「震えますハート! 燃え尽きるほどヒート! 刻みます血液のビート! 食らいなさいっ! 山吹色の波紋疾走ッ!」
「ギャアアアアアアアアアッ!」

ムチが山吹色に光り、秋葉をより締め付ける。

「波紋……波紋だって?」

吸血鬼も実在していれば、波紋も実在していたっていうのか。

「……これは迂闊だったよ。まさか波紋とやらも具現化してしまったとはな。ここは大人しくやられるとしよう……だが……悪夢は続く、ヒャハハハハハハハハ!」

偽秋葉はそう叫びながら黒いどろどろとしたものへと変わっていき、やがて塵と化していった。
 
 





「徐々に奇妙な冒険」
その6
シオン・エルトナム・アトラシア






「や……やったのか?」

シオンに尋ねる。

「秋葉の偽者は倒しました。……ですが、本体は無事です」
「……本体」

またずいぶんとジョジョっぽい単語である。

「ですが暫くは安心でしょう。すべてを説明します」
「ああ、うん、頼む」

ごちゃごちゃしてて何がなんだかわからなくなっていたところだ。

「では場所を変えましょう。……ここは風が強いです」

よく見るとシオンは冷静な顔をしていながらも必死でスカートを抑えているようだった。

ちょっと笑いそうになってしまったがなんとか堪える。

「わかった、うん。行こう」

そんなわけで俺たちはビルの一番下まで降りていく。
 
 
 
 
 

「まず、貴方の最近よくないことが起きていませんか?」

人のいないところまで移動してシオンがそう切り出した。

「あ……ああ。うん。俺だけじゃなくて、みんなそう言ってる」

でもそれが何の関係があるんだろう。

「実はそれはタタリという吸血鬼のせいなんです」
「タタリ……吸血鬼?」
「ええ。タタリは実体を持たない吸血鬼で、人の噂、イメージ、空想を具現化し、それを利用して吸血行動を行います」
「……じゃ、じゃあ。さっきの秋葉は俺のイメージしたものをそのタタリってやつが具現化したと?」
「そうです。だから不吉なことは考えるなと言ったのに」

ため息をつくシオン。

「そ、そんなこと言われたって。考えるなって言われると余計に考えちゃうよ」
「修行が足りませんね遠野志貴。それでもあなたは殺人鬼なんですか?」
「え」

俺は息を呑んだ。

「……どうしてそれを?」
「ああ。すいません。フェアじゃないですね。話しましょうか」

パチンと指を弾くシオン。

「実はわたしには特殊な能力がありまして。この……エーテライトを使って人の思考、記憶を覗くことが出来るんです」

シオンの手には確かに細い糸のようなものが握られていた。

「最初に遠野志貴に会ったとき、この街の情報を得よう思い、つけさせて貰ったんです。驚きました。まさか真祖すら殺せる存在だったとは」
「あ、あれはたまたまだよ。それに俺は殺人鬼じゃない。能力は確かにあるけど無闇に使ったりしないんだ」
「……そのようですね。今の貴方を見ているとそう感じます」

再びため息をつくシオン。

「とにかく、もうエーテライトは外しました。安心してください。……ですが話を続けて聞いてくれると助かります」
「ああ、うん。まだ肝心なことが全然わかってないから話は聞くよ」
「そうですか。では遠野志貴。貴方のほうから何か聞きたいことはありますか」
「……えーと、まずそのフルネームで呼ぶの止めてくれないかな。どうにもしっくりこなくてさ」
「ではなんと呼べば?」
「志貴でいい」
「………………志貴」

何故だかシオンは顔を赤らめていた。

「ありがとう。じゃあ聞くけど。シオンはそのタタリについてなんでそんなに詳しいんだ? あっちもシオンを知っているみたいだったし」
「……タタリは三年前、わたしの住んでいたところを滅ぼしたんです」

理由はそれだけで十分である。

「ご、ごめん、俺」

辛いことを聞いてしまったようだ。

「いえ、気になさらず。それに、漫画を具現化したのはかえって好都合でした」
「え?」
「タタリは具現化するのは人のイメージ。石仮面があるのなら、波紋だってあるだろうと志貴はどこかで考えていたんでしょう。だからわたしは波紋を使えた」
「つまり……タタリは弱点まで具現化しちまったってことか」
「ええ。人のイメージを曲解しますが、ほぼ完璧に具現化するのがタタリの能力ですから」
「なるほど……」

それならうまくイメージすればタタリを倒すことも可能なのかもしれない。

「そしてタタリは次のターゲットを、この街、いえ真祖としました」
「あ、アルクェイドを?」
「そうです。弱点まで具現化してしまうのがタタリの弱点。しかしタタリが真祖の体を得られれば、敵の存在しない究極の存在となるでしょう。それを目指しているのです。奴は」
「……」

俺の頭の中に「このくそったれ野郎の首から下はわしの祖父ジョナサン・ジョースターの肉体を乗っ取ったものなのじゃあ―――ああっ!」というジョセフのセリフが再生された。

「ですからわたしはなんとしてもそれを止めなくてはなりません。タタリは人の強いイメージがなければ発現しないんです。ですが……」
「……俺がイメージしちまったから、出てきたと」
「いえ。この街すべての人々が不安を感じていた。地盤はもう出来てしまっていたんですよ。志貴が悪いわけではありません」
「そ、そうか」

そう言われると少し気が楽になった。

「ただ、一度具現化した以上、すぐに次の具現化もするでしょう。ですから志貴……」
「わかってる。協力するよ。タタリって奴を倒すために」
「い、いいんですか?」
「ああ。俺がイメージしたのも悪いけど、秋葉の偽者になったってのは気に食わないし、アルクェイドを乗っ取られたらもっとたまらない」

それに自分の住んでいる街を荒らされるのは腹が立つものだ。

第四部の人たちの心境がわかった気がした。

「そうではなくて……その、巻き込んでおいてなんですが、わたしの言葉を信用するのですか?」
「え? ……いや、だって、さっきのあれはどう考えても普通じゃないし。タタリってのは確かにいるんだろ?」
「ですから、それはわたしがそうだと言ってるだけで……」
「シオンは嘘をつくようには見えないよ。俺につけてたエーテライトとかいうのだって外してくれたんだしさ」
「……」

シオンはなんともいえない表情をしていたが、くすりと笑った後、凛とした表情へと戻った。

「……ありがとう。助かります。ではさっそく行きましょう志貴」
「え? ど、どこに?」
「鈍いですね。タタリは真祖の体を狙っていると言ったでしょう」
「あ、そっか……」

つまり次にタタリが出現する可能性が高いのはアルクェイドの近くなのだ。

「そういうことです。行きますよ、真祖の家に」
「いや、そっち逆だから」
「わ、わかってますっ! ちょっとしたジョークですよっ!」
 

シオンは顔を真っ赤にして怒鳴るのであった。
 

続く



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