「……ふふふ」

吉良吉影はモーツアルトのピアノ協奏曲27番を聞きながらマンガを読んでいた。

それは瀬尾晶という少女の描いたマンガだ。

「面白いマンガだ……絵が浮き出てくる理屈はよくわからないが……未来を暗示しているとはね……」

吉良の読んでいるページには瀬尾晶がバイツァ・ダストを取り付けられたシーンが描かれていた。

「この後彼女の仲間たちがバイツァ・ダストで破壊される……しかし遠野志貴は何故かわたしの事を知っていたので爆破出来なかった……」

ページをめくる。

『そこで吉良吉影はバイツァ・ダストを遠野志貴に取り付ける事にしました。これなら完璧です』

「なるほど……わたしは既に遠野志貴という少年にバイツァ・ダストを取り付けたのか」
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その60
「アナザーワン・バイツァ・ダスト その4」











吉良吉影はバイツァ・ダストはどこで誰を爆破しようとわからない。

過去に戻ってしまえば誰にバイツァ・ダストを取り付けたかもわからないのだ。

「このマンガは本当に素晴らしいよ……」

だがこのマンガには吉良が誰にバイツァ・ダストを取り付けたのかが明確に描かれている。

「そろそろ時間か」

吉良は時計を眺めた。

『そしてついに遠野志貴にとりつけたバイツァ・ダストが発動! 遠野家ご一行は全滅だぁーッ!』

そしてその瞬間どんっ、と爆発音が響いた。

「ふふ……ふふふ」

未来がわかる。それは吉良にとって素晴らしい道具だった。

「わたしは無敵になったとは言ったが……まだ不完全だったんだな。だが今まさに完璧になったと言える!」

バイツァ・ダストで飛ばされるまでの未来が吉良にわかる。

誰が死ぬのか明確なのだ。

「平穏を手に入れるには最高の道具だよ……」

吉良が人を殺しても問題ないかを確認できる。

「わたしにとって重要なのは平穏な人生が送れるかどうか……だ。そしてその障害が全て取り除かれた! ふふふ、ははははは!」

吉良の口から笑いがこぼれた。

これからは殺す前に安全かどうかを確認出来るのだ。

彼は人を殺したいという衝動を抑える必要がなくなるのである。

「……そいつはまだだ。俺が残っている」
「おっと。そう言えばそうだったな」

最後の障害を取り除けば吉良の願いは実現する。

「遠野志貴君。君を殺せばフィナーレだ」
「ああ。おまえのバイツァ・ダストのせいでみんな死んじまったからな」
「そうか。それは気の毒な事をしたね」
「心にも思ってない事を言うんじゃない」

目の前にいる少年、遠野志貴がメガネを外し短刀を構えた。

「安心したまえ。この吉良吉影が仲間と同じ所にすぐ送ってやろう」

吉良にとってスタンドも持たない少年を殺すなど造作もない事だ。

遠野志貴に取り付けたバイツァ・ダストを解除し、キラークイーンの第一の爆弾で……

「……?」

そこで吉良はある違和感に気がついた。

「どうしたんだ、吉良」
「何故だ?」

遠野志貴についているはずのキラークイーン・バイツァ・ダストを解除できない。

いや。

「何故キラークイーンがわたしの傍にいる?」

吉良吉影のスタンド、キラークイーンはバイツァ・ダストを解除していないのにも関わらず吉良の傍に立っていた。

「どういう事か理解できてないようだな。じゃ、ついでにもうひとつ驚いてくれ」

志貴が指を弾く。

「ん? なに? もう出てきていいの?」
「兄さん……どうして私たちが隠れていなければいけないんですか?」
「まあ、あの遠野君がどうしてもと言うくらいですから何かあるんでしょうけれど」
「志貴。説明を要求します」

そして彼女らが現れた。

「ば……バカなっ!」

吉良が叫ぶ。

「貴様らはバイツァ・ダストで始末されたはずだっ! 何故生きているっ!」
「……始末されたのは前回吹っ飛ばされた時だろう?」
「バイツァ・ダストの中では同じ運命が繰り返されるっ! 前の運命でそいつらが吹っ飛ばされたのなら必ず吹っ飛ばされるはずなのだッ!」

バイツァ・ダストが発動している限り同じ運命は繰り返される。

今目の前で起きているような光景はあり得ないはずなのだ。

「ああ。バイツァ・ダストがちゃんと発動していたらな」
「バイツァ・ダストは確かに貴様に取り付けたはずだッ! 解除もしていないッ!」
「確かにおまえはバイツァ・ダストを解除してないさ」
「ならば何故だッ!」
「俺がバイツァ・ダストを殺したからだよ。バイツァ・ダストは自動攻撃だから倒しても本体には影響がない……だからこうやっておまえ本体を倒しに来たんだ」
「バカな……バイツァ・ダストは無敵の能力だッ! 貴様らごときに破れるはずがないッ!」
「ああ。マトモになんとかしようとしたら確かにやばいスタンドだよ。正直俺も諦めかけてた。けどな」

遠野志貴が不敵に笑う。

「状況限定でとんでもない力を発揮できるスタンドっていうのがあるんだ。知ってるか? そいつはその状況下ならどんな事でも出来るんだよ」
「何を……何を言っている!」
「お前もタタリの一部だろう? 一度は具現化したじゃないか。わからないのか?」
「……」

吉良、いやタタリは思考を巡らせた。

そのようなスタンドが存在しただろうか。

どんな事でも可能なスタンド。

それが可能ならば真祖の姫君をも凌ぐ力を持つ事になる。

「わからないなら教えてやるよ。おまえが最後に吹っ飛ばした少女が決め手だったんだ」

ちりんと鈴の音が鳴った。

黒い衣服に身を包んだ少女。

「そいつは……」

タタリは思い出していた。

そいつの姿はここではない世界で見た事がある。

「夢の中ならどんな事でも可能な……なんでもありのスタンド。それは死神13さ」

他人の夢の中でのみ力を発揮出来るスタンド。

タタリは以前そいつを具現化していた。

そして後一歩で志貴を倒せるところをこの少女に邪魔をされたのだ。

夢魔……レンに。

「俺の夢の中で死神13を呼んでもらったんだ。死神13のルール。起きてる時に発動していたスタンドはそのまま夢の中へと持っていく事が出来る」
「……まさか」
「そのまさかだよ。俺にくっついてたバイツァ・ダストごと夢の中に運んでいって……なんでもありの夢の中の世界でバイツァ・ダストをバラバラにしてやった」

死神13のいる夢の世界での出来事は現実へも反映される。

「見事俺にくっついてたバイツァ・ダストはいなくなってくれた。……ちなみにさっきの爆発はお前を誤魔化すためのものでね。置いてあったバイクの持ち主には悪い事をしたけど」
「きさま……貴様ァアアアッ!」
「ま、違反駐車だったからしょうがないよな」

吉良は志貴へ向けてキラークイーンを放った。

「……無駄なんだよ」

志貴が大雑把にナイフを振るう。

「キラークイーンの死の線は夢の中でもう見終ってるんだ。まったく同じ所を切ればそれで終わる」
「な……」

吉良の目の前でキラークイーンがバラバラに砕け散っていった。

「夢の中でのそれは自動攻撃だったから倒しても本体に影響はなかったけど……こいつは」

スタンドと本体は基本的に直結している。

そしてそのスタンドが滅んだ今、吉良吉影本体は。

「……」
「死んだの?」
「ああ」

二度と動かない屍となっていた。

「こいつの最大の不幸は……真祖すら殺した殺人鬼を相手にしちゃったって事でしょうね」

アルクェイドが一言そう呟いていた。
 

吉良吉影…
『キラークイーン』
―――――完全敗北…死亡
 

TO BE CONTINUED……



感想用フォーム 励みになるので宜しければ感想を送って下さいませ。
名前【HN】

メールアドレス

更新希望ジャンル
屋根裏部屋の姫君   徐々に奇妙な冒険   美汐ちゃんのアルバイト   短編    ほのぼのSS   シリアスSS
その他更新希望など(なんでもOK)

感想対象SS【SS名を記入してください】

感想、ご意見【良い所でも悪い所でもOKです】



続きを読む

戻る