「はっはっは……真祖たるものが弱きモノを庇い力を出せないとは滑稽だ。それはごく短い時の流れでしか生きない人間の考え方だと思っていたよ」
「みんな……わたしの大切な友達よ。あなたになんて殺させない」
「ならば守ってやればいいじゃあないか……出来ればの話だがな」
「……っ」

ザ・ワールドの姿がDIOの傍から消えた。

時間停止なんてしなくてもザ・ワールドは高速の動きができるスタンドだ。

アルクェイドでもそれを追うのはやっとなんだろう。

「次は貴様だ」
「!」

俺の目の前にいきなりザ・ワールドの姿が現れた。

……殺られるっ?
 
 




「徐々に奇妙な冒険」
その51
「DIOの世界 その6」





「志貴っ……!」

アルクェイドの叫び声。

もう駄目だ。

そう思った瞬間。

「……ム」

ザ・ワールドが動きを止めた。

「これは……シオンのエーテライト……全て切断してやったはずの……」
「……!」

俺とザ・ワールドの間に、針のように細い糸が伸びていた。

「修復したのか……シオン」

DIOがシオンに視線を移す。

体が動ければここで一気にとどめをさしてやりたいところだ。

しかし俺の体はぴくりとも動かない。

「……チッ。時間切れだ」

がくん。

「わっと……」

急に体が動き出して俺は体勢を崩してしまった。

「志貴っ」

そんな俺をアルクェイドが受け止めた。

「シオン……生きているんだろう? 返事をしたらどうだ?」

DIOは俺たちなど眼中にないようにじっとシオンを見据えている。

「……ええ。代行者のおかげで傷は治りました」

シオンがシエル先輩の腕から降りた。

「そうか……まいったな、おまえにはそのまま倒れていて欲しかったのだが。おまえはわたしが直接吸血鬼にした数少ない素材。犠牲にしたくはないのだよ……」
「……っ!」

顔を歪ませるシオン。

「まあいい。修復したら修復したでまた破壊すればいいだけのこと……」
「このっ!」

ガシイッ!

アルクェイドの拳をザ・ワールドが受け止める。

「会話中だ。邪魔をしないでもらおうか」
「この……調子に乗って……」

俺を抱き抱えて離れるアルクェイド。

「……アルクェイド。俺たちがいるせいで本気を出せないってのは本当なのか?」

俺はアルクェイドに囁いた。

「志貴……どうしてそれを?」
「静止している時間の中でも意識はあった。動けなかったけどさ。そんなことより、本当なのか?」
「……正直予想していたよりあいつは強いわ。本気を出しても五分かもしれない。けど、今よりはマシでしょうね……」
「じゃあ、どうするべきだ? 俺たちは逃げるべきか?」
「もう無理ね。誰かが逃げようとしたらあいつは『世界』を発動させるでしょ。この状況で打開策を探すしかないわ」
「……くそっ」

なんてことだ。

勝てるはずだった状況を駄目にしたのは俺たちだったんじゃないか。

「でも……可能性はあるわ」
「え?」
「あいつはシオンに固執してるみたいだから……」
「シオン。今ならそいつらを裏切ってわたしの味方につくことを許してやるぞ? どうだ?」
「戯言を。わたしは貴方を殺すことしか考えていません」
「そうか……残念だ」

DIOがナイフを一本取り出した。

「ならば死んでもらおう。ザ・ワールド!」
「まずいっ……!」

時が止まる。

アルクェイドは既に俺の傍にはいなかった。

シオンを助けに向かったんだろう。

「この場合……もっとも絶望的なのはどんな状況だと思う? それはだな……おまえのせいで犠牲者が増える事なのだよ、シオン」

ひゅん。

「え……ちょっとっ!」

ザ・ワールドはあらぬ方向にナイフを投げた。

いや。

それは、秋葉たちがいた方向だ。

まさか。

まさか―――。

「おまえは傷が自動的に治るだろうがお友だちはどうだろうな? ふふふ……」
「秋葉あああっ!」

俺は思わず叫んでいた。

それはすなわち時間停止が終了したということ。

「え――?」

秋葉の胸に深々とナイフが突き刺さっていた。

赤い血が傷跡から流れ出す。

「あ、秋葉さまっ!」
「まったく残念だ。おまえが仲間になると言えば彼女は傷つかずにすんだのにな……ん?」
「タタリ、貴様あっ!」
「無駄無駄無駄ァッ!」

シオンがエーテライトを放つが全て弾き返されてしまう。

「てめえっ!」
「おっと」
「ぐっ……」

そして俺の七夜の短刀は片手で受け止められてしまった。

「思い上がるなよ人間。おまえが生きていられるのはわざと見逃してやっているからだ。迂闊に動くと死を早めることになるぞ……? その女のようにな」
「秋葉さまっ! 秋葉さまっ!」
「……っ」
「……む。代行者の姿が見えんな。どこに消えた……」
「くたばりなさいっ! DIOOOOOOOッ!」

ガッ!

いつの間にかDIOの背後に回ったシエル先輩が黒鍵でDIOの頭を貫いていた。

「せんぱ……」

だが、先輩は空中に浮いたままの姿勢で静止してしまう。

「フン。『世界』……時は止まった。惜しかったなあ……ほんの一瞬。あとほんのちょっぴり力をこめるだけでこの脳組織をかきまわして破壊出来たのにな……」
「シエルっ!」

アルクェイドがDIOに向かう。

「遅いな真祖」

ドゴオッ!

先輩に裏拳をめりこませるDIO。

「時は動き出す……」
「がっ……あっ……!」

シエル先輩は血を吐きながら吹っ飛んで行った。

「代行者も仲間の傷を治せる存在で厄介だったからな……ここで倒せたのはラッキーだよ」
「こ……こんな……バカな……」
「さて、残るはシオンと真祖……そして役立たず二人か」
「……」
「この調子じゃ役立たず二人が死ぬのも時間の問題だな。さあどうする?」
「くそっ……」

役立たず扱いされたまま終わってたまるか。

俺にだって全てを殺せる線の見える直視の魔眼があるんだ。

それさえ当てる事が出来れば。

「……役立たず、ですか。そうですよね。わたしがこの場にいても何の役にも立てそうにありません」

自虐的な笑みを浮かべている琥珀さん。

「ふふふ。君はよくわかっているようだな。どうだ? 諦めてこのDIOの配下になるというのは」
「そうですねー。それもいいかもしれません」
「こ、琥珀さんっ?」
「フハハハハ! 懸命な選択だ。よかろう。このDIOの配下にしてやろうじゃないか」
「さ、させるかっ!」
「いいかげんんしろ貴様」

バキッ!

「ぐおっ……」

視界が歪んだ。

アルクェイドのやつ、こんなやつと戦っていたのか。

「では遠慮なく血を頂くとしようか……」

DIOは琥珀さんに近づいていく。

「ええ。出来ればの話ですけれど……も」
「?」

なんだ?

琥珀さんの服に赤い染みが出来ているように見えた。

一度も攻撃を受けていないはずなのに。

どうして血の跡があるんだ?

「……ふふ。今更命ごいか?」
「いえ……近づいてきて下さったので、直に略奪しやすくなった……というだけです」

がし。

「ヌッ?」

なんと致命傷を受けたはずの秋葉がDIOの足を掴んでいた。

「琥珀……あなたの力……確かに受け取ったわ」
「き、貴様、何故生きているっ!」
「あはっ……実は……感応者の最後の手段としてですねー……契約者のダメージを……肩代わりするって技があるんです……よ」

壁に寄りかかる琥珀さん。

「まさか……」
「すっごく痛いからやりたくなかったんですけどね……あのままじゃ秋葉さま死んじゃいますし……まあ、わたしは役立たずですから再起不能になってもいいかなてー……なんて」

琥珀さんの口元から血が流れる。

秋葉は間違いなく致命傷を受けていた。

それを琥珀さんが代わりに受けたってことは。

「琥珀さんっ!」

琥珀さんは、もう……

「して……やったりですよ。あはっ」
「は、離せっ! 貴様っ! この……っ!」

秋葉を何度も踏み潰すDIO。

「離しは……しませんっ! 琥珀が命がけで作ってくれたチャンスです! 離してなるものですか……! あなたの全てを……奪いつくして差し上げますっ!」

だが秋葉は決してその手を離さない。

「……この好機……逃すわけにはいかないわよっ!」
「わかっています。今こそ……タタリを滅します!」
「DIOっ!」

アルクェイド、シオン、そして俺が一気にDIOを狙う。

「な……なんだと! まさか……!」

バグオグシャアアッ!

そして全員の攻撃がDIOを捕らえた。

秋葉は足を、俺は胴を、シオンは腕を。

そしてアルクェイドがDIOの脳天を打ち抜いていた。
 

「苦労したわ……あなたが時を止めようがこのまま頭を打ち抜かせてもらうわよ……DIO!」
 

――琥珀、再起不能
 

TO BE CONTINUED……



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