『これが「世界」だ。もっとも「時間の止まっている」おまえには見えもせず感じもしないだろうがな……』
 

「まずいな……誰かが狙われてる」
「そんなっ! なんとか出来ないのですかっ?」
「なんとかするつもりだよ……だから俺はここで待ってたんだ」

俺はメガネを外し、七夜の短刀を取り出した。

「ど、どうするつもりなんです?」
「……俺が『世界』の境界線を殺す」
 
 




「徐々に奇妙な冒険」
その49
「DIOの世界 その4」





「そんなこと……出来るんですか?」
「やるしかないだろ」

DIOが時を止めていられるのは五秒ほど。

あと僅かの時間に死の線を見つけなくては。

「秋葉の檻髪だって殺せた力だ……きっと」

天井をじっと見据える。

「……見えたっ!」

なにひとつ存在しない空間に見えた線。

つまりそれは「世界」の境目を示す線だ。

「これを切断してっ……」

俺は地面を蹴り、飛んだ。

『死ねい代行者っ!』

時間がないっ!

世界の境界線に向けて短刀を薙ぎ払う。

『……と行きたいところだがな。代行者。貴様の印に気づかないわたしではない』

「!?」

ぶんっ。

DIOの言葉に意識を奪われ俺の短刀は空を切った。

「くそっ……」

俺の体は重力に従い下へと落下していく。

天井を見てももう世界の境界線は見えなかった。

「ザ・ワールドが解除された……のか?」

DIOの言葉だけでは状況がよくわからない。

『貴様の体自身に印を施していたな……触れればこのDIOとて跡形も無かったかもしれないぞ……惜しかったな』
『印を見破り迂闊に触らなかったのは褒めてあげますよ』

「兄さん、どうなっているんですかっ?」
「まだ誰もやられてない……時も動き出したみたいだ……」

先輩は何か自分の体に対吸血鬼用の印を刻んでいたらしい。

『それに……真祖が時の止まった世界に侵入出来るかどうかも気になるところだ』
『さあ。動くことが出来ないんじゃないかしら? 現にわたしは今シエルを助けようとしなかったじゃない』
『フン……まあどうでもいいがな。既に我が目的は達成された』
『……え?』
『気づかなかったか……ふふ。ならば我が世界は貴様にも通用するという事だな……』
『何を……何……し……よっ!』

「うわっ」

急にエーテライトにノイズが入りだした。

ラジオの雑音を強制的に聞かされているような感覚。

『気づか……かったか? 我が……ワールドが……傍を離れて……ンを……狙っていたことに』

バグオッ!

上から轟音が響く。

『こ……これはッ! ば……ッ! い……り……吹っ飛……されて……』

「……なんだ……何が起きているんだっ?」

不快感と共に不安が押し寄せてきた。

状況がわからないことの不安。

誰か犠牲者が出たのではという不安。

『……シオンッ!』

「シオンっ?」

それの声を最後にエーテライトからの声が全く聞こえなくなった。

「な……なにが起きたんですっ?」
「……シオンが……やられた……」

つまりそれはエーテライトを支配しているシオンの意識が途絶えたということなのだ。

「シオンさんがっ?」
「……行こうっ!」

俺はそう言って駆け出した。

「待ってくださいっ! 志貴さんっ」

だがそんな俺を琥珀さんが止める。

「琥珀さんっ?」
「志貴さんは『世界』を破れる可能性を持った唯一の人間でしょう? それがDIOにやられてしまったら……もう誰もタタリを止められなくなってしまうじゃないですかっ!」
「……だからって……俺はみんなを見殺しになんて出来ないよっ」
「志貴さんっ!」
「琥珀……無駄よ。兄さんはこうなったらてこでも動かないわ。ああ見えて強情なんですもの」
「……秋葉」

秋葉が何かを悟ったような顔をしていた。

「ですが……」
「ここで無駄話をしている暇があったら走るべきです。私たちが行く事で何かが変わるかもしれない」
「はぁ。仕方ありませんねー。わたしの頭脳を生かしてなんとかいたしましょう」
「……琥珀さん。秋葉」
「兄さんがやられるのを黙って見ているわけにはいきませんからね」
「ごめんな、巻き込んじゃって」
「いえいえ。もう諦めてますから」
「いつも巻き込んでるのはわたしたちのほうですしねー」
「……はは」

ほんの僅かだけど気持ちが和んだ。

「よし……」

そして覚悟を決める。

「急ごう」
「はいっ」
 

俺たちは先輩たちのいる十一階まで駆けあがっていった。
 
 
 
 
 

「アルクェイド……」
「バカ。なんで来たのよ志貴」

アルクェイドは肩で大きく息をしていた。

服にもいくつか裂け目が出来ていて、そこから血が流れている。

「フン。逃げたと思ってきた連中が戻ってきたか。まあいい。この滑稽なショーは是非観客にも見てもらいたいところだったからな」
「黙りなさいっ!」

アルクェイドが腕を振るう。

「フン」

DIOは後ろに下がりそれをかわした。

「アルクェイド。シオンはっ?」
「ザ・ワールドに不意をつかれたの……迂闊だったわ」
「無事なのかっ?」
「シエルが治療してる……とはいえ重症よ」
「重症……」

だがそれはまだ生きているということだ。

「……吸血鬼を治癒する方法は……これくらいです」

シエル先輩は体に紋章のようなものを描き、法衣よりも戦闘向けな服へと変わっていた。

そして先輩の腕からぽたぽたと血が零れ落ちている。

血の落ちていく先にはぴくりとも動かないシオンの姿。

「……っ」

何も出来なかった自分に苛立ちを感じてしまう。

「ふふ……あれほど嫌がっていた吸血鬼の肉体のおかげで生きているというのは皮肉な話だな」
「このっ!」
「おっと」

ザ・ワールドがアルクェイドの足を受け止める。

「惜しかったな……ふふふ。もう少しでこのDIOの側頭部を陥没させることが出来たのにな」
「くっ……」
「アルクェイド……?」

おかしい。

何かがおかしい。

「どうしたんですかアルクェイドさんっ。そんなやつ一気に倒してしまいなさいよっ!」

秋葉が叫ぶ。

「ふふ。期待されているぞ真祖? 答えてやったらどうだ?」
「……言われなくてもそのつもりよっ」

再びアルクェイドがDIOに近づいていく。

「オラァッ!」

承太郎ばりの高速ストレート。

バシイッ!

しかし攻撃が届く前にアルクェイドの足をザ・ワールドが蹴飛ばした。

「くっ……」

姿勢を崩すアルクェイド。

「ノロいノロい。どうした? 真祖の姫君のスピードはその程度なのか?」
「……ちょっと油断しただけよ。あなたの『世界』がどのくらいの力か試してみたかっただけ」
「そうか……それはよかった。危うく真祖の力はこの程度なのかと思うところだったよ」
「あなただってわたしに大したダメージを与えてないでしょ?」
「フン。下らない挑発にのってやって……もうちょっとだけ試してやるか」
「……」

まさか、アルクェイドの身体能力をDIOが上回っているっていうのか?

「覚悟なさいよ……八つ裂きにしてあげるんだから」
「よかろう。やってみろ。このDIOに対して!」
 

対峙する二人を見て俺は言いようのない不安に駆られるのであった。
 

TO BE CONTINUED……



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