「URYAAAAAA!」

ドギャ! バギッ! ドバアッ!

アルクェイドの骨が砕け散る音が響いた。

「うぐっ……」

今度はアルクェイドが遥かかなたに吹っ飛ばされていく。

「……」

アルクェイドが世界で動けなくなり油断した瞬間を狙えば勝機はある。

「……やってやるよ」
 

俺は全力でアルクェイドとDIOを追いかけていった。
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その54
「DIOの世界 その9」












「スタンドのパワーを全開だッ! 真祖! さっき頭にきてるとかぬかしていたなッ! おまえの怒りなどそんなもの!」

吹っ飛んでいくアルクェイドにDIOが追いついた。

「フン!」
「……っ」

ザ・ワールドの蹴りを防ごうとするアルクェイド。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ―――っ!」

ドギャアアアアッ!

だがその脚はガードを跳ね除けアルクェイドの顎を蹴りあげていた。

アルクェイドは建物を破壊しながらさらに吹っ飛んでいく。

「あ、アルクェイド……」

いくらアルクェイドでもやばいんじゃないだろうか。

ズアアアッ……

アルクェイドは港の中央に倒れぴくりとも動かなかった。

「間髪入れず最後の攻撃だッ! 正真正銘最後の時間停止だ! これより静止時間9秒以内にッ! カタをつけるッ!」
「……っ」

そう、これが最後のチャンス。

俺が『世界』を殺すことが出来なきゃアルクェイドはもう……

「『世界』!」

DIOを見た。

ザ・ワールドを中心として円形状に「何か」が広がっていく。

確かめるまでもない。それが『世界』だ。

今、俺の目には『世界』の領域が広がるさまが見えていた。

反射的に短刀を構える。

ザ・ワールドの線を……

切る!
 

ひゅんっ。

七夜の短刀が空気を凪いだ。

「……」

上の歯と下の歯を噛みあわせる。

動ける。

俺の体はしっかりと動いていた。

『世界』は今死んだのだ。

だが今、DIOの姿はいずこかへ消えてしまっている。

「ロードローラー……」

DIOはアルクェイドを確実に殺すためにそれを探しているはずだ。

静止時間7秒まで。

もしくは他の策を考えているのかもしれない。

「……いや」

俺は考えるのをやめた。

DIOが何を策していようと……DIOがアルクェイドをどんな方法で攻撃してこようとも。

七夜の短刀で今度はDIO自身を殺すだけだ。

俺が思う確かな事は。

DIO、おまえの顔を次ぎ見た瞬間、俺は多分プッツンするだろうということだけだ。

きやがれ……DIO。

「!」

アルクェイドの体を大きな影が隠した。

空に目線を移す。

「……?」

だがそこには大きな雲があるだけだった。

おかしい。

DIOはどこに行ったんだ?

「……」

俺はアルクェイドに近づこうと一歩。

「な……なんだ? 体の動きが……に……にぶいぞ」

俺の体は鉛のように重くなっていた。

「バカな……『世界』は確かに俺が……」
「そう……確かに我が『世界』の静止空間を君は殺してくれた。まったく驚かせてくれるな」
「!」

背後から聞こえる声。

それは間違いなくDIOの声であった。

「だがしかし背後から時を止めればその物騒な短刀でも『世界』を殺せまい? 残念だったな……」

DIOは。

俺の能力なんて最初から知っていたんだ。

「フフフフフ。真祖はもう貴様を庇い続けて重症だ。貴様の役目はもう終わったのだよ。そろそろ死んでもらおうか」

それでも敢えて俺を放置し続けてきたのは……アルクェイドにダメージを少しでも与えるため。

そして今、アルクェイドは立ち上がれないほどに消耗している。

「感謝しなくてはならないな。君のおかげで真祖を追い詰められたようなものだからな」
「……っ!」

俺はバカだった。

DIOの掌の上で踊っていただけだったのだ。

俺は――俺はっ!

「敬意を表して……確実に君を殺せる処刑方法を使わせてもらおう」

シャキンシャキンシャキン。

金属のぶつかり合う音が響く。

「このナイフを全て君へと捧げよう……死んでもらおうかッ!」

おそらくDIOは承太郎にやったように大量のナイフを構えているんだろう。

もう俺になす術はない。

「逃れる事は出来んッ! きさまはチェスや将棋でいう『チェックメイト』にはまったのだッ!」

ヒュンヒュンヒュヒュンヒョオンッ!

風を切り裂く音。

ビタアッ!

「……」

俺の背後に冷たい空気があった。

横目にうっすらと見える鋭利な刃物。

――終わった。

遠野志貴の人生は今終わりを告げるのだ。

「3秒前……2秒前……1秒前……」

死を告げるカウントダウン。

 
「志貴っ――――!」

アルクェイドの声が聞こえた気がした。

「え……」

気付いた時には俺は吹っ飛んでいて。

アルクェイドの体に無数のナイフが突き刺さった後であった。

「あ……アルクェイドっ!」

アルクェイドに駆け寄る。

「あは……志貴……大丈夫?」

力なく笑うアルクェイド。

「ばかっ! おまえなにやってるんだ!」
「なにって……ひどいなぁ。わたし頑張って志貴を助けたのに」
「……っ」

いつも通りのアルクェイドの口調。

それがなおさら辛く感じた。

だって、握っているアルクェイドの手はあんまりにも弱弱しくて。

「よかった……志貴が無事で」
「よくないだろ……おまえ、こんなボロボロじゃないか……」
「大丈夫よ……志貴が……助けてくれるもん」
「アルクェイド……」
「あと……よろしくね」

かくんとアルクェイドの体から力が消えた。

「茶番は終わりか? 人間」
「……」

俺は立ち上がってDIOを見た。

DIOよりも……自分の不甲斐なさに腹を立てながら。

「なんだその目は? まさかおまえがこのDIOに立ち向かおうというのか?」
「違う。俺がおまえを一方的に……殺す」
「はっはっはっは! それは面白い冗談だ。よかろう。やってみろ」

そう言ってDIOは空へと飛んだ。

「『世界』を殺せる? それがどうしたというのだ! このDIOは何度でも時を静止できる! 一度世界を殺したくらいで……!」
「違うな。一度殺せば十分なんだ」
「ほざけ! 『世界』!」

周囲が灰色に包まれる。

「どうした? このDIOを一方的に殺すんじゃなかったのか? ハッハッハッハ! 動いてみろ! どうした!」
「……」
「確実に殺してやるッ! 食らえッ!」

さらに上空へと飛んでいくDIO。

俺の視界からは完全に消えた。

「……」

そして巨大な黒い影が俺とアルクェイドを覆い隠す。

「ロードローラーだッ!」

ドッグオオオオンッ!

爆音が響く。

「もう貴様は脱出不可能よッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!」

ロードローラーをひたすら殴りつけるDIO。

「8秒経過! ウリイイイイヤアアアアーッ! ぶっつぶれよォォォッ!」

ドグッシャアアアアッ!

地面が激しく揺れた。

「9秒経過……! やった……」

ロードローラーの上に立ち上がるDIO。

「おわったのだ! 真祖とあの生意気なガキはついに我が『世界』のもとにやぶれ去った!」

笑い声が響き渡る。

「不死身ッ! 不老不死ッ! フフフフフフフッ。スタンドパワー! フハハハハハハ! これで何者もこのDIOを超える者はいないことが証明されたッ!」

ザ・ワールドと重なり合うDIO。

「とるにたらぬ人間どもよ! 支配してやるぞッ!! 我が『知』と『力』のもとにひれ伏すがいいぞッ!」

さらに笑い声は大きくなっていった。

「……それで言いたい事は終わりか? DIO」

そこまで聞いて俺は口を開いた。

「なに?」

同時にDIOの乗っていたロードローラーの点を突く。

ドグッシャアアッ!

ロードローラーは一瞬で砕け散った。

「ば、バカなッ!」

DIOは俺の目の前に落下してくる。

「……きさま……どうして」
「『点』を突けばモノは一瞬で殺せるんだよ。『世界』だって例外じゃない。おまえが発動する瞬間に点を突いて『世界』を殺しておいた」

普段多く視えるのは死の線。モノが壊れやすい場所。

だが、死の点は正真正銘モノの死に場所だ。

混沌であるネロカオスですら一瞬で消滅させることが出来た死の点。

「動けるんだからロードローラーなんか落としてる間に悠々逃げてたんだよ。おまえは誰もいないところに攻撃してたんだ」
「……!」
「さて」
「食らえッ!」
「っ!」

DIOは自分の足を切り裂き血を放った。

「どうだ! この目つぶしはッ! 勝ったッ! 死ねいッ!」
「……残念だけど」

死の線や点は視覚に関係ないのだ。

目で視てはいるというよりも、それは感覚そのもの。

「終わりだよ」

俺は真っ暗な空間にある点を突いた。

それがDIOの死の点である。

ビシ! ビシビシッ!

亀裂の入る音がした。

「なっ……!」

バゴオッ! ビギベキベキッ!

視界がクリアになる。

ザ・ワールドにヒビが垂直に入り頭まで砕け散った。

「うぐおおおああああ!? なああにィィィィ!」

そしてDIOにも同じように亀裂が入っていく。

ドバアアアアアッ!

「ば……ばかなッ! ……こ……このDIOが……このDIOがァァァァ〜〜〜〜〜ッ!」

ドギャッパアアッン!

そしてDIOは完全に砕け散った。
 

「おまえの敗因は……たったひとつだよ……DIO。たったひとつのシンプルな答えだ」
 

それは承太郎に負けた敗因とまったく同じ理由。
 

「てめーは俺を怒らせた」
 
 

 
DIO…
『世界』
―――――完全敗北…死亡

TO BE CONTINUED……



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