも『登らなくてはならない』と心では思ってはいるが、あまりに恐ろしいので無意識に体は降りていたといったところかな……」
「バカなっ! そんな、時を止められるなんて……っ!」
「フフフフフフフ……代行者。人間は何のために生きるのか考えた事があるかね?」

それどころか、DIOの姿はどんどん遠ざかっていく。

「『人間は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる』このタタリの夜は……人のあらゆる願望を具現化出来る。幸せな夜だとは思わないかね?」
「なっ……」
「そんな夜が永久に続けば……これは人にとって永遠の幸福となる」
「ば、バカなことを言わないで下さいっ! あなたに血を吸われる人間の気持ちを考えたことがあるんですかっ!」
「……フフ。かつてのわたしが言ったな。『おまえは今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?』とな」
「タタリ……ッ!」

バゴオッ!

「ぬ……」

突如わたしの立っているすぐ傍の壁が砕けました。

「こちらです兄さんっ! シエル先輩がDIOと戦っているはずっ!」
「あ、秋葉さん?」
「あはっ。逃げた方向に上手い具合に志貴さんたちがいたんですよー。これも何かの巡りあわせってやつですね」
「先輩っ。大丈夫っ?」
「遠野君……はい、わたしは大丈夫です」

遠野君の顔を見たらわたしは急に力が抜けてしまいました。

「DIOはどこにっ?」
「……階段の上に……。ですが、隠れてしまったようです」
「原作どおりですね」
「はい……」

そう、ほとんど全て原作そのまま。

「シエル。タタリと戦ったの? どうだった?」
「いえ、戦ってはいないんですが……ありのままを話しておきます。わたしは奴の前で階段を登っていたと思ったらいつの間にか降りていた」
「そ、それって……」
「世界(ザ・ワールド)の能力……ですか?」
「……認めたくはないのですが」

あれはどう考えてもそうとしか思えませんでした。

「さらに……だんだんとDIOの姿が遠くなって……」
「DIOの姿が遠く?」
「はい。そこの階段を登っていったんですが」
「これって……」
「あっ!」

わたしはさっきまで登っていたそれを見て驚きました。

「エ、エスカレーター……」

そう、よくよく見てみれば、それは単なるエスカレーター。

「しかも下りですね。足を止めたらそりゃ下に行くに決まっています」
「そ、そそんなっ?」
「世界の正体見たり、エスカレーター……ですか。マヌケすぎますね」
「……」

タタリともあろうものが、そんな下らない手段を使うんでしょうか。

「とにかく……DIOを追うしかないよ。ヌケサクはいるから案内させよう」
「は、はい」

世界の能力は本当に再現されているのか。
 

それとも。
 

TO BE CONTINUED……



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