これではっきりした。

タタリが意識を具現化していたのは、翡翠の意識だったんだ。

戦闘慣れしていない翡翠がジョジョを読んで思うのは恐怖の感情だった。

それに気付いたタタリは翡翠がマンガを読むのを邪魔されないようにスタンドを取りつけみんなを遠ざけた……と。

「……そういうことだったのか」

だがそれを知ってどうなるわけでもなかった。

翡翠がスタンドにうなされている間も敵スタンドは襲い続けてきたのだ。

つまり翡翠に気を失ってもらっても無駄ということである。

「あ、あの、志貴さま?」
「なんでもない……」
 

時間は刻一刻と迫り続けていた。
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その59
「アナザーワン・バイツァ・ダスト その3」









「残った手段は……アキラちゃんのマンガだ」

吉良よりも先にアキラちゃんのマンガを手に入れ、みんなに見せる。

そうすればみんなは吉良が敵だとわかり、パイツァ・ダスト発動前に倒す事が出来るだろう。

「志貴さま、何かあったのですか?」
「ごめん翡翠。本当になんでもないんだ。ちょっと聞きたかっただけなんだよ」

翡翠にこの先起こる事を話すわけにはいかない。

俺一人でなんとかしなきゃ。

「ですが……」
「大丈夫だから」
「……かしこまりました」

一歩下がり頭を下げる翡翠。

「ですがどうか無理はなさらないで下さい」
「うん、わかってる」

けれどこれから先、俺はかなりの無茶をしなきゃいけなさそうだった。

なんせアキラちゃんがどこで吉良にさらわれたかなんてわからないのだから。

「いや……待てよ?」

運命は同じように進行する。

「そうか……これなら」
「……?」
「あ、翡翠は屋敷でみんなの帰りを待っててくれればそれでいいから。じゃっ」

俺は一発逆転のアイディアを思いついた。

そうだ、俺の仲間は全員滅茶苦茶な攻撃力を持っているんだ。

吉良はいくら手ごわいスタンド使いと言っても本体はただの人間。

数分間あればいくらだって倒せるっ!

「諦めちゃ駄目だ。なんとかなる」

俺は自分に言い聞かせるように呟いて、そこへと急いだ。
 
 
 
 

「……」

シュライン前。

そこは静寂に包まれていた。

「もうすぐみんなが出てきちまう……」

ティナーサックスもヴァニラ・アイスも死んだ今、通路を進むだけなら簡単な作業である。

玄関を通り抜け階段を駆け上がる。

タンタンタンタン……

「はぁ……はぁ」

目指すのはあの場所だ。

あの場所へ……あの場所へ行きさえすれば。

ガシャアアアンッ!

「!」

ガラスの割れる音がした。

「DIOが落ちたか……」

あと数分で決着がついてしまう。

急がないと。

考えている間にずいぶんと時間を食ってしまった。

タンタンタンタン……

階段を駆け上がる。

あと少し。あと少しだ。

ばたんっ!

「……ここだ」

俺はようやく辿り着いた。

「ここの階にアキラちゃんが倒れていたんだ……」

偶然見つけたアキラちゃん。

一緒に落ちていたスケッチブック。

吉良に先に読まれていたって構わなかったんだ。

とにかくそのスケッチブックを手にいれて、みんなに見せればそれでいい。

数分あれば決着はつくのだ。

「……」

吉良がどこかにいるかもしれない。

俺は慎重に進んでいった。

「確かここの部屋に……」

いた。

アキラちゃんはあの時と同じように倒れている。

俺はアキラちゃんに近寄り、そばのスケッチブックを取った。

ページをめくる。

「……まだ写ってないか」

『苦戦のすえ、ついにシエルさんと琥珀さんはヴァニラ・アイスとダービー兄を倒すことが出来ました』

この後シオンがやられるところまでが写しだされ、その後に吉良の事が出てくるのだ。

「ってことは吉良は戻ってくるんだな……」

でなければ「俺が吉良の事を知っていた」という事実を吉良が知りうる事はない。

急がないと。

「ごめん……必ず助けるから」

アキラちゃんの髪の毛を軽く撫で、俺は立ち上がった。

とにかく急いでこのマンガをみんなに見せなきゃ。

ここまでの部分を見せるだけでも「このマンガに出てくる事は全て真実」と信じさせる事は出来るだろう。

俺は入り口へ向かって駆けだし……

「どこへ行くんだい?」
「……っ」

その声に思わず鳥肌が立った。

みんなが爆発していく中で狂気の笑いを浮かべていた男。

「吉良……!」
「ふっふふ。こんにちわ」
「そっちから出てきてくれるなんてな。いい度胸してるじゃないか」

メガネを外し七夜の短刀を抜いた。

俺だってこいつを一瞬で殺せる業くらいあるのだ。

「まあ待て。話を聞いてからでも遅くはないだろう? 君の名前は知らないが……キラークイーンが取り付いているのでね。話を聞かせてもらいたいんだ」
「……」
「そういえば彼女のマンガに君のような男が描かれていたっけな。彼女のマンガはとても魅力的だ。手の描き方など特にね。思わず勃起してしまうくらいにね」
「最低な奴だな」

こんなやつと話してると反吐が出そうだ。

「君はわたしの名前と能力を知っているのかね?」
「知っているさ。吉良吉影。最悪の殺人鬼だよ」
「その通りだ。素晴らしいね」
「もういいだろう。おまえは殺す」
「殺す? ははは、無理だね。もう終わっているのだから。バイツァ・ダストは無敵なのだよ」
「終わって……?」
「そう。既にバイツァ・ダストは発動しているッ!」

そこで俺は奴の後ろにいるある姿を見てしまった。

「志貴さま……申し訳ありません……心配で来てしまいました……」

それは翡翠だ。

彼女は吉良の事を知っているからバイツァ・ダストは発動しない。

しかし。

「さっき偶然彼女らと出会ったんだ。わたしがこのビルの管理者だと名乗るとあっさりついてきてくれたよ」

彼女ら。

そう。翡翠の後ろにもう一人いたのだ。

「レン……」

使い魔レン。

彼女は途中から姿をずっと見せていなかった。

恐らく彼女は非力な翡翠を守っていたのだろう。

「……終わりだ」

吉良がスイッチを押す仕草をした。
 

「くそっ……畜生……!」
 

そしてまた世界は一時間前へと戻された。
 
 

TO BE CONTINUED……



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