「バカな……」
「何故この女の事を気に掛けていたと思う? それはこのDIOが自ら吸血鬼にした女だからと言っただろう? つまり……」

ドスッ。

DIOはシオンの首筋に腕を突き刺した。

「シオン!」

なのにシオンは表情ひとつ変えない。

ただ虚ろな表情をしているだけである。
 

「そうだ……シオンこそが我が逃走経路……このDIOが血を吸うために生かしておいたのだ!」
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その53
「DIOの世界 その8」













「てめ……えDIO!」
「うむむむ〜んんんん。予想通りシオンの血はなじむ。この肉体に実にじっくりなじんでパワーが今まで以上に回復できたぞ」

アルクェイドによってボロボロにされたはずのDIOの体は完全に修復してしまっていた。

いや、おそらく何倍にもパワーアップしているはず。

「なじむ! 実になじむぞ! フハハハハハハハハハハハハ」

ひたすらに頭を掻き毟り続けるDIO。

「……シオンは貴様がこのDIOを倒したと思い安堵した。その瞬間心を乗っ取ったというわけだ……フフフフフ」
「……っ」

アルクェイドがくやしそうな顔をしていた。

「真祖の姫君というのは我が運命という路上に転がる犬のクソのようにジャマなもんだったが……シオンの血を吸う好機を与えたのは貴様だ……クックク!」

そんなアルクェイドを挑発するように笑うDIO。

「そしてシオンも……最後の最後はこのDIOに利用されるのが運命だったようだ……フハハハハハハハハハ!」
「て……めえ」

DIOに対する怒りがこみ上げてくる。

(志貴……聞こえ……ますか……志貴)

「っ?」

突然俺の頭の中に声が響いてきた。

これは……エーテライト?

(そうです……わたしの体はDIOに乗っ取られて……動くことは出来ません……ですが……分割思考を使って……なんとか呪縛を逃れて……)

大丈夫なのか?

俺とエーテライトで会話を出来るということはまだシオンは生きているということにはなるが。

(……これからDIOがわたしの体に何をしようと決して……逆上して冷静さを失ってはいけません……志貴。わたしのことは気にしないで下さい。なるべくしてなったことなんです)

「シオン……」

倒れているシオンの体はぴくりとも動かない。

それでも俺にメッセージを残そうと力を振り絞っているんだろう。

(あなたは『世界』の境界線をほんの僅かですが見えるようになっています。その僅かの時間を大切に使ってください)

でも……俺は今までなんの役にも立てていないのだ。

(やる前からそれでどうするんですか! あなたはそれでも真祖の姫君を分割した人間ですかっ!)

「……っ」

頭の中でキンキン声が響く。

(これから例え真祖がどんな目に遭ったとしても決して怒ってはいけません。見えるべき線すら見えなくなってしまいますから)

わかっている。それはわかっているつもりだ。

決して我を失ってはいけない。

(志貴……ほんの僅かな時間ですけれど……あなたと共にいることが出来て……本当に楽しかった……ふふふ)

「シオンっ? シオン!」
「志貴?」

思わず声を上げて叫んでしまった。

(……)

シオンの声はまったく聞こえなくなった。

「おい。そんなにこの女が気になるのか?」
「!」

視線を向けるとDIOがシオンの傍に座りにやにや笑っていた。

「フン!」

ドスッ!

DIOはシオンの心臓向けて手を突き刺した。

ズギュウウウウン!

シオンの体がみるみるうちに干からびていく。

「や……やろう……」
「しぼりカスだッ! フフフフ……」

シオンは決して逆上するなと言った。

けれど。

この状況で怒りがこみ上げてこないほうがどうかしてる。

「こんなことを見せられて頭に来ないやつは……いないわね」

アルクェイドが地面を強く踏みつけた。

衝撃で大気が揺れる。

「クックックッ。最終ラウンドだ! いくぞッ!」

DIOがアルクェイドに向けて突進し、アルクェイドが跳躍してそれをかわす。

「『世界』時よ止まれッ!」
「っ!」

俺は反射的に七夜の短刀を振るった。

だがそんな動作では世界の線を切れるはずがない。

俺の体は時を止められてしまった。

「WRYYYYYYYYYYY―――ッ!」

甲高い声を上げて叫ぶDIO。

そして俺の目の前に信じられない光景が写っていた。

「ついに……ついに真祖の時をも止めることが出来たぞッ!」

そう、DIOの言葉通りアルクェイドの体は完全に空中に静止していた。

「1秒経過ッ! 2秒経過ッ!」

静止したアルクェイドへ近づいて行くDIO。

「3秒経過! ……4秒……」

そして攻撃を仕掛けようとした瞬間アルクェイドの腕が動いた。

「オラァッ!」
「ウイリャアッ!」

そしてほぼ同時に始まる両拳によるラッシュ。

グワッシーッ!

ザ・ワールドの右手とアルクェイドの右手がぶつかり合った。

どっちだ? どっちが勝ったっ?

ギャバッ!

砕け散ったのはザ・ワールドの右手。

アルクェイドのパワーがザ・ワールドを上回ったのだ。

「ウグゥッ!」

DIOは後ろに吹っ飛んで行く。

「まだまだっ!」

そこにさらにアルクェイドが追い討ちをかける。

DIOの腕、脚、胸にそれぞれ風穴が空いた。

やったか?

そう思った瞬間。

「5秒……経過」
「!!」

アルクェイドの動きは再び止まってしまった。

「6秒経過……」

そしてDIOの傷はみるみるうちに修復していく。

「7秒経過! まだまだパワーを感じる……まだまだ時を止めていられるぞ……ところで真祖。おまえはもう動けないのかな。フフフフフククククク」

なんて……こった。

まさかあのアルクェイドの時間がDIOによって止められてしまうだなんて。

まずい。このままじゃ俺たちに勝ち目はない。

なんとかしないと。

「8秒経過! ンッン〜〜♪ 実に! 実にスガスガしい気分だッ! 歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ。フフフフハハハハハ」

DIOはアルクェイドの時を止められたことで調子に乗っている。

そこをつくことさえ出来れば。

「遥か昔に不老不死を手に入れたが……これほどまでにッ! 絶好調のハレバレとした気分はなかったなァ……フッフフフフ」

DIOは自分のこめかみに指を突き刺した。

「シオンの血のおかげだ! 本当に良くなじむっ! 最高に『ハイ』ってやつだアアアアハハハハハハーッ!」
「……?」

俺はふと奇妙な違和感を感じた。

何だろう。

「9秒経過ッ! 9秒も止められたぞっ!」
「……あ!」

声が出せた。

それで俺は気づいた。

俺の時間が止まっていない事に。

いや、確かにさっきまではまったく動けなかったのだが、今は体が自由に動く。

「しかし時を止めていられるのは今は9秒が限界といったところか……」

DIOは俺が動けている事にまるで気づいていない。

「……」

推論としては。

やはりアルクィド、真祖の時間を止めるのには途方もない力が必要なんだろう。

だから『世界』の射程がだんだん短くなってしまい、俺のいる場所は影響範囲から抜け出てしまったんじゃないだろうか。

「URYAAAAAA!」

ドギャ! バギッ! ドバアッ!

アルクェイドの骨が砕け散る音が響いた。

「うぐっ……」

今度はアルクェイドが遥かかなたに吹っ飛ばされていく。

「……」

アルクェイドが世界で動けなくなり油断した瞬間を狙えば勝機はある。

「……やってやるよ」
 

俺は全力でアルクェイドとDIOを追いかけていった。

 
TO BE CONTINUED……



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