あれ。

部屋の中には足があった。

女の子の足だ。

いや、もっと正確に言えば女の子が倒れている。

しかもそれは俺のよく知っている女の子であった。

「あ……アキラちゃん?」
 

どうしてアキラちゃんが……こんなところに?
 
 




「徐々に奇妙な冒険」
その56
「アナザーワン」








「アキラちゃんっ」

とにもかくにも俺はアキラちゃんに駆け寄った。

なんせペット・ショップやヴァニラとの激しい戦いがあったシュライン。

アキラちゃんが被害を受けてしまった可能性は大いにある。

「呼吸は……してるな」

手を口元へ近づけるとアキラちゃんの息がちゃんと感じられた。

「……よかった」

ひとまず胸を撫で下ろす。

けど同時に最初の疑問がフェードバックした。

どうしてアキラちゃんはここにいるんだろう。

「偶然にしちゃ……出来すぎだよな」

考えてもさっぱりわからなかった。

「気付くのを待つしかないか……」

そう思った時。

「ん?」

アキラちゃんの傍に落ちているスケッチブックに気がついた。

「なんだ……これ」

ページが開いていて、そこにはマンガが描かれているようだった。

『苦戦のすえ、ついにシエルさんと琥珀さんはヴァニラ・アイスとダービー兄を倒すことが出来ました』

「な……」

そこにはさっきの戦いが鮮明に描かれていた。

琥珀さんが第一部の例えをしたことも、先輩の武器をわざとヴァニラ・アイスに飲み込ませたことも。

「なんなんだ……このマンガ……」

ページをめくっていく。

ヌケサクにDIOのところまで案内させたこと。

DIOの不可解な発言。

最初の時間停止。

シオンがやられたこと。

そのマンガにはさっきまでの光景がほぼ完全に描かれていた。

「……トト神の……マンガ?」

エジプト九栄神のスタンドのひとつ、トト神。

ボインゴのスタンドで、未来を100%当てる予知のマンガが浮かび出てくるものだ。

「ボインゴは確か出てこなかったけど……」

このスケッチブックがそれだというのだろうか。

「……」

ページをめくる。

DIOとアルクェイドの戦い。

シオンの血をDIOが奪った事。

ザ・ワールドでアルクェイドが行動不能に。

そして――俺がDIOを殺した事。

「完璧だ……」

もしこのマンガが俺たちがDIOと戦う前に浮き出てきたものだったのなら、完璧な未来予知である。

「アキラちゃん、アキラちゃんっ」

このマンガの事を確認するためにも俺は慌ててアキラちゃんの体を揺すった。

「う、うーん……」

幸いにもすぐアキラちゃんは気付いてくれた。

「アキラちゃんっ?」
「え……」

ゆっくりと目を開く。

「っしししししし、志貴さんっ?」

アキラちゃんはものすごい勢いで後ずさっていった。

「あ、いや、何もしてない。何もしてないから」

慌てて弁解する俺。

ってこれじゃ余計に怪しいじゃないか。

「志貴さん……どどど、どうしてここにっ?」
「え、いや、それはむしろ俺が聞きたいんだけど」
「あ、え、う、え?」

かなり混乱してる様子のアキラちゃん。

「落ち着いて。まずは深呼吸」
「す、すーはー、すーはー」

素直に深呼吸してくれる。

このへんがアキラちゃんのいいところだよな。

「えっとそれで、ここは建設途中のシュラインなんだけど。アキラちゃんはどうしてここにいるの?」
「……シュライン」

首を傾げるアキラちゃん。

「! そ、そうだ志貴さんっ! スケブっ? スケブどこにありますかっ?」

アキラちゃんは俺の質問には答えず、そんな事を叫んだ。

「え、ええと、ここにあるけど」

俺は手に持っているスケブを見せた。

「そ、それですっ! そのスケッチブック! それに先の未来が全て浮かんでくるんですっ!」
「未来が浮かんでくる……?」
「は、はいっ。誰も描いてないのに勝手に絵が浮かんでくるんですっ」
「……」

間違いない。それはトト神のスタンドの能力だ。

恐らく元々予知能力を持っているアキラちゃんと共鳴するような形で発動したんだろう。

「……でも、この絵って」

トト神の絵とは全然違う絵だ。

なんていうか少女マンガみたいな感じ。

「わたしの絵の絵柄に似てるんですよね……」
「え? そうなの?」
「はい」
「ふーん……」

しかしスタンド能力を具現化させていた元凶、タタリは死んだわけで。

「もう大丈夫だよ。新しくページが出てくることはないから」
「え……そ、そうなんですか?」
「うん。もう終わったからね」

DIOの死んだ次のページをめくる。

「ほら、なんにも……」

そこにあるマンガを見て俺は鳥肌がたった。

「……続いてる……?」

DIOが死んだ後も予知のマンガは続いていた。

俺がアキラちゃんを見つけるシーン。

つまり今だ。

「どうして続いてるんだ……?」

タタリは死んだというのに。

いや、もしかして。

DIOを倒しただけではタタリは滅ぼせなかったのか……?

「ねえー。志貴ー? どこにいるのー?」
「……」

アルクェイドの声が聞こえた。

「シオンに聞いてみれば何かわかるかな……」

そう思い俺は立ち上がって叫んだ。

「アルクェイドー。こっちだ! こっち」
「……あ」

その時俺は気付かなかった。

アキラちゃんが恐怖に歪んだ表情をしていることに。

「こんなところにいたの志貴。あら? その子誰?」
「……瀬尾じゃないの?」

俺が答える前に秋葉がアキラちゃんを呼んだ。

「あ……あ」

がたがたと震えているアキラちゃん。

俺はただ秋葉に怯えてるのかなとしか考えていなかった。

「秋葉。怪我はもう大丈夫なのか?」
「ええ。シエル先輩のおかげです。琥珀も元気ですよ」
「あはっ。心配かけましたー」

秋葉の後ろからにこりと笑った琥珀さんが出てくる。

「さっきはごめんなさいねー。志貴さん。急に出てくるからびっくりしちゃいまして」
「いや、いいよもう」

普段のみんなのノリになんだか和んでしまった。

「はぁ。なんかどうでもよくなっちゃったな。ちょっと妙な事があったんだけど」
「妙な事?」
「ああ。トト神のマンガが……」
「違うんですっ!」
「?」

アキラちゃんが叫んだ。

その顔が鬼気迫る表情で、俺は思わずたじろいだ。

「違うんです……このマンガは……わたしが描いたものだったんです……」
「……アキラちゃんが?」

どういうことなんだろう。

よくわからない。

「全部思い出しました……! 皆さん、ここから逃げてください!」
「ちょっと瀬尾。わけがわからないわよ。ちゃんと説明しなさい」
「駄目なんです! ここにいたらみんな死んじゃうんですっ!」
「え」

自然とスケッチブックに目が行った。

『このままでは志貴さんたちは殺人鬼によってみんな殺されてしまいます』

「……」

新しいページが増えていた。

「一度起こった運命は変える事が出来ないんですっ! あいつが解除しない限りっ!」
「アキラちゃん……?」

アキラちゃんの言葉で俺は何かを思い出していた。

聞いた事がある言葉だ。

一度起こった運命は変えることが出来ない。

「どういうことなのよ瀬尾っ!」
「そ、それも聞かないで下さいっ! お願いですから逃げて! 逃げてくださいっ!」

必死の形相で叫ぶアキラちゃん。

「じゃないとみんな爆弾で……」
「……!」

爆弾。

殺人鬼。

一度起こった運命は変えることが出来ない。

「まさ……か」

まさかそんな。

あいつが……具現化したっていうのか?

「そのへんにしておいたほうがいいな。君。そのままではまたみんな死んでしまうよ」
「!」

部屋の外から声が聞こえた。

「あんたは……」

さっき会った警備員の人だ。

だが雰囲気が違う。

いやに軽い、ハイなテンションになっている感じがする。

「あ……ああああっ」

泣き声に近い悲鳴をあげるアキラちゃん。

だがそれで確信した。

こいつが……そうなのだ。

「ロールプレイングゲームで……もし何か失敗をしたら……リセットしてやり直すだろう? この男の能力は……最高の能力だよ。わたしは無敵となったのだ!」
「タタリ……だな。おまえ」
「え?」
「ど、どういうことなのですか? 志貴」

そしてこいつはおそらくアキラちゃんに仕掛けておいたのだ。

正体を探ろうとすると発動するそれを。

だが、生憎だった。

俺はアキラちゃんに聞かなくたってこいつの正体を知っているのだ。

「吉良……吉影っ!」

そう、こいつは第四部のラスボス吉良吉影だ。

今まで第三部をずっと続けてきていて何故突然こいつが出てきたのかはわからない。

けれどとにかくこいつを倒さないとまずいことだけはわかる。

「そう。彼女のマンガを読んだよ。これのせいでわたしは追い詰められたんだが……おかげでいい情報も得る事も出来た。君が私の事を知っていたということをね」

『志貴さんはその男の正体を知っていました。わたしにあいつの正体を聞かなかったので爆弾は発動しません』

「だから……賭けに出たんだ。一度起きた運命は変わらない。君はわたしの正体を見破ってくれる……フフフ。だから君にさっき仕掛けておいたんだ」

カチッ。

吉良はスイッチを押す仕草をした。

「わたしの正体を知っている人間はおまえしかいない……! おまえだけなのだっ! 遠野志貴!」
「!」

俺はその言葉の意味する事を悟ってしまった。

それはつまり。

「これで全員確実に死ぬ……時間が繰り返すのを待つだけだ! ハハ、ハハハハハハハハ!」

狂ったように笑い続けるタタリ。

「え……?」

全員の目の中にそいつの姿があった。

吉良吉影のスタンド、キラークイーン。

そして俺に仕掛けられていた第三の爆弾が発動する。

「キラークイーン『第三の爆弾』BITE THE DUST(負けて死ね)」
「うわああああああああああああああああああああっ!」
 
 

シエル…
死亡

遠野秋葉…
死亡

琥珀…
死亡

シオン・エルトナム・アトラシア…
死亡

瀬尾アキラ…
死亡

アルクェイド・ブリュンスタッド…
こっぱみじんになったが生死不明

遠野志貴…
パイツァ・ダスト発動により一時間前の世界へと逆行
 

TO BE CONTINUED……



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